先日、肩までの髪を後ろで束ねた、目のぱっちりした女性の先生が廊下の向こうから歩いてきた。私の方を見て何か話したそうにしているようだ。この先生、誰だったっけと思い出そうとしたが、すぐに出てこない。こういう髪型と目をした女性医師は私が覚えている限りで内科系に1人と外科系に2人の3人いるのだが、マスクをしていてよくわからない。スタッフドクターでもあの例の服を着ているので服装でも区別がつかない(レジデントの青い服 -2012年10月31日)。話しかけられたらどうしようとビクビクしていたら、声の届くところまで近づいてきたところで、私の顔を見て笑顔で会釈して、「先生、○日に迅速診断をお願いします。」と言われた。

迅速の話をしてきたということは外科系ー外科か脳外科ーのどちらかだ。内科系の医者にヤマを張っていたのだが違った。「どんな症例?」と誰だか分からず困っているなどということはおくびにもださないような顔をして、ちょっと気さくな感じで聞き返した。どうせあっちだって私の表情など半分しかわらかない。そして臨床診断を聞いて初めて誰だか、というか何科の医者かがわかって一件落着となった。男性医師だったら、例の服ースクラブーを着ていても体型とか顔の形、髪の毛の量である程度わかるが、30代の女性医師でポニーテールにしていたら区別はつかない。目のメイクも進化しているようで、街ゆく女性みんながきれいだ。



”新しい生活様式”のもと、マスクはどんどん進化しているようだが、この先どんなマスクが普及するかは別として、”新しい生活”とは人の顔を半分隠して生きる世の中だ。この生活、始まってまだ半年あまりだから以前の顔を知っている人のことはわかるが、初対面の人の顔は半分、すなわち目から上しかわからない。あと何年かしたら、一緒に仕事をする人の半分以上は顔の下半分を知らないままになるだろうし、仮に今は覚えている人であっても、ほとんどの人の顔の下半分はやがて忘れてしまうだろう。

実際、4月に入ってきた若い医者の顔は知らない。知らないというのは不正確で、よくわからないといった感じだろうか。すでに若い医者の名前は覚えられなくなっている上、さらに科と顔すらもわからなくなってきているので、少々不安すら感じる。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が、「予見可能な将来においてオールドノーマル(これまでの標準)に戻ることはない。多くの懸念が存在する」と7月13日に語ったそうだ(WHO「多くの国が間違った方向に」、コロナさらに深刻化も - ロイターニュース - 国際:朝日新聞デジタル)。確かに、オールドノーマルは消滅していくわけで、こういった傾向は今後ますます顕著になっていく。そういったことがはっきり自覚できたとき、初めて人類は新たな衝撃を受けるのかもしれない。
あしたにつづく
半仮面社会
