照る日曇る日 第914回
いつもならどんな短編でも最初の1行目から最後の1行まで耽読して、「良かったな、素敵な翻訳だな。ああこれが小説の醍醐味というものだな」、と軽いためいきのようなものが出てくるのがこの作家の本を読むときのならいであったが、残念ながら今回はそうばならなかった。
相変わらずヒロインの人物描写は的確で鋭く、作家の筆に引き込まれて、おのずからその身の上を他人事とならず体感させられてしまう成り行きは不変だが、今回はプロットがいささか強引に過ぎる作品が混じっていて、時折読むのをやめて「マジカよ」と呟かずにはいられなかった。
よく知られているように、アリス・マンローという作家は、主人公の身の上に格別の事件などを配さなくても、彼女の日常生活を淡々と描いているだけで、人生の深淵を垣間見せ、その恐ろしさを夜空の稲妻の炸裂のように開示できる恐るべき魔法の持ち主である。
そんな作家が、例えば知り合ってちょっと会話しただけの人物が突如鉄道事故を引き起こしたり、一卵性双生児や霊能力者まがいの人物を登場させる、などのいかにも物語的な技法、悪くいえば月並みの小説でよくあるどぎついプロット、を駆使する必要は、少なくとも極東の怠惰な一読者であるわたくしにとっては、なくもがなの段取りであった。
私にとって彼女の最後の作品は、依然として本書の前に刊行された「ディア・ライフ」ということになるだろう。
トランプとアベが率いる日米両国明るい未来なんてどこにもないね 蝶人