昨晩、福島の友人と深酒をしたせいで、目が覚めた時は少し頭が痛かったが、朝食をしっかり食べたら治った。会場が宿の隣なので、仕事とはいっても学会、ずいぶんゆっくりできた。
病理の学会なので、当然のことながら演題は病気の診断についての話がほとんどだ。
病理診断は治療のための診断であって、診断のための診断ではない。治療のための診断というのは、診断によって次にどんな治療を行うことができるかを知るために行うものだ。
遺伝子解析技術の進歩によって、ものすごくたくさんの病気の遺伝子の詳細が明らかになっている。悪性腫瘍の遺伝子診断などはその主戦場だ。顕微鏡を覗いて、病気の病理診断すなわち、それが癌かそうではないか、ということをしていたらそれで十分だった頃と違って、今では様々な疾患について色々なことを調べる。というのも、癌の治療は切除が第1選択だが、転移していたり、浸潤が広かったりしたら切除以外のこともしなくてはいけない。切除以外の治療、化学療法とか放射線療法だけど、そういったことが有効かどうかを調べるのだ。
癌細胞が産生するタンパク質を抑え込む治療が開発されたから、そのタンパク質に関連する遺伝子を探す。とか、遺伝子発現のパターンによって同じような腫瘍でも予後とか、治療効果が違うかどうかということを、調べたりする。有名なのだとHER2とかPD-L1とかがあって、そういったタンパク質の発現を調べるのを、最近ではコンパニオン診断という。
どこからどこまでが従来の病理診断で、どこからがコンパニオン診断に相当するのか、線を引くのは難しい。
乳癌の診断でHER2が陽性か陰性かということを調べるときに、同じような組織像でも陽性の乳癌と陰性の乳癌がある。経験を積んだ病理医の中には組織像だけでもその違いがわかる人もいるようだけど、やっぱり、HER2の免疫染色は必要となる。経験に客観性は担保されないのだ。だから、どんなに経験を積んだベテラン病理医でも、コンパニオン診断を行う必要があり、こういったことがどんどん増え続けていて病理医がしなくてはいけない仕事は増加の一途だ。
リンパ腫なんかになると、疾患数がどんどん増えていて、診断するだけでも大変なのに、これにコンパニオン診断が加わってきたら、一体どうなるのだろう。
免疫染色だけでいいというのではなく、遺伝子解析も合わせて必要だ。そうやって疾患概念はどんどん広がっている。ナントカ遺伝子陽性ナントカ腫瘍なんてなってくると、ついていくのも一苦労だ。まあ、癌だって、人それぞれではある。個々人の遺伝子プロファイルをデータベース化して、それぞれの人にできた病変を分類したら、それぞれの人の病名がついたりするようになるのだろうか?
さすがに私が生きている間にそうはならないだろうけど、技術の進歩は想像以上だから油断できない。いろんなことをキャッチアップするために、学会に参加するわけだが、今回も終わった頃には、頭が痺れるほど疲れてしまった。帰りの新幹線の中で、なんとか書き終えたけど、おかしなことを書いていたら、ご意見をください。 って、学会の続きみたいな文章になってしまった。
Brown pathologist