尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

キム・ジョンイル(金正日)の死去

2011年12月20日 02時00分41秒 |  〃  (国際問題)
 一回に3つ記事を書くのは初めてだが、やはり深夜になっても書いておきたい。「北朝鮮」のキム・ジョンイル総書記が死去した。69歳。ハヴェルのような引退した人物ではないが、健康面に問題があることは判っていたわけで、遠からず避けられなかった死である。17日午前8時半に死去と朝鮮中央通信が伝えている。19日正午の特別放送で報じられた。僕は出かけていたのでその時点では知らず、夕方「夕刊紙」の大見出しで知ったけど、夕刊紙だと下に「説」とあるようなこともあるので半信半疑。携帯のニュースで確認したら、やはり事実だった。

 僕がすぐに思ったのは二つある。一つは、前日の18日に日韓首脳会談があった。「従軍慰安婦問題」にかなり時間を割いたと報道では伝えている。発表まで2日あったけれど、この最大級の情報は伝わっていなかったのだろうか。知っていても情報源を守るために知らないふりして大統領が訪日することはあるかもしれないけど、よくわからない。個人の死は2日程度なら隠しやすいとは思うけど、やはり「カーテン」の向こう側で、これだけの情報が洩れなかった。中国にはいつ伝えたのか。そういうことが一つ。

 もう一つ、金正日は「裁かれずに終わった」ということである。本来は、国際法廷なり、国際刑事裁判所で裁かれるべき問題があった。父親の金日成(キム・イルソン)は事前に知らなかった可能性もあると思うが、大韓航空機の爆破とか、ラングーン事件とか、日本人初め多くの拉致事件について、金正日が直接の責任者であるのは疑えない。少なくとも、韓国の映画監督、申相玉(シン・サンオク)と妻の女優、崔銀姫(チェ・ウニ)の拉致指令は金正日の直接指示であると僕は思っている。

 短期的には、三男のキム・ジョンウンを中心に集団指導体制のようにして続いて行く。2012年は6か国協議の参加国中、米ロ韓で大統領選挙があり、ロシアはともかく、米韓は来年は選挙一色とならざるを得ない。中国も胡錦濤が引退して、ほぼ習近平体制になるだろう年である。日本も総選挙、政権交代含みとなり、「北」も「服喪」期間となる。核やミサイル、拉致問題が急速に好転するという期待は持てない。冷静に見るとそうなる。しかし、そう言ってるだけでは知恵が足りない。そこでいかに状況を動かすかを考えなくてはいけない。しかし、日本の政治は、震災復興、原発事故、税と社会保障の一体改革だけで精一杯で、国際的に新しいアイディアを出す力量があるとは思えないのが実情。

 中国は「北朝鮮」を必要としている。ソ連は東欧に自由を与えて、共産党一党体制が崩壊してしまった。この失敗例を中国共産党指導部は忘れていない。朝鮮半島の統一とは、つまり中朝国境にまで米軍が来るということだから、朝鮮戦争の「血で結ばれた」中朝の「友好の絆」は軍内保守派としては絶対に認められないところだと思う。「血であがなった」北朝鮮への影響力をむざむざ「アメリカ帝国主義」に明け渡すことはできない。このように、米中の「緩衝地帯」としてのみ「北朝鮮の存在価値」があるというのが、実際のところではないか。従って、中期的にも北朝鮮の混乱は避けたいというのが、中国の念願であると思う。

 しかし、中国の政治的、経済的成熟とともに、やがて「朝鮮半島問題の最終解決」も起こってくることだろう。(「最終解決」は「韓国を中心にした半島統一」以外に考えられない。)それはそんなに遠くない可能性も視野に入れておかなくてはならない。そして、東アジアで一定の平和構築のリーダーシップを果たすための、政治的想像力を日本人も養っておかなくてはいけない。アメリカと中国ですべて決められてしまい、日本は過去の植民地支配の清算(「北」の国民に対しては済んでいない)のために金だけ出せということでは困ると僕は思っている。
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追悼・ヴァツラフ・ハヴェル

2011年12月20日 01時07分39秒 | 追悼
 チェコスロヴァキア最後の大統領、チェコ共和国初代大統領、89年のビロード革命の指導者にして、反体制派劇作家であった文人政治家、ヴァツラフ・ハヴェルが亡くなった。75歳。

 この人のことはいくつかのことを簡単に書いておくことにしたい。今日はもう一人の死者についても書きたいので。チェコスロヴァキアとビロード革命のことは何回か触れてきた。特に、ベラ・チャスラフスカの勇気ある人生を参照。

 病気であることは報道で知っていたので驚きは少ない。共産主義時代の弾圧もあったろうけど、へヴィー・スモーカーで肺がんで死んだんだから、タバコの害が一番ではないかと思う。昔は反体制派の活動家は皆タバコを吸っていた。洋の東西を問わず、だろう。今は、「市民運動」は「環境保護運動」と近縁性が強いので、禁煙でないと肩身が狭いだろうが。

 クリントン元米大統領が任期中に、特に敬意を持って遇した他国の国家元首が3人いるという。ハヴェルと金大中とネルソン・マンデラだという。理由は書くまでもないだろう。ネルソン・マンデラの長寿を祈る。

 ビロード革命の後、「ハヴェルをお城へ」のスローガンがプラハにあふれた。「お城」というのは、大統領府である「プラハ城」。こうして民衆によって、大統領にかつぎだされてしまったわけだが、それでいいんだろうかと思わないではなかった。案外堅実に政治運営をしていたと思うけど。チェコとスロヴァキアが平和裏に「分離」できたのも、ハヴェルが最高指導者だったからではないか。

 ハヴェルは「反体制劇作家」と言われるわけだが、その劇を見た人は少ないだろう。日本でも何回かの上演はある。僕は1982年の文学座アトリエ公演「プラハ1975」を見たはずである。調べると、今や大演出家の鵜山仁による訳・演出で行われている。金もないのに何故見られたかというと、チケットがあたるいうのに応募したらペア券が当選したから。まあ、「無名のチェコ作家の劇」に平日夜の希望は少なかっただろう。この時は一緒に行く女友達がいなかった。(アトリエ公演は指定席ではないから一人で行っても良かったんだけど。就職、結婚の一年前。)で、男の友人に声を掛けたんだけど、会場で知人のカップルにあって「何だ、尾形君、○○君と見に来てるんだ」と言われた。それだけ覚えてて、劇の内容をすっかり忘れてしまった。ま、そんなものか。

 チェコの現代史でもっとも重要で、もっとも大切な人の死。でも、政治の話ではなく、どんな劇を書いていたかということが知りたいな。
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