ある晴れた日に 第486回
――「運慶展」をみて詠める
三〇分待ちて平成館に入りけり興福寺中金堂再建記念運慶展
運慶は平安末期から鎌倉を代表する本邦第一の仏師とか
運慶の父康慶が鮮やかに彫琢したる四天王像
運慶が造りし二体の毘沙門天 時政の願成就院、義盛の浄楽寺に
運慶の毘沙門天に踏まれたる二匹の邪鬼は大仰に反る
天の邪鬼ゆえ楽しくもあるか運慶の毘沙門天に踏みつけられて
踏む者はアーリア人にして踏まれるはドラヴィタ人とする説もあり
執著を無きものにしたバラモンの無著菩薩の尊顔拝す
中国に寒山拾得インドに無著世親超俗の悟り開きたり
興福寺四天王像の多聞天ミケランジェロのダヴィデと張り合う
快慶は運慶の弟にあらずして運慶の弟弟子なり
堪慶が明恵上人に刻みたる子犬愛らしムクによく似て
亡き父の疾風怒濤を懐かしむ堪慶康弁の寂しき洗練
運慶をちょっぴり馬鹿にしていたが古今無双の彫刻家なりき
父運慶の疾風怒濤遥かなり子堪慶康弁の洗練
ああ運慶 君のそのエランヴィタール爆発し本邦初のシュトルム・ウント・ドラング輝く
――ゴッホ展をみて詠める (*は展示作品名)
我が国の浮世絵がゴッホに及ぼした影響を探る展覧会とぞ
広重や英泉がゴッホの造形に影響を与えたそれがどうした
「ジャポニスム」なんちゅう言葉は災いだ君の頭を灰色に汚す
絵というは黙ってみれば分かるもの妙な知識は鑑賞の妨げ
「巡りゆく日本の夢」なんかどうでもよろし無念無想で画幅に向え
「美は僕たちに沈黙を強いる」小林秀雄の名言身に沁む
幾たびもまた幾たびもこの青緑ゴッホの色はあまりに美し
青緑黄白黒赤茶美しすぎてバックハウス弾くベーゼンドルファーの音色
「アーモンド」*一樹百花斉放なれば三千世界一度に開く
「草むらの中の幹」*がばと身起こし 生への賛歌 歌うこの時
アルルなる六畳一間の「寝室」*に盤踞するシングルベッドの独白を聴け
アルルなる黄色い部屋に盤踞するシングルベッドの独白を聴け
部屋の前ゴッホがキャンバス拡げれば机が歌い椅子踊り出す
「オリーブの園」*のうちなるオリーブ天に憧れ地を這いまわる
「下草とキヅタのある木の幹」*よ画家の心を緑が満たす
友は去り「蝶舞う庭の片隅」*に包帯捲ける絵描きがひとり
サン=レミのサン・ポール・ド・モソル病院に「ヤママユガ」*一頭静かに憩う
描けども描けども買い手現れずフィンセント斃れテオも斃れる
医師ガッシュの息よりゴッホ作品の大量購入を勧められしがなんで買わなんだ山本發次郎
ダ・ヴィンチもフェルメールもなににせんゴッホの一枚あらばよし
――加藤治郎「歌集 噴水塔」を読みて詠める
12年1月から14年12月までの350首を収めた第9歌集
ある個所は岡井隆風またある個所は寺山修司されどまぎなく加藤風の最新歌集
ある時は修正アララギまたある時は柔軟口語さすがは「ニューウェーブ短歌」の元祖なり
90年代は遥に遠くニューウェーブ10年代には新古典となる
ニューウェーブの後には新波来て大波小波超ニューウェーブ来襲
ヌーヴェルヴァーグ去りニューウェーブも去りて海は凪ぎ大航海者尽く死滅す
むらぎものこころに響く低音は全首を貫く孤独と不安
伝統を変革する者の常として最新変革者共と戦わねばならぬ
14年1月28日尊父死しその日より始まる父との対話
ちちのみの父死しここだも歌生まる父子を嘉して賦活する歌
フィクションで父の死詠みし者ありき あれらはただのフィクションだった
在りし日の父上偲びて歌生まる末尾の晩歌本書の白眉
父看取り父を喪い父想う末尾の詠草茂吉の響き
茂吉より心に沁みる挽歌あり父の死すでに虚構にあらず
ポップとは命を賭したサーカスよジャンプできねばピエロとなるのみ
たそがれの夕べを迎えおもむろに歌人はおのれの晩歌を呟く
三十年歌い続けてきたのだからたまには喉腫れ咳も出るだろう
教科書に加藤治郎(一九五九~)と記されて没年はまだ夏雲のなか 加藤治郎
三十年歌い続けてきたとしても明日も新たな歌うたうべし
――恒例作品
貴乃花白鵬鶴竜稀勢ノ里みな引退せよ相撲界のため
「広告がゼロの雑誌は気持ちがいいね」と広告一筋の男いうなり
「しっかり」とか「丁寧に」とか連発する人を私は絶対信用できない
あなたが嫌いなのではありませんあなたのそのイデオロギーが嫌いなんです
N響を解説者みな褒め上げるなんでも「マイウー」のタレントと同じ
こんなんで加計の闇を暴けのるか与党80分野党160分
セリーグの3位が1位と勝負して下剋上とはいまどき珍し
キセノサトそれでもお前は横綱か格下相手にころころ負けて
「忠犬」は何十億ドルの戦闘機などを「狂犬」から買うと約束したそうだ
鎌倉の中央図書館の受付ですんごい美人を見かけたような
なんとまあ「逗子岡崎」が閉じるというこれからカーテンどこで買うのか
ごみ袋を突き破りそうなので大きな骨は捨てなかった白石容疑者
背走しまた背走しジャンプして逆シングルで飛球をキャッチす
平凡なフライをひとつ捕ることが少年の日のこよなき喜びなりき
創業者急死して内紛続くという大戸屋にて昼食を取る
あんたたちだからいったじゃあーりませんかあべのみくそはあくまだって
それでもなお日産の車を買い続け安倍蚤糞に投票する人
古稀過ぎて初めて人を憎みたり総理大臣安倍晋三の莫迦
「風呂桶の裏側を洗わなければだめじゃないの」とうちの奥さんがぼやいてる
「時間があるようでない」てふ三井住友カードの広告不愉快千万
デモ指揮のクニヨシ君は「突っ込めえ」と叫びながらわが隊列に飛び込みたり
最前列よりもっとうしろに警棒乱打樺美智子もおそらく3列目
アベはんとトランプはんがおるかぎりわいらあついに救われへんやろ
曇天に北風吹きて胸重し嗚呼この国も「黄昏の時代」か
平成も間もなく終わりそうなので西暦1本に切り替えませんか
こっそりと図書館美人を見に行くがどこにもいないさみしく帰る 蝶人