:〔続〕ウサギの日記

:以前「ウサギの日記」と言うブログを書いていました。事情あって閉鎖しましたが、強い要望に押されて再開します。よろしく。

★ 映画 「マリア」 - 「処女懐胎」 嘘、ほんと ?

2008-07-03 12:13:03 | ★ 映画評

  (その-2)



「マリア」 を観て何気なく感想を書いたら、今年11月10日にブログを再開して以来、細々と読まれていたこのブログに、私にしてみれば驚異的な数のアクセスがあって、戸惑っています。そして、あの映画のテーマの一つである 「処女懐胎」 を取り上げたことが、不特定多数の読者の関心を呼んだのではないかな、と勝手に想像しています。
キリスト教の原理主義的、教条主義的な押し付けとしてではなく、現代人の常識と、批判精神に立った切り口が共感を呼んだのだとしたら、実に光栄です。



それで、もう少し気を入れて、補足的に展開してみたいと思いました。


ラテン語のことわざの 「人は誰も理由無しには嘘をつかない」 つまり、 「特に理由がなければ、普通、人は自然に本当のことを話す」 、と言う定理から、 「だからマリアの処女懐胎の話は本当らしく思われる」 と言う主張は、前のブログを読んでいただければ、納得する人は納得して下さるでしょう。
姦通の現行犯で取り押さえられた女が、キリストの前に引き出された、と言う話は、私のブログ 「イタリア人神父のブラックユーモア or 悪魔祓い」 で取り上げたとおりです(10月23日)。
そこでイエスの前に仕掛けられた罠とは、 「可哀想だから赦してやれ」 と言えば、イエスは律法をないがしろにするから神からの人ではない、と言う非難を招き、 「律法に定められたとおり、その女を石打ちの刑で殺してしまえ」 と言えば、愛も憐れみもない残酷で反社会的判決、として非難される、と言うものでした。それに対して、イエスは 「お前たちの中で罪を犯したことのないものが、先ず、この女に石を投ぜよ」 と言う言葉で応じました。すると、年寄りから初めて、一人、また一人とその場を去っていって、あとにイエスと女だけが残った、とあります。
たしかに、モーゼの律法には 「こういう女は石で打ち殺せ」 と書いてあります。しかし、もしその通りに律法を守ったら、当時のユダヤ人社会で、なんと多くの娼婦と人妻が石殺しにされねばならなかったことでしょう。第一、娼婦たちが町から消え、人妻たちが死を恐れて誘惑に応じなくなれば、一番困るのは男たちです。だから、当時、この手の律法は実質的にはほとんど守られてこなかったろうと思われます。
婚約中に姿を消し、6ヵ月後に戻ってきたときには妊娠していたマリアが、ローマ兵に手篭めにされた、とか、つい出来心で旅先のユダの町の男とできてしまった、とか言えば、普通に起こりうることとして、彼女も殺されるところまでは行かなかったに違いありません。



それが、こともあろうに、 「天使が現れて、聖霊によって子を宿した」 などと口走ったものだから、円く収まる話も収まらなくなってしまった。

それは一見、私に宿っているのは 「メシヤ=待望の救い主」 で、強姦されたのでも、不義密通でもない、と身の潔白を主張しているかのようですが、それを聞いた当時のユダヤ人からすれば、言うことに事欠いて、神のせいにするとは怪しからん、この大嘘つきめが。 こればかりは、見逃すことも、生かしておくことも出来ない。石殺しにしないでは収まりがつかない、と言う険悪な事態にエスカレートすることになります。
あの時代のパレスチナに生きたマリアは、13歳ほどの幼さであっても、自分の言っていることが如何に危険な結果を招くかぐらい、読めないはずはありません。それでも、命がけで本当のことを告げる他はなかったのです。それでも、嘘をついて命を長らえるより、真実を告げて殺されることを敢えて選ぶ彼女のひたむきな信仰こそ哀れです。その彼女にとって幸運だったのは、一人、許婚のヨゼフだけが、この真実を読み取ること、したがって、彼女をこの窮地から救い出だすこと、が出来たのでした。映画では、ヨゼフはそんな彼女を妻として愛し、同じ運命と苦難を共にすることになっています。



お釈迦様が凡人並みに女の性器から生まれてきたのでは有り難味がないから、母の摩耶夫人の脇から生まれたことにしておこう、などと言う、根拠のない作り話をするのとはわけが違います。

マリアの 「処女懐胎」 が、同じような次元で、キリストを神格化するために、聖書作者たちが後で考え付いたただの作り話だとするには、あまりにも設定が異常であって、当時の社会情勢を考えに入れれば、全く成り立ち得ない意外性に満ちた話であると言わざるを得ません。私はそう考えてこの話を納得しています。さてあなたはどう思われますか?

(お断り: このブログの写真は映画館で求めた600円のプログラムからです。)

コメント (7)
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