茶会の易社席に掛けられるお軸(写真)をみると、小舟二槽がゆるりと山河に浮かんでいる。
この画は、南宗画の大家といわれる「費晴湖(ひ せいこ)」が描いたものである。清代中期に活躍した画家で、江戸時代中期に日本に渡来し南宗画様式の技を伝えた、という記録が残っている。
文人画らしい自由な表現で描かれているのが見てとれる。南宗画独特の大らかさがある。
その画の賛に李白の、あの有名な「早発白帝城(つとに 白帝城を 発す)」の詩の一節が書かれている。
その原文が下記のものである。
朝辞白帝彩雲間
千里江陵一日還
両岸猿声啼不住
軽舟已過万重山
朝早くに、美しくあざやかな雲のたなびく中、白帝城をあとにした。
千里の彼方にある江陵まで(激流の川下りで)一日で帰ってきた。
両岸で鳴く猿の声が、まだ鳴きやまないうちに軽快な小舟は、
いつくもの連なった山々を、すでに通過してしまった。
という解釈になる。
李白の心情をこの詩から読み取るなら、「千里江陵一日還」である。小舟で千里を一日で下れるわけがないのに、この一節では一日で下った、と書いている。リアル感よりスピード感を表現したかったのだろう。
左遷され赴任先に行く時の心境なのか、また赴任先から帰路につく時の心境なのか。つまりいままでの雑踏の俗界を猿の甲高い泣き声に例え、それからやっと逃れ、大河に辿りついた様を表現した内容のようである。
費晴湖が描いた画と、李白の詩が見事にマッチしている。李白の心の空白をこの詩で表現。俗界から離れてゆく喧騒感の寂しさと喜びとが交錯しているようにも思える。このお軸から費晴湖と李白の心情を読み取りながら飲む煎茶は喉に沁みる。
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