大前研一なる商売人は、金持ちを優遇しろという。そうすれば日本の国全体がよくなるのだという。高田保馬の『民族耐乏』を読んだことがないから、そんな見方をするのだろう。貧乏人こそがチャンスに恵まれているのであり、根性が鍛えられるのである。高田は「出生率は文明の高い国民ほど、また国内に於てもそれらの高い都市ほど、高い階級ほど減少する。長い眼で見ると、結局これらの文化や富の高いものは滅亡し又は凋落してゆく。国民も、大都市も階級も失はれて行くものに下層のものが上昇して代位する。かくて国家又は民族相互の間にも、階級の間にも都市村落の間にも人口学的征服が行われてゆく。弱きものは弱気がゆゑに強きものに取代ることになる」と書いたのだった。それが高田の「階級周流論」であり、「民族周流論」の一部をなす考え方であった。栄枯盛衰を社会科学的に究明したのである。頭が良くて、金があって、地位がある者たちが、そのまま子孫に受け継がれるのであっては、味もそっけもない。「自然は平等を好む」というヨーロッパの学者の言葉まで引き合いに出して、高田は論陣を張ったのである。世の中はうまくできているのだ。それに逆らのは、逆流を泳ぎ切ろうとするほどに、難しく困難なことなのである。金持ちが金持ちのままでいたくて、海外に移住する。それもいいだろう。そこまでしても、最終的には徒労に終わるだけなのだから。
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