「テザ 慟哭の大地」というエチオピア映画。どうせならもっと早く見て書けばいいんだけど、いつも終わりそうになってやっと見る。東京の公開は明日まで。(渋谷シアター・イメージフォーラム)大阪、京都で秋に公開とあります。まあ、映画は残るのでどこかで見る機会があれば是非見てください。僕は感動しました。2008年のヴェネツィア映画祭審査員特別賞、脚本賞受賞作。
小国の映画はよく見るし、ブログでもタイやマレーシアの映画を紹介してきました。あまり接することがない国の映画は意識して見るようにしてきました。社会科教員として地理や政治経済の教材と言う面もあったけど、それより知らない国の文化に接すること自体が喜び。それに監督や俳優の名前も知られてないのに公開されるとしたら、それだけでも何か見どころがありそうだという勘が働きます。この「小国の映画を見る」ことについては、また別の機会に考えてみたいと思います。
エチオピアは人口8千万で「小国」とは言えないけど、世界に知られた文化と言う面ではほとんど知られていないと言っていいでしょう。僕も今までに見たエチオピア映画は1本だけ。それは「テザ」と同じハイレ・ゲリマ監督の「三千年の収穫」という映画で、プログラムで映画評論家(日本映画大学学長)の佐藤忠男さんが書いてるように、1984年に国際交流基金が行った「アフリカ映画祭」で上映され佐藤さんが激賞していたので見に行ったわけ。それ以後この監督の名前も忘れていたけど、アメリカで大学教授をしながらアフリカ人の立場で映画を作り続けていたのでした。
この映画で忘れられないのはエチオピア現代史のあまりに苛酷な現実で、少しは知っていたけど驚くべき出来事の連続で、恐ろしい。西北部のタナ湖というところ(監督の生地の近く)の美しい映像も印象的だけど、全体的には激動の現代史の壮大な叙事詩。そういう映画は好きなので、見入ってしまいました。中国や台湾、パレスティナや南アフリカ、ポーランドやハンガリーなどの厳しい現代史を映像を通して知って衝撃を受けるということが今までに何回もありました。未だ世界に知られていない母国の悲劇を世界に伝えるときに、映像の力というものはいかに大きな力を持つか。改めて強く感じました。エチオピアは世界最古の帝国と言われ、アフリカで植民地にならなかった国。ファシズム・イタリアの侵略を受け毒ガス攻撃を受けます。独立回復後は世界最古の皇帝、ハイレ・セラシエの独裁の下、大土地所有制度が続きます。74年に軍部クーデタで皇帝は退位させられ、社会主義独裁の軍部政権になります。(70年代になってからマルクス、エンゲルス、レーニンの顔写真が大きく町に張り出される国ができていたとは知りませんでした。)その後、各民族の反乱がおこり内戦が続き、ソ連崩壊後、何度かの変化を経て今は連邦制。北部のエリトリアは独立しました。そういう事情は詳しく知らなくても見れると思いますが。
と言っても、これは政治映画ではありません。自分の世代を主人公にして20年くらい前の革命の時代を振り返っているけれど、その作り方はまさに巨匠の技、骨太の演出と編集でじっくり見せます。自分の生まれた村(まだ呪術的な迷信がはびこっている)、留学先のドイツ(自由はあるがドイツ人からは人種差別を受ける)、革命下の首都アディスアベバ(留学から戻るが恐怖政治の真っただ中)を描き分けつつ、どこにも居場所がない主人公の彷徨が描かれます。革命も恐ろしいけど、村も遅れてるし、西欧には受け入れらない。主人公は心身に傷を負い村に帰るが、そこに心の拠り所を見つけることはできるだろうか…?
というあたりで、つまりエチオピアの知識人の問題だと思って見てたけど、これは世界の知識青年すべてに関わるテーマだと分る。
「テザ」とはエチオピアの主要言語アムハラ語で「朝露」「幼児期」の二つの意味合いを持つ単語だそうです。これ、いいですね。プログラムから。「太陽と水と炎 流浪するひとりの男 忘れられない過去 そして記憶 激動の70年代を背景に、20年にわたるエチオピアの光と影がうずまく」。エチオピアの音楽が良かったですね。前にチェコと言えばチャスラフスカと書いたけど、僕にとってエチオピアと言えば、もちろんアベベ・ビキラ。ローマ、東京でマラソンで連続金メダルを取った「哲人ランナー」。明日は東京五輪の話を。
小国の映画はよく見るし、ブログでもタイやマレーシアの映画を紹介してきました。あまり接することがない国の映画は意識して見るようにしてきました。社会科教員として地理や政治経済の教材と言う面もあったけど、それより知らない国の文化に接すること自体が喜び。それに監督や俳優の名前も知られてないのに公開されるとしたら、それだけでも何か見どころがありそうだという勘が働きます。この「小国の映画を見る」ことについては、また別の機会に考えてみたいと思います。
エチオピアは人口8千万で「小国」とは言えないけど、世界に知られた文化と言う面ではほとんど知られていないと言っていいでしょう。僕も今までに見たエチオピア映画は1本だけ。それは「テザ」と同じハイレ・ゲリマ監督の「三千年の収穫」という映画で、プログラムで映画評論家(日本映画大学学長)の佐藤忠男さんが書いてるように、1984年に国際交流基金が行った「アフリカ映画祭」で上映され佐藤さんが激賞していたので見に行ったわけ。それ以後この監督の名前も忘れていたけど、アメリカで大学教授をしながらアフリカ人の立場で映画を作り続けていたのでした。
この映画で忘れられないのはエチオピア現代史のあまりに苛酷な現実で、少しは知っていたけど驚くべき出来事の連続で、恐ろしい。西北部のタナ湖というところ(監督の生地の近く)の美しい映像も印象的だけど、全体的には激動の現代史の壮大な叙事詩。そういう映画は好きなので、見入ってしまいました。中国や台湾、パレスティナや南アフリカ、ポーランドやハンガリーなどの厳しい現代史を映像を通して知って衝撃を受けるということが今までに何回もありました。未だ世界に知られていない母国の悲劇を世界に伝えるときに、映像の力というものはいかに大きな力を持つか。改めて強く感じました。エチオピアは世界最古の帝国と言われ、アフリカで植民地にならなかった国。ファシズム・イタリアの侵略を受け毒ガス攻撃を受けます。独立回復後は世界最古の皇帝、ハイレ・セラシエの独裁の下、大土地所有制度が続きます。74年に軍部クーデタで皇帝は退位させられ、社会主義独裁の軍部政権になります。(70年代になってからマルクス、エンゲルス、レーニンの顔写真が大きく町に張り出される国ができていたとは知りませんでした。)その後、各民族の反乱がおこり内戦が続き、ソ連崩壊後、何度かの変化を経て今は連邦制。北部のエリトリアは独立しました。そういう事情は詳しく知らなくても見れると思いますが。
と言っても、これは政治映画ではありません。自分の世代を主人公にして20年くらい前の革命の時代を振り返っているけれど、その作り方はまさに巨匠の技、骨太の演出と編集でじっくり見せます。自分の生まれた村(まだ呪術的な迷信がはびこっている)、留学先のドイツ(自由はあるがドイツ人からは人種差別を受ける)、革命下の首都アディスアベバ(留学から戻るが恐怖政治の真っただ中)を描き分けつつ、どこにも居場所がない主人公の彷徨が描かれます。革命も恐ろしいけど、村も遅れてるし、西欧には受け入れらない。主人公は心身に傷を負い村に帰るが、そこに心の拠り所を見つけることはできるだろうか…?
というあたりで、つまりエチオピアの知識人の問題だと思って見てたけど、これは世界の知識青年すべてに関わるテーマだと分る。
「テザ」とはエチオピアの主要言語アムハラ語で「朝露」「幼児期」の二つの意味合いを持つ単語だそうです。これ、いいですね。プログラムから。「太陽と水と炎 流浪するひとりの男 忘れられない過去 そして記憶 激動の70年代を背景に、20年にわたるエチオピアの光と影がうずまく」。エチオピアの音楽が良かったですね。前にチェコと言えばチャスラフスカと書いたけど、僕にとってエチオピアと言えば、もちろんアベベ・ビキラ。ローマ、東京でマラソンで連続金メダルを取った「哲人ランナー」。明日は東京五輪の話を。