蝶人物見遊山記 第328回
四世鶴屋南北の原作「御国入曽我中村」の中身はともかく、一枚看板をこれほど夜郎自大に塗り変えるとは、国立劇場も菊五郎もけしからん。
確かに尾上菊五郎一座総出演の年頭興業には違いないが、出てくる奴出てくる奴、なんだか生気も根性も芸への精進もなく、チンタラチンタラうわべだけのお芝居をなぞっている。じつに不愉快極まりない狂言だ。
ゆいいつの収穫といえば、2幕目で私の住いの近くの「朝比奈切通福寿湯」の場が登場したくらいか。
鎌倉時代から明治の終わりまでこの峠は殷賑を極めた街道筋で、昼夜を問わず多くの商人、旅人たちで賑わったから、茶屋、旅籠はもちろん、銭湯の一つや二つあってもおかしくは無いのである。
なお、この芝居は今月27日までやっているが、ことさら見るべき値打ちもないのでお勧めしない。
どいつもこいつも「1日1日集中」ボキャブラリーの貧しき関取 蝶人