照る日曇る日第978回
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森まゆみ選手が満を持して放つ正岡子規の評伝であるが、あの伝説の地域誌「谷根千」のフィールドワークでならした著者だけに、子規の「奥の細道」紀行、三陸大津波への関心など、今までの誰とも違う独自の切り口が印象的である。
全編を通じて子規の俳句を中心とした作品がちりばめられているが、その引用がまことに適切であるばかりか、、子規という人物、作品、そして彼が晩年を過ごした根津周縁の土地や歴史、住人、友人に対するこまやかな愛情にうたれる。
かといって全面的な称揚だけではなく、当時の時代的諸条件の中で子規が、例えば中国人に示した偏見や差別、公私の立場の分裂の問題性などについてもきちんと摘出されている。
今から半世紀ほど前に、私が根岸の子規庵を訪れたとき、当時ここに在住していたと思しき老婆が、庵を保存するに際しての寒川鼠骨の労苦と貢献を讃え、虚子の対照的な冷淡さを詰っていたが、本書を読んでその真相を知った。
確かに鼠骨は最も献身的に遺族と子規庵を支えたが、虚子がそうでなかったのは、「万物皆滅ぶの理は逃れぬ」という虚無的人生観からの消極であったようである。
しかし私はそれを知っても、やはり「その滅ぶいっぽ手前まで尽力を持って保存を続けよう」と言うた五百木瓢亭や、それに異存のなかった寒川鼠骨、河東碧梧桐、伊藤左千夫、阪本四方太、中村不折の方が人間としては好きである。
余談ながら本書の「あとがき」には、西日暮里から田端方向への道が東京都の「補助92号線」計画によって区画整理され、「田端文士村」の最後に残った昔懐かしい風景が破壊されたという衝撃的な事実が記されていた。
この道路は、さらに私の母の故郷、谷中から上野まで延伸し、由緒ある歴史的景観が断ち切られようとしているというが、こういう2度と取り戻せない歴史破壊を阻止することこそ、小池都知事と都民ファースト党の第一の責務ではないのだろうか。
丁寧に説明しようが土下座しようが駄目な話はダメに決まってる 蝶人