蝶人物見遊山記第312回
名前すら知らなかった人だけど、現代美術の泰斗の集成展だというので、渋谷と並んで大嫌いな六本木くんだりまでやってまいりました。
なんか全体に暗い会場に蠟燭とか豆電球とかが点滅しているような暗い作品が並んでいて、この人はきっとあまりお友達にななりたくない暗い人だろうと思いました。
色々なタイトルのいろいろな作品が並んでいましたが、全部が全部アウシュビッツなどの強制収容所で惨たらしく虐殺された人々への鎮魂というても間違いないでしょう。
ボタ山のようにうず高く積まれた黒衣といい、別の展示で膨大につり下げられた着衣といい、カトリックの祭壇に飾られた遺影の数数といい、これすべてホロコーストの犠牲者たちに捧げる作者からの哀切なレクイエムなのです。
不気味なのは左右に大きくスイングする「振り香炉」で、これはだいぶ前にバレンボイム指揮ミラノスカラ座の「カルメン」で演出家のエンマ・ダンテがこれを効果的に使っていたことをはしなくも思い出しました。
ということで、まあこの人が背負ったトラウマのようなものはなんとなく理解できましたが、展示物のある種の単細胞的なワンパターンには不満を覚えた次第。こんなもんを見せられるくらいなら、同じ建物の1階でまだやっている「ウイーン展」で、あの素晴らしいエゴン・シーレの水彩画をもう一回見た方が良かったずら。
風説に堪えて地獄に墜ちる人嬉しかったのは今日の快尿 蝶人