リーマン10年の爪痕① 繰り返す通貨危機
米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したのが2008年9月15日。これに端を発したリーマン・ショックは「100年に1度」といわれる世界的金融・経済危機でした。この10年間で何が変わったのか変わらなかったのかを振り返ります。
いま新興国通貨の先行きに不安が高まっています。対ドルでトルコのリラは年初から45%超、アルゼンチンのペソは50%超の下落です。物価上昇率(前年比)はアルゼンチンで30%、トルコで15%を超える深刻さです。米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)がリーマン・ショック対策で導入した異例の大規模金融緩和を終了し、政策金利を段階的に引き上げていることで、世界のお金の流れが変わっています。投機資金は金利の高い国へ流れます。新興国から流出して米国に集まりつつあります。
トルコの場合は同国のエルドアン政権と米トランプ政権の政治・外交関係悪化が通貨下落に拍車をかけています。
経営破綻した米金融大手リーマン・ブラザーズの本社=2008年9月(AFP時事)
リーマン・ショックの経過
ドル中心に批判
米国の政策に新興国が振り回され、通貨・金融が危機に陥る構図はリーマン・ショックのときと変わりません。当時、ドルを中心とする国際通貨体制に批判が集まり、見直しの議論が活発になりました。危機の震源地が米国だったからです。
国連ではデスコト国連総会議長の諮問によって、米国の経済学者ジョセブ・スティグリッツ氏を長とする「国際通貨金融システム改革についての専門家委員会」が設けられ、09年9月に「真の国際準備制度」の創設を提言しました。貿易や投資の決済はドルが中心です。しかし、ドルは米国の通貨であるため、その安定性は米国の国内政策に左右されます。スティグリッツ報告は、国際的な決済手段が「一国の経済と政治に依存」していることが世界的な経済危機をもたらしていると分析しました。
強まる米国第一
リーマン・ショックの発端は返済能力の低い人向けの住宅ローン、サブプライムローンがこげついたことでした。米国の金融機関のリスク管理に対する不安などに起因して信用不安が世界に広がり、金融市場が機能不全に陥りました。
投資銀行は、預金や融資で資金を運用する商業銀行と違い、大口投資家を顧客に証券の引き受けや投資顧問を行う金融機関です。米国ではリーマン・プラザーズの破綻に続き、大手のメリルリンチ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーが軒並み経営危機に陥りました。リーマン破綻の翌日には世界的保険会社AIGがFRBから異例の緊急融資を受けて救済されました。
米国では金融市場の混乱が実体経済を悪化させ、それがさらに不良債権を増やす悪循環に陥りました。個人消費が冷え込み、08年の自動車販売台数は前年の8割程度に減少。
「ビッグスリー」といわれる大手自動車メーカー3社のうちクライスラーとゼネラルモーターズ(GM)が経営破綻。GMは一時国有化されました。国内総生産(GDP)は08年7~9月期から4四半期連続でマイナスとなりました。
危機から10年。米国経済は立ち直ったかのように見えます。しかし、スティグリッツ報告が危機の原因として指摘した、米国の「予測しがたい」政策に世界が振り回される危険性がトランプ政権の「米国第一主義」によって今また強まっています。(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年9月13日付掲載
金融投機の肥大化は今もリーマンショックの時と変わっていません。それに基軸通貨がドルであるため、米国の政策に振り回されています。
やめてほしいというのが率直が思い。
米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズが経営破綻したのが2008年9月15日。これに端を発したリーマン・ショックは「100年に1度」といわれる世界的金融・経済危機でした。この10年間で何が変わったのか変わらなかったのかを振り返ります。
いま新興国通貨の先行きに不安が高まっています。対ドルでトルコのリラは年初から45%超、アルゼンチンのペソは50%超の下落です。物価上昇率(前年比)はアルゼンチンで30%、トルコで15%を超える深刻さです。米国の中央銀行、連邦準備制度理事会(FRB)がリーマン・ショック対策で導入した異例の大規模金融緩和を終了し、政策金利を段階的に引き上げていることで、世界のお金の流れが変わっています。投機資金は金利の高い国へ流れます。新興国から流出して米国に集まりつつあります。
トルコの場合は同国のエルドアン政権と米トランプ政権の政治・外交関係悪化が通貨下落に拍車をかけています。
経営破綻した米金融大手リーマン・ブラザーズの本社=2008年9月(AFP時事)
リーマン・ショックの経過
2007年 | |
年初以降 | 米国で住宅ローン会社の破綻相次ぐ |
8月9日 | 仏銀行BNPパリバ傘下ファンドの償還凍結 |
2008年 | |
3月16日 | 経営危機の米投資銀行ベアスターンズをJPモルガンが救済買収 |
7月13日 | 米政府とFRBが政府系住宅金融会社の救済策 |
9月15日 | 米投資銀行リーマン・ブラザーズが破産申請 |
9月15日 | 米投資銀行メリルリンチをバンク・オ・アメリカが救済買収 |
9月16日 | FRBが米保険大手AIGに緊急融資 |
9月21日 | 米投資銀行ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーの銀行持ち株会社への転換を承認 |
9月30日 | 仏・ベルギー銀行大手デクシアに公的資金注入 |
10月3日 | 米「緊急経済安定化法」成立 |
10月6日 | アイスランド政府が金融危機で非常事態宣言 |
10月10日 | G7が危機対応の行動計画 |
10月20日 | 仏政府が大手銀行6行に資本注入 |
11月9日 | 中国が4兆元の財政刺激策 |
11月15日 | G20首脳会議が金融・経済に関する宣 |
11月23日 | 米政府がシティグループ救済策 |
12月16日 | FRBがゼロ金利政策 |
12月19日 | 米政府が自動車大手に支援策 |
2009年 | |
1月16日 | 米政府がバンク・オブ・アメリカ救済策 |
3月18日 | FRBが3000億ドル規模の国債買い取り決定 |
4月2日 | G20首脳会議が金融規制で共同声明 |
4月30日 | 米自動車大手クライスラーが破産申請 |
6月1日 | 米自動車大手GMが破産申請 |
ドル中心に批判
米国の政策に新興国が振り回され、通貨・金融が危機に陥る構図はリーマン・ショックのときと変わりません。当時、ドルを中心とする国際通貨体制に批判が集まり、見直しの議論が活発になりました。危機の震源地が米国だったからです。
国連ではデスコト国連総会議長の諮問によって、米国の経済学者ジョセブ・スティグリッツ氏を長とする「国際通貨金融システム改革についての専門家委員会」が設けられ、09年9月に「真の国際準備制度」の創設を提言しました。貿易や投資の決済はドルが中心です。しかし、ドルは米国の通貨であるため、その安定性は米国の国内政策に左右されます。スティグリッツ報告は、国際的な決済手段が「一国の経済と政治に依存」していることが世界的な経済危機をもたらしていると分析しました。
強まる米国第一
リーマン・ショックの発端は返済能力の低い人向けの住宅ローン、サブプライムローンがこげついたことでした。米国の金融機関のリスク管理に対する不安などに起因して信用不安が世界に広がり、金融市場が機能不全に陥りました。
投資銀行は、預金や融資で資金を運用する商業銀行と違い、大口投資家を顧客に証券の引き受けや投資顧問を行う金融機関です。米国ではリーマン・プラザーズの破綻に続き、大手のメリルリンチ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーが軒並み経営危機に陥りました。リーマン破綻の翌日には世界的保険会社AIGがFRBから異例の緊急融資を受けて救済されました。
米国では金融市場の混乱が実体経済を悪化させ、それがさらに不良債権を増やす悪循環に陥りました。個人消費が冷え込み、08年の自動車販売台数は前年の8割程度に減少。
「ビッグスリー」といわれる大手自動車メーカー3社のうちクライスラーとゼネラルモーターズ(GM)が経営破綻。GMは一時国有化されました。国内総生産(GDP)は08年7~9月期から4四半期連続でマイナスとなりました。
危機から10年。米国経済は立ち直ったかのように見えます。しかし、スティグリッツ報告が危機の原因として指摘した、米国の「予測しがたい」政策に世界が振り回される危険性がトランプ政権の「米国第一主義」によって今また強まっています。(つづく)(3回連載です)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年9月13日付掲載
金融投機の肥大化は今もリーマンショックの時と変わっていません。それに基軸通貨がドルであるため、米国の政策に振り回されています。
やめてほしいというのが率直が思い。