照る日曇る日第1773回
妻、河野裕子の10年間の癌闘病であるが、この2人の壮絶極まりなき愛の物語の世界は異様なまでの迫力を備えていて、いかなるどんな私小説も裸足で逃げ出すだろう。
本筋の話も感動的だが、著者が恩人の市川さんと永訣の別れを告げる場面は並みの映画そこのけの感動が押し寄せてきて、おらっち涙なしには読めないのである。
二十年師でありつづけ「永田君、吸呑に茶を」と言いて死にたり 和宏
また妻の河野裕子が唯一心を許した精神科医、九村先生との最後の別れも印象に残る。
この人とはもう今生は会はざらむ八十四歳の握手求め来 裕子
それにしても、ご家族は勿論のこと、我々もまっこと得難い歌人をなくしたものだ。
もう見えぬ私の背中にいつまでも手を振り続けたりあの日の妹 蝶人