眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

平成揚一番

2020-01-10 15:51:00 | 短い話、短い歌
 とうとう夢は叶わなかった。地球を身につけることはできなかった。一つの星を与えられることはなかった。働くところはなくなった。次々と新しいものたちに追い越され、生身の感覚を口にすることも少なくなった。恋する人はみんないなくなってしまった。納めるものはない。落ち着くところは見当たらなかった。否定が飽和を迎えた。希望が底をついた。長く眠った。最後にたどり着くところはとてもシンプルなものだ。それは一番最初の頃の澄み切った感触の中にあったもの。ああ、何とも何気ない。



人はみな揚一番を食うものと悟り最後に一つ平成
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仮装マンション

2020-01-10 09:11:00 | 夢追い
 3日振りに帰ってきた。
 エントランスを抜けてしばらく行くと通路は記憶よりも長かった。エレベーターが3つに増えている。ボタンを押すとすぐに下りてきて扉が開いた。10人は乗れるほど広い。すぐに7階に着いた。乗り込んでくるスーツの男に無言でおじぎをした。特に反応はなかった。区役所に来たようにざわついている。何か様子がおかしい。705号室の入り口はどこにもない。

不良少年課、交通トラブル課……。なんだ? ここは警察か? きょろきょろしているとちょうど孤独な部署に腰掛けて彫刻を掘る社員の姿が目に入った。売り出し中の若手芸人のように素朴な顔だ。近づいていくと青年は手を止めて顔を上げた。

「どうなってるの? ここはマンションじゃないの?」
「変わったそうです。一度出ていってもらって後から順に呼び戻されるそうですよ」
 そんな……。
「えーっ? じゃあそれまでどうすればいいんですか」
「いやー。僕はちょっと……」
 青年は気まずそうに言って顔を伏せた。
 それが答えか。
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