照る日曇る日 第1130回

1987年にベストセラーになった著者の第1歌集だが、塚本邦雄と違ってスラスラ読めるのでおおいに助かる。されど塚本選手が意外に新しさを保持しているといううのに、この人のはおしなべて古めかしく陳腐ですらあるのはどうしてだろう。短歌、いな詩歌における新しさとは何かについて、改めて考えてみる必要があるのかもしれない。
それまでも口語短歌のブームは何回かあったようだが、この人のは、現在の「背骨なき無脊椎自由短歌群」と違って、文語短歌の古典的語系を順守しながら、カタカナ混じりの口語を多彩にちりばめたのであった。
また主語は「吾」が多用されることが多く、現代短歌で作者の自意識がこれほど鮮明な作風も珍しいのではないだろうか。
ゴッホ展ガラスに映る我の顔ばかり気にして進める順路
トロウという字を尋ねれば「セイトのト、クロウのロウ」とわけなく言えり
「ほら」と君は指輪を渡す「うん」と吾は受け取っているキャンディのように
などという句跨り的手法も、当時としては斬新であったが、30年後の今となっては誰も立ち止まろうとしないのが寂しいことであるなあ。
10月の歌舞伎チケットをとりたいがネットは混みて侵入できず 蝶人