映画をよく見てると言っても、昨日は一日に4本見たのは自分でも生涯にそんなにない日。もちろん短編のアニメや実験映画なら5分の映画を10本見るとかもあるけど、昨日はそうではない。とてもブログを書く時間も体力もなかった。昨日を中心に最近の映画を見たまとめを少し。
★岡田茉利子の見事な日本舞踊★
昨日はまず神保町シアターの岡田茉利子特集で「女舞」。岡田茉利子や夫の吉田喜重は近年特集上映があったのでかなり見ているが、いつも都合が合わず「女舞」という作品を見逃していた。岡田茉利子は松竹専属だったが小津や木下恵介は少なく、ひたすら女性映画に出させられて営業に貢献していた。「君の名は」の大庭秀雄監督による「女舞」も実に見事な娯楽映画で、岡田茉利子が実際に全篇日本舞踊を踊りつくしている。そこに運命的な恋や結婚が絡む筋立て。
★小津の魔法使い★
今回、岡田茉利子特集で小津安二郎「秋日和」も見直した。これも30年以上ぶり。あまりの異文化世界にびっくりした。と同時に、色彩感覚などへの異様なこだわり、衣装の素晴らしさ、固定されたアングルによるリズム感覚など、「小津の魔法使い」ぶりが存分に発揮されている。しかし、中の人間関係は異常な感じで、文化人類学というかジェンダー社会学による分析がいる。ホモソーシャルな日本社会のありようが見事に映し出されていて、今見ると気色が悪い。先週土曜日にハンセン病資料館に行ったのだが、療養所の外も「隔離された社会」だったのだなと、この映画を見てよく判った。岡田茉利子は脇役ながら、儲け役を楽しげに演じている。小津映画はこれだけ。
★国家と個人★
そこから新宿へ出て、株主優待で「フェア・ゲーム」を見る。ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン主演のCIAをめぐる政治ドラマ。イラク開戦をめぐって、ホワイトハウスのブッシュ、チェイニーに真実がゆがめられていく様がドラマティックに描かれている。が、あの当時、03年当時のことを覚えてれば、流れが判っている。若い人は是非。こういう映画が作られるというのがアメリカのすごいところで、日本では全然作られない。国家を信じれば裏切られるというのは世界の常識だと思うけど、日本では「国が安全だと言うから安全」と言い張る人がいる不思議。僕も「国が教員免許更新制を作ったのだから何かちゃんとした目的があるはず」という人がホントにいたのでビックリした。
★コニカミノルタプラザ★
映画じゃないけど、高野ビル4階の「コニカミノルタプラザ」で、「DAYS ジャパン」の選んだ震災写真展を見る。15日まで。見たばかりの気仙沼の船が何枚かあった。今週末に新宿に行く機会があったら是非寄って見て下さい。
★成瀬巳喜男監督の「驟雨」★
新宿から京橋へ出て、フィルムセンターで「驟雨」(しゅうう)という映画を見る。成瀬監督は作品数が多く、ベストテン級は皆見たけど見落としが多い。この映画は岸田國士の短編戯曲をいくつかまとめてオリジナル部分も入れた映画。原節子主演なんだけど、成瀬映画は原節子を美しく描かない。そこがいいのかもしれないが、小津映画だと結婚して子供がいても原節子は「聖処女」である。岸田の作品を文学座が最近上演したが見逃した。しかし、ハヤカワ演劇文庫で戯曲を読んでみたが、これをどう映画にするのかなと思った。やはりあまり成功していない。戦後しばらくの住宅街、皆で決めようと集まりを持つと、戦争の時の「常会」を思い出して嫌だという人がいる時代。犬をつなぐかどうかが議題となっている。生垣や塀もなく、犬は野良だったのである。そう言えばそんな犬が僕の小さい頃にはいた。そういう時代感覚はもう忘れられている。小型犬は室内にいるし、大型はつなぐか小屋にいるのは当たり前。実際映画の中でも、犬が鶏を襲ってトラブルになっている。3本目のこの映画は眠くなった。
★グレン・グールド★午後8時59分~10時43分 15日まで。
昨日はそこで帰らず、歩いて5分の銀座テアトルシネマへ行き、レイトショーで「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」を見る。これがなんでレイトかなあ。昼間やってもヒットすると思うけど。まあ、グレン・グールドを知らない人が見ても意味ないけど、これは今年見た新作映画のベスト級。奇人で有名なカナダ人ピアニストが50歳で亡くなったのが1982年。いつの間にかグールドの年を超えていたか。僕はバッハの「ゴルトベルグ変奏曲」がすごいと聞いて学生時代にレコードを買ったけど、よく判らなかった。今81年の再録音盤CDを聞くと、これほどすごい演奏はないと思う。この人が天才と言われるのは、ルビンシュタインやリヒテルが天才であるのと意味が違う。演奏がすごいのもあるけど(超絶ぶりは映像でよくわかる)、解釈が人と違う。今聞くと、この人のバッハは沁みる。貴重映像が満載。ヒット曲「ダウンタウン」の人気歌手ペトゥラ・クラークの番組を作るエピソードが面白い。
★清順の野川由美子映画、特に「春婦傳」★
鈴木清順を見た話はその時に書いたけど、その後もチョコチョコ見てる。清順と言えば、木村威夫の異様な美術や色彩感覚であり、変なアクション映画の監督というイメージが強く、野川由美子主演の女性映画シリーズを忘れてた。「肉体の門」「春婦傳」「河内カルメン」の3作あり、異様なエネルギーが満ちた他にない女性映画である。「肉体の門」は戦後すぐの闇市を生き抜く売春婦(当時の言葉で言う「パンパン」)を描くが、占領軍に群がる日本女性をこんなにあからさまに描いた映画が他にあるか。大規模な闇市のセットも見事。この映画を忘れて戦後は語れない。大体、野川由美子というふてぶてしい女優も他で主演していないし、ほとんど忘れられている。「河内カルメン」は今東光原作の下積み女性が自分の肉体を武器に世を渡っていく様を描いてすごい迫力。
しかし、それより傑作は「春婦傳」で、「肉体の門」同様、田村泰二郎という戦後の人気作家(肉体派と言われた)の原作だが、「戦場の慰安婦」を描いている。朝鮮人「慰安婦」も出てくる。今の段階での研究水準から言うと、どうなんだろうと言う場面もあるが、「慰安婦」と兵の恋愛という禁断のテーマを扱っている。日本軍内ではどうしても結ばれようがないから、慰安婦の野川由美子はもう八路軍(共産党軍)に投降することを考えるぐらいだが、軍人である恋人の川地民夫はどうしても軍の教えが体に染みついていて、殺されても捕虜にはなれない。「慰安婦」の目で見た反軍映画で、前に見てるけどそれは70年代で、「慰安婦裁判」が起きるとは思ってなかった頃のことなので、すっかり忘れてた。実際は「朝鮮人慰安婦」がもっと多かったと思うが、「慰安婦」という存在の問題性は描かれている。日本の戦争映画の中で、あまり取り上げられていないが真に重要な映画ではないか。(9日に上映あり。シネマヴェーラ渋谷)
と言う風にさまざまな映画を雑多に見まくっているが、やはり日本社会をどう考えるかというところに最終的には帰結するような見方をしてしまう。単に楽しめる映画も好きではあるんですが。
★岡田茉利子の見事な日本舞踊★
昨日はまず神保町シアターの岡田茉利子特集で「女舞」。岡田茉利子や夫の吉田喜重は近年特集上映があったのでかなり見ているが、いつも都合が合わず「女舞」という作品を見逃していた。岡田茉利子は松竹専属だったが小津や木下恵介は少なく、ひたすら女性映画に出させられて営業に貢献していた。「君の名は」の大庭秀雄監督による「女舞」も実に見事な娯楽映画で、岡田茉利子が実際に全篇日本舞踊を踊りつくしている。そこに運命的な恋や結婚が絡む筋立て。
★小津の魔法使い★
今回、岡田茉利子特集で小津安二郎「秋日和」も見直した。これも30年以上ぶり。あまりの異文化世界にびっくりした。と同時に、色彩感覚などへの異様なこだわり、衣装の素晴らしさ、固定されたアングルによるリズム感覚など、「小津の魔法使い」ぶりが存分に発揮されている。しかし、中の人間関係は異常な感じで、文化人類学というかジェンダー社会学による分析がいる。ホモソーシャルな日本社会のありようが見事に映し出されていて、今見ると気色が悪い。先週土曜日にハンセン病資料館に行ったのだが、療養所の外も「隔離された社会」だったのだなと、この映画を見てよく判った。岡田茉利子は脇役ながら、儲け役を楽しげに演じている。小津映画はこれだけ。
★国家と個人★
そこから新宿へ出て、株主優待で「フェア・ゲーム」を見る。ナオミ・ワッツ、ショーン・ペン主演のCIAをめぐる政治ドラマ。イラク開戦をめぐって、ホワイトハウスのブッシュ、チェイニーに真実がゆがめられていく様がドラマティックに描かれている。が、あの当時、03年当時のことを覚えてれば、流れが判っている。若い人は是非。こういう映画が作られるというのがアメリカのすごいところで、日本では全然作られない。国家を信じれば裏切られるというのは世界の常識だと思うけど、日本では「国が安全だと言うから安全」と言い張る人がいる不思議。僕も「国が教員免許更新制を作ったのだから何かちゃんとした目的があるはず」という人がホントにいたのでビックリした。
★コニカミノルタプラザ★
映画じゃないけど、高野ビル4階の「コニカミノルタプラザ」で、「DAYS ジャパン」の選んだ震災写真展を見る。15日まで。見たばかりの気仙沼の船が何枚かあった。今週末に新宿に行く機会があったら是非寄って見て下さい。
★成瀬巳喜男監督の「驟雨」★
新宿から京橋へ出て、フィルムセンターで「驟雨」(しゅうう)という映画を見る。成瀬監督は作品数が多く、ベストテン級は皆見たけど見落としが多い。この映画は岸田國士の短編戯曲をいくつかまとめてオリジナル部分も入れた映画。原節子主演なんだけど、成瀬映画は原節子を美しく描かない。そこがいいのかもしれないが、小津映画だと結婚して子供がいても原節子は「聖処女」である。岸田の作品を文学座が最近上演したが見逃した。しかし、ハヤカワ演劇文庫で戯曲を読んでみたが、これをどう映画にするのかなと思った。やはりあまり成功していない。戦後しばらくの住宅街、皆で決めようと集まりを持つと、戦争の時の「常会」を思い出して嫌だという人がいる時代。犬をつなぐかどうかが議題となっている。生垣や塀もなく、犬は野良だったのである。そう言えばそんな犬が僕の小さい頃にはいた。そういう時代感覚はもう忘れられている。小型犬は室内にいるし、大型はつなぐか小屋にいるのは当たり前。実際映画の中でも、犬が鶏を襲ってトラブルになっている。3本目のこの映画は眠くなった。
★グレン・グールド★午後8時59分~10時43分 15日まで。
昨日はそこで帰らず、歩いて5分の銀座テアトルシネマへ行き、レイトショーで「グレン・グールド 天才ピアニストの愛と孤独」を見る。これがなんでレイトかなあ。昼間やってもヒットすると思うけど。まあ、グレン・グールドを知らない人が見ても意味ないけど、これは今年見た新作映画のベスト級。奇人で有名なカナダ人ピアニストが50歳で亡くなったのが1982年。いつの間にかグールドの年を超えていたか。僕はバッハの「ゴルトベルグ変奏曲」がすごいと聞いて学生時代にレコードを買ったけど、よく判らなかった。今81年の再録音盤CDを聞くと、これほどすごい演奏はないと思う。この人が天才と言われるのは、ルビンシュタインやリヒテルが天才であるのと意味が違う。演奏がすごいのもあるけど(超絶ぶりは映像でよくわかる)、解釈が人と違う。今聞くと、この人のバッハは沁みる。貴重映像が満載。ヒット曲「ダウンタウン」の人気歌手ペトゥラ・クラークの番組を作るエピソードが面白い。
★清順の野川由美子映画、特に「春婦傳」★
鈴木清順を見た話はその時に書いたけど、その後もチョコチョコ見てる。清順と言えば、木村威夫の異様な美術や色彩感覚であり、変なアクション映画の監督というイメージが強く、野川由美子主演の女性映画シリーズを忘れてた。「肉体の門」「春婦傳」「河内カルメン」の3作あり、異様なエネルギーが満ちた他にない女性映画である。「肉体の門」は戦後すぐの闇市を生き抜く売春婦(当時の言葉で言う「パンパン」)を描くが、占領軍に群がる日本女性をこんなにあからさまに描いた映画が他にあるか。大規模な闇市のセットも見事。この映画を忘れて戦後は語れない。大体、野川由美子というふてぶてしい女優も他で主演していないし、ほとんど忘れられている。「河内カルメン」は今東光原作の下積み女性が自分の肉体を武器に世を渡っていく様を描いてすごい迫力。
しかし、それより傑作は「春婦傳」で、「肉体の門」同様、田村泰二郎という戦後の人気作家(肉体派と言われた)の原作だが、「戦場の慰安婦」を描いている。朝鮮人「慰安婦」も出てくる。今の段階での研究水準から言うと、どうなんだろうと言う場面もあるが、「慰安婦」と兵の恋愛という禁断のテーマを扱っている。日本軍内ではどうしても結ばれようがないから、慰安婦の野川由美子はもう八路軍(共産党軍)に投降することを考えるぐらいだが、軍人である恋人の川地民夫はどうしても軍の教えが体に染みついていて、殺されても捕虜にはなれない。「慰安婦」の目で見た反軍映画で、前に見てるけどそれは70年代で、「慰安婦裁判」が起きるとは思ってなかった頃のことなので、すっかり忘れてた。実際は「朝鮮人慰安婦」がもっと多かったと思うが、「慰安婦」という存在の問題性は描かれている。日本の戦争映画の中で、あまり取り上げられていないが真に重要な映画ではないか。(9日に上映あり。シネマヴェーラ渋谷)
と言う風にさまざまな映画を雑多に見まくっているが、やはり日本社会をどう考えるかというところに最終的には帰結するような見方をしてしまう。単に楽しめる映画も好きではあるんですが。