それでもまだ・・・
親友、Tさんのこと (2月9日)
ぽかぽか陽気に誘われて、一人で 隣町の大型ショッピングへ。
土曜日のことで駐車場は、満杯状態。店内入り口から、う~んと離れた外柵きわに駐車。
冬物の一斉バーゲンセールを展開中で、にぎわっていたが
これといって何も買い物はなく、ブラリとひとまわりした。
暖房が効いているので、のどが渇いてアイスクリームを買って、ベンチで一休み
この近くに住んでいるTさんのことがふっと頭に浮かんだ。
ひさしぶりに行ってみようか・・・
「 あ~、Tさん? 元気にしとる? いまね、すぐ近くまで来ているけど・・・」
「あら、杏子さん!!ひさしぶりねぇ いまからおいでよ!!」元気そうな声にホッ!
時計をチラリ、もう15時頃のことだったが、ふかふかのパンをおみやげに、
いそいそと車を走らせた。
Tさんとは、もう40年以上のお付き合いで、お互いに子どもの保育園時代からの友人。
8才離れたお姉さんのような思いでいる。
玄関前に車を寄せると、もうTさんが出迎えていて、その心使いがうれしくて
二人で手を握りしめあった。
5~6年位前に、癌で亡くなられたご主人を、いまも思い出すたびに涙で曇るめがね。
ハンカチでぬぐう仕草が、愛おしくてたまらない。
あいかわらず、きれいに整理された玄関へ。
見慣れた廊下をつたって、いつものキッチンへ行く
??・・・ そこが一変しているのに、唖然となってしまった。
大きなテーブルの上は、ところ狭しと物置に変身していた。
食品、くだもの、調味料、ふくらんだままのスーパー袋、食べかけのご飯とおかず、そして一人暮らしなのに、あいかわらず大きな鍋がで~んと座っていた。
雑然としたままだ。
流し台には大きな鍋や、お皿、お玉、食器類などが、これまた放置されたままだった。
いったいどうしたことか?
あの几帳面だったTさんの異変がとても気になった。
居間のまわりは、洗濯物が山積み、新聞、雑誌、、食器類、衣類、未開封の郵便物、バックなどがあふれていて、テレビはガンガンとなりっぱなし・・・
Tさんは、「ほら、早くこっちにおいでよ」と座布団を2枚 だしてきたが・・・
絨緞の上には、小さい異物が散らばり、座る場所もないような状態だ。
「いったいどうしたの?」と言いそうになり、あわてて口をつぐんだ。
1週間に2回、近くのディケアから8時半にお迎えが来るからと下着や、洗面具等をそろえて
「お化粧もちゃんとして、身だしなみも済ませて待っているのよ」というのだが、
同じ話しの繰り返し、いま話したことをまたたずねては感心している。
しばらくすると
子供さんは、もういくつになったの?結婚したの?孫さんは何人?と矢継ぎ早に聞くので
どうどうめぐりもいいとこ、めんくらってしまった。
老いとは、こうしてやってくるのか?と悲しさが先に湧いてきた。
長男さんはもう50歳近くでまだ独身、二男さんは子ども連れの女性と結婚し、
バスの運転手で東京方面への深夜バス勤務で、なかなか実家への帰省もままならぬらしく、
Tさんは寂しい一人暮らしが続いている。
いずれ、だれでもこうなる宿命を背負っているとは思われるが、
それにしても寂しいだろうなぁ・・・
話に夢中になり、時計はもう17時近くになっていた。
「じゃぁ またね」と帰りかけたが、
「なんのおみやげもないけど、これ持って帰ってネ」とさしだしたのは、わたしが
おみやげにと差し上げた、ふかしたてのパン。
もう冷たくなっていたが、しきりにすすめる・・・
わたしからTさんへのおみやげだったとはわからないらしい。
それをしきりにおみやげに持って行ってという、Tさんの横顔をみていると、
悲しさばかりが溢れてきた。
またきてね!とTさんがにっこりして手をふる。
車のバックミラーには、Tさんの姿が、小さくなるまで写っていた。