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「しんぶん赤旗」の記事を中心に、政治・経済・労働問題などを個人的に発信。
日本共産党兵庫県委員会で働いています。

スポーツ界の今を考える 改革の道のり③ 自立した人間づくりへ

2018-11-23 14:52:04 | スポーツ・運動について
スポーツ界の今を考える 改革の道のり③ 自立した人間づくりへ
柔道女子日本代表 増地克之(ますちかつゆき)監督(48)

女子の日本代表監督を務める今も、筑波大学柔道部の監督だった時(2006~16年)も、自立した人間を育てていくのが私の最大の使命です。
柔道は畳に上がれば一人でたたかいます。11年に行われた国際柔道連盟のルール変更によって、試合中の指導者の役割が著しく制限されました。それまではいつでも選手に指示できましたが、いまは試合が止まっている「待て」の間だけに限られています。
選手は自分で試合を組み立て、勝つための策を瞬時に判断しなければなりません。指導者が手取り足取り教えるようでは、そうした力は育ちません。もしここで指導者が「ただ勝てばいい」という考えに陥ってしまえば、パワハラや暴力に頼ることにもなりかねません。



9月の世界選手権で5階級を制した(後列左から)新井千鶴、浜田尚里、朝比奈沙羅、芳田司、阿部詩の女性選手たち。(前列左から)男子の優勝者、阿部一二三、高橋直寿の両選手=バクー(共同)

最後は人間性
競技レベルが高くなればなるほど、体力や技術の差はありません。勝ち負けはある意味、紙一重です。では、最後に決するものはなにか。その日に一番最高の状態に仕上げた者が勝ちます。柔道に日々、誠心誠意向き合い、課題を一つ一つ主体的に克服して、どんな事態にも対応できる状態で本番にのぞむことです。その過程では技術だけでなく自律性も磨かれます。つまり、最後は人間性が左右するのです。
もちろん畳の上だけでなく柔道場を出ても、またその後の人生においても自立した人間になることが大切だと考えます。
目先の大会で結果を残すことは大事です。しかしそれとともに、10年、20年たった後にその選手が何を残せるかが重要です。学んだことが将来にいかされ、社会や次世代に還元されてこそ、自分の指導が教育的な意味を持つと考えます。それには自立した考えを持てる選手を育てないといけません。
5年前に私の故郷・三重県で開かれた全国中学校柔道大会(全中)で、指導者たちを対象にした講演でこう訴えました。
「全中で活躍した選手で、その後オリンピックに出場した選手は多くない。部活は楽しくのびのびと行い、勉強の時間の保障もしてほしい。のびしろを残しながら次の年代に上げるのが指導者の責任だと思う」
これは大学で指導した経験からの実感でもあります。高校時代に実績を残した選手の多くが伸び悩む姿を見てきました。筑波大学柔道部は選手の自主性を重んじる部風があります。練習時間も短めです。寮がないから生活も各自任せです。
高校時代まで柔道漬けで厳しく指導されてきたになじめず、燃え尽き症候群のように気の抜けた状態になってしまう傾向が少なからずありました。

対等な立場で
自立した選手を育てるうえで代表監督の私に課せられているのは、選手が気持ちよく柔道に専念できる環境をつくることです。
それには選手の意見を尊重することが第一です。例えば私が力を入れている外国人対策のミーティングでも、選手が自分の意見を言える雰囲気づくりを心がけています。
次に、監督である私と選手の間に入っている5人の担当コーチを尊重することも大事です。
担当コーチは時間をかけて選手を技術指導しています。上の者がそれを飛び越えて介入すると担当コーチの存在が薄れ、チームの輪を乱してしまいます。
私から選手に伝えたいことがあったら、まず担当コーチに相談します。それも自分の考えを押し付けるのでなく、「こういう方法があると思うけどどうだろうか」と問いかけるようにしています。序列でなく対等な立場で尊重しあい、特定の選手だけでなく全員と平等に接することで、選手のやる気とチームの団結力が生まれるからです。
うれしいことに9月の世界選手権(アゼルバイジャン・バクー)で日本女子代表は7階級中5階級で金メダルを獲得しました。16年のリオデジャネイロ五輪では一つにとどまりましたから、順調にきています。
選手たちのたたかいぶりを見ていると、度胸の強さに感心させられます。外国選手への苦手意識が消えつつあり、気後れなく立ち向かっています。選手や担当コーチたちと自由に意見を出し合った成果なのかもしれません。
どんな相手に対しても自分の持てる力をすべて出し切れるかどうか。自立した選手を東京五輪の畳の上に送り出すために、これからも心を砕きたい。
(勝又秀人)(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2018年11月19日付掲載


選手は自分で試合を組み立て、勝つための策を瞬時に判断。指導者が手取り足取り教えるようでは、そうした力は育たない。
柔道のような個人競技では特にそれが重要だという。