映画「The invisible Man」(邦題「透明人間」)を観た。
透明人間モノというと、お金を盗んだり覗き見をしたり、兎に角下世話な作品が多かった。それだけ人々の間に透明人間願望があるということなのだろう。そしてその反面で透明人間になってしまったら社会から認知されない不幸を描く側面もあった。そう言えば昭和に一斉を風靡した女性デュオのピンク・レディーに「透明人間」という歌があった。
透明人間という言葉には人それぞれのバイアスがあると思うから、邦題の「透明人間」は、もしかしたら損をしているかもしれない。原題の「The Invisible Man」の直訳で「見えない男」にするか「姿のないストーカー」くらいでもよかった気がする。
本作品はこれまでの透明人間モノとは一線を画していて、ホラー、それもかなり怖い部類のホラー映画に仕上がっていると思う。そして主人公セシリア役のエリザベス・モスがとんでもなく上手な演技で孤立無援の恐怖感を共有させてくれる。本当に観ていてかなり怖かった。
窮鼠猫を噛むの諺の通り、どんなに弱くて力の差があっても、生き延びるためには大人しくやられっぱなしではいられない。序盤を観て一方的な展開かと思いきや、実はそうではない。セシリアは暴力にひしゃげてペシャンコになるような弱い人間ではなかったのだ。物語を通じて変わっていくセシリアが一番恐ろしいと言っても過言ではない。主演女優賞クラスの演技だった。
ストーリーは面白いし、思い切りがいい。容赦ないと言っていいシーンがいくつかある。次にどうなるのかを頭の中でいくつか候補を考えながら観ていたが、予想を裏切られるシーンが多かった。ツッコミどころはいくつかあるけれども、見えないためのメカニズムや、見えない男の不気味な振る舞いなど、いくつかのアイデアは素晴らしい。いろいろな面で新しい作品だと思う。
サイコスリラーというジャンルで宣伝されているが、凡百のホラー映画よりもよほど怖い作品なので、ホラー映画の傑作と位置づけたい。