本の奥付に東京生まれと書いてあるせいか、小室直樹はシティボーイだと思われているが、実際はズーズー弁の会津で育った。鼻っ柱が強くて、原理原則にこだわる会津っぽである。その小室の代表作というのは、いうまでもなく、大ベストセラーとなった『ソビエト帝国の崩壊』である。しかし、熟読されているかというと、そうでもなさそうだ。小室は「日本を滅ぼす“平和・中立”の虚構」という章で、「外務省は首相から独立している必要がある」と述べているからだ。鳩山政権は脱官僚を旗印にしているが、そうした主張を小室は一蹴するのである。時の政権に左右されるのではなく、「国レベルのものでなければ、十分に機能することができない」と考えるからだ。小室が引き合いに出すのが、議会制民主主義の本場イギリスである。イギリスでは外務大臣が外務省の会議に出席することができないのだという。それでいて、次官以下のプロ集団と外務大臣は密接に結びついている。事務的なファイルには目を通せなくても、事務当局の代表者から合理的な説明を受けることができるからだ。政治家が何かを決める場合には、「プロ集団としての外務省が加工し、一定の評価、判断をして、政治的なレベルに持っていく」というプロセスが重視されるのである。鳩山政権や民主党は、外交問題にまで選挙や政局を持ち込んで、むやみやたらと口を出した。普天間の移設問題が暗礁に乗り上げてしまったのは、プロ集団の意見に耳を傾けなかったからだ。素人ばかりで日本丸を動かそうというのだから、「お子様外交」と揶揄されてもしかたがないのである。
鳩山政権や民主党を国民はもう支持しなくなっているが、ここにきて次の首相候補として急浮上してきたのが、舛添要一前厚生大臣である。彼は根っからの憲法改正論者であり、自民党の試案をまとめている。それだけに、命がけで取り組んでくれれば、応援するのもやぶさかではない。アメリカから押し付けられた憲法ではなく、日本が自前の憲法を持つことは、真の意味で日本が主権を回復することでもあるからだ。しかし、在住外国人の地方参政権の付与法案については、舛添は賛成だともいわれており、その点がネックになっている。公明党の機関誌である「潮」の最近号に登場したことも、保守派から不信感を持たれる原因になっている。国際政治学者としての舛添は、隣国中国や韓国との付き合いが、シビアなものであることを熟知しているはずだ。国論を二分してまで強行すれば、将来に災いの種を残すだけだけであり、熟慮を重ねて対応すべきなのである。また、舛添の「民主党のばらまき政策でさらに日本経済は悪化の一途を辿ってい る。今の不況は、小泉改革が原因ではなく、構造改革が徹底しな かったことが原因なのである」との主張にしても、その前提としては、日本の根本を守り育てるためにという哲学がなければならない。舛添は日本の保守のリーダーとして、首相を目指すべきでり、間違ってもリベラルに与すべきではない。鳩山首相の二の舞になることだけは、何としても避けなければならないからだ。