在宅で生きられない 要介護1、2 生活援助「原則自己負担」
安倍自民・公明政権がまたぞろ、介護保険の改悪を検討しています。要介護認定者の過半数を占める軽度者(要介護1、2=約229万人)について、訪問介護の生活援助や、ベッドなど福祉用具レンタルを「原則自己負担(一部補助)化」するよう財務省が要求。厚生労働省は、来年の通常国会提出を目指し、具体案の検討をはじめています。
(内藤真己子)
財務省案は、生活援助や福祉用具レンタルにつき、現行1割の利用料負担を10割負担とし、後で保険給付分を払い戻すものです。生活援助の場合、60分程度の利用でいったん2250円以上を払わなければならず、サービス利用が著しく抑制されるのは必至。「事実上の保険外し」ともいえます。さらに保険給付率そのものの引き下げを検討しており、負担増の大きさは計り知れません。
東京都北区の高齢者住宅に暮らす男性(71)は要介護2で1人暮らし。病気で手足に障害があり、車いすを押してもらわなければ外出できません。日中は、ほとんどベッドの上で過ごします。週4回生活援助を利用し買い物や掃除、洗濯をホームヘルパーに頼んでいます。「一番助かっているのは買い物だね」。日用品に食材など、震える手でメモに書き渡します。
食材をベッド脇のテープルで刻み、歩行器で移動して調理するのが日課。配食弁当をとっていますが飽きるため調理が欠かせません。原則自己負担化の計画を知った男性は硬い表情になりました。「困る。生きていけないよ」
「要介護1、2といっても1人で外出できない独居の方が、地域には大勢おられます」。こう指摘するのは山崎たい子日本共産党北区議です。「生活援助は命綱です。利用が制限されれば在宅で暮らせません」
利用者とともに調理するホームヘルパーの櫻庭葉子さん=京都市内
「家事代行とは違います」
財務省は軽度者に対する生活援助は「一般の家事代行サービスと近い」(主計局)などとしています。ヘルパーの生活援助は家事代行なのでしょうか。
「きれいやね」。新緑がまぶしい京都市の住宅街。歩行器を押す良美さん(67)=仮名=が、ホームヘルパーの櫻庭葉子さんと買い物に出かけます。
知的障害のある良美さんは施設で働いてきましたが、脊柱管狭窄(きょうさく)症で歩行が不自由になりました。要介護2です。
スーパーではピーマン、ブリの切り身など3411円分を購入。1週間の食材です。
帰宅後に調理。ヘルパーが野菜を洗い、いすに座った良美さんが切って鍋へ。味付けは良美さん。野菜とキノコの煮びたし、卵と魚介の妙め、ブリの塩焼き、3日分のおかずができました。ヘルパーは小分けして冷蔵庫に入れ部屋の掃除に取り掛かります。
その様子を眺めながら、8年前に母親が亡くなって以来1人暮らしの良美さんが言いました。「お母ちゃんと暮らしてるみたい」
ヘルパーが初めて訪問した1年前は、万年床の周囲に汚れた衣類やゴミが散乱し、足の踏み場もありませんでした。コンロや流し台も、コンビニ弁当やカップ麺の食べかすであふれ、使えませんでした。それでも良美さんは「掃除はせんでいい」。手をつけさせませんでした。
そんななか櫻庭さんは通院の付き添いや、スーパーに同行して総菜を買う支援を通じ、信頼関係を築いてきました。掃除にかかれたのは1カ月後でした。
さらに1カ月後、良美さんはスーパーで買い物中、「これ何?」と櫻庭さんに尋ねます。「小松菜ですよ。ゴボウ天と煮たらおいしいよ」。調理して出すと良美さんは「おばあちゃんの味がする」。
この日をきっかけにヘルパーによる調理が始まり、いっしょに調理をする支援へと発展していきました。
櫻庭さんは語ります。「清掃業者なら掃除を断られたらご自宅に入ることもできません。生活援助は、その時々の状況に合わせた家事支援を通じて利用者さんに直接働きかけることができます。家事代行とは違います」
生存権否定の国家的詐欺
櫻庭さんら京都ヘルパー連絡会と、訪問介護を研究してきた立命館大学の小川栄二教授は語ります。「ヘルパーによる生活援助は生命活動への援助であり、憲法25条による基本的人権を保障するものです。具体的には利用者の自宅で生活全体を視野に入れた援助を続け、失われた日常生活を取り戻す過程を通じて、利用者自らが生活設計に取り組むことを可能にする専門性のある援助です。配食や清掃、洗濯と家事代行の単品サービスが順次入ったとしても、それでホームヘルプが行われたとは言えません」
さらに小川氏は続けます。「財務省は要介護1、2の生活援助を『原則自己負担化』する理由を、『日常生活で通常負担する費用』だからだと言います。この考え方では改悪がすべての要介護者に拡大されうるし、生存権が否定されます。背景に、家事代行業を営利産業として育成する政権の狙いがあります」
「『介護の社会化』といって介護保険制度を作りながら給付削減を重ねるのは『国家的詐欺』です。暴走する安倍政権には退場願い、社会保障削減でなく拡充へ転換する、政府の実現を求めたい」
■政府が検討している介護保険改悪の時期と主な内容
◇2016年末までに結論、速やかに実施
利用料の負担上限額の引き上げ
◇16末までに結論、17年の通常国会に法案提出
軽度者の生沽援助を原則自己負担に
軽度者のベッド、車いすなど福祉用具貸与を原則自己負担に
65~74歳の利用料を原則2割負担に
要介護1、2の通所介護を保険給付から外し自治体事業に
◇できる限り早期に具体化策とりまとめ
75歳以上の原則2割負担
経済財政諮問会議、財政制度等審議会資料から作成
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年5月1日付掲載
「ヘルパーによる生活援助は生命活動への援助」
「利用者の自宅で生活全体を視野に入れた援助を続け、失われた日常生活を取り戻す過程を通じて、利用者自らが生活設計に取り組むことを可能にする専門性のある援助」
「配食や清掃、洗濯と家事代行の単品サービス」だけではだめ。
安倍自民・公明政権がまたぞろ、介護保険の改悪を検討しています。要介護認定者の過半数を占める軽度者(要介護1、2=約229万人)について、訪問介護の生活援助や、ベッドなど福祉用具レンタルを「原則自己負担(一部補助)化」するよう財務省が要求。厚生労働省は、来年の通常国会提出を目指し、具体案の検討をはじめています。
(内藤真己子)
財務省案は、生活援助や福祉用具レンタルにつき、現行1割の利用料負担を10割負担とし、後で保険給付分を払い戻すものです。生活援助の場合、60分程度の利用でいったん2250円以上を払わなければならず、サービス利用が著しく抑制されるのは必至。「事実上の保険外し」ともいえます。さらに保険給付率そのものの引き下げを検討しており、負担増の大きさは計り知れません。
東京都北区の高齢者住宅に暮らす男性(71)は要介護2で1人暮らし。病気で手足に障害があり、車いすを押してもらわなければ外出できません。日中は、ほとんどベッドの上で過ごします。週4回生活援助を利用し買い物や掃除、洗濯をホームヘルパーに頼んでいます。「一番助かっているのは買い物だね」。日用品に食材など、震える手でメモに書き渡します。
食材をベッド脇のテープルで刻み、歩行器で移動して調理するのが日課。配食弁当をとっていますが飽きるため調理が欠かせません。原則自己負担化の計画を知った男性は硬い表情になりました。「困る。生きていけないよ」
「要介護1、2といっても1人で外出できない独居の方が、地域には大勢おられます」。こう指摘するのは山崎たい子日本共産党北区議です。「生活援助は命綱です。利用が制限されれば在宅で暮らせません」
利用者とともに調理するホームヘルパーの櫻庭葉子さん=京都市内
「家事代行とは違います」
財務省は軽度者に対する生活援助は「一般の家事代行サービスと近い」(主計局)などとしています。ヘルパーの生活援助は家事代行なのでしょうか。
「きれいやね」。新緑がまぶしい京都市の住宅街。歩行器を押す良美さん(67)=仮名=が、ホームヘルパーの櫻庭葉子さんと買い物に出かけます。
知的障害のある良美さんは施設で働いてきましたが、脊柱管狭窄(きょうさく)症で歩行が不自由になりました。要介護2です。
スーパーではピーマン、ブリの切り身など3411円分を購入。1週間の食材です。
帰宅後に調理。ヘルパーが野菜を洗い、いすに座った良美さんが切って鍋へ。味付けは良美さん。野菜とキノコの煮びたし、卵と魚介の妙め、ブリの塩焼き、3日分のおかずができました。ヘルパーは小分けして冷蔵庫に入れ部屋の掃除に取り掛かります。
その様子を眺めながら、8年前に母親が亡くなって以来1人暮らしの良美さんが言いました。「お母ちゃんと暮らしてるみたい」
ヘルパーが初めて訪問した1年前は、万年床の周囲に汚れた衣類やゴミが散乱し、足の踏み場もありませんでした。コンロや流し台も、コンビニ弁当やカップ麺の食べかすであふれ、使えませんでした。それでも良美さんは「掃除はせんでいい」。手をつけさせませんでした。
そんななか櫻庭さんは通院の付き添いや、スーパーに同行して総菜を買う支援を通じ、信頼関係を築いてきました。掃除にかかれたのは1カ月後でした。
さらに1カ月後、良美さんはスーパーで買い物中、「これ何?」と櫻庭さんに尋ねます。「小松菜ですよ。ゴボウ天と煮たらおいしいよ」。調理して出すと良美さんは「おばあちゃんの味がする」。
この日をきっかけにヘルパーによる調理が始まり、いっしょに調理をする支援へと発展していきました。
櫻庭さんは語ります。「清掃業者なら掃除を断られたらご自宅に入ることもできません。生活援助は、その時々の状況に合わせた家事支援を通じて利用者さんに直接働きかけることができます。家事代行とは違います」
生存権否定の国家的詐欺
櫻庭さんら京都ヘルパー連絡会と、訪問介護を研究してきた立命館大学の小川栄二教授は語ります。「ヘルパーによる生活援助は生命活動への援助であり、憲法25条による基本的人権を保障するものです。具体的には利用者の自宅で生活全体を視野に入れた援助を続け、失われた日常生活を取り戻す過程を通じて、利用者自らが生活設計に取り組むことを可能にする専門性のある援助です。配食や清掃、洗濯と家事代行の単品サービスが順次入ったとしても、それでホームヘルプが行われたとは言えません」
さらに小川氏は続けます。「財務省は要介護1、2の生活援助を『原則自己負担化』する理由を、『日常生活で通常負担する費用』だからだと言います。この考え方では改悪がすべての要介護者に拡大されうるし、生存権が否定されます。背景に、家事代行業を営利産業として育成する政権の狙いがあります」
「『介護の社会化』といって介護保険制度を作りながら給付削減を重ねるのは『国家的詐欺』です。暴走する安倍政権には退場願い、社会保障削減でなく拡充へ転換する、政府の実現を求めたい」
■政府が検討している介護保険改悪の時期と主な内容
◇2016年末までに結論、速やかに実施
利用料の負担上限額の引き上げ
◇16末までに結論、17年の通常国会に法案提出
軽度者の生沽援助を原則自己負担に
軽度者のベッド、車いすなど福祉用具貸与を原則自己負担に
65~74歳の利用料を原則2割負担に
要介護1、2の通所介護を保険給付から外し自治体事業に
◇できる限り早期に具体化策とりまとめ
75歳以上の原則2割負担
経済財政諮問会議、財政制度等審議会資料から作成
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年5月1日付掲載
「ヘルパーによる生活援助は生命活動への援助」
「利用者の自宅で生活全体を視野に入れた援助を続け、失われた日常生活を取り戻す過程を通じて、利用者自らが生活設計に取り組むことを可能にする専門性のある援助」
「配食や清掃、洗濯と家事代行の単品サービス」だけではだめ。