◎1月29日(水)
ここ数日に見た外国映画6本の短評。
・「幸せの行方」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」は主演のライアン・ゴズリング特集で、前者は不動産会社の御曹司が抑圧されて育ち、金持ちではないキルステン・ダンストと結婚するものの次第に心の歯車がゆがんで行く。「レベッカ」なんかにはるかに及ばぬ愛のミステリー。実話らしいけど。後者は子どもがいることを知り、銀行強盗でカネを稼ぐ若い男と、その男を射殺した警官の、子どもの世代にまたがる因縁の話。非常に面白い犯罪映画ではないか。キネカ大森。
・「アイム・ソー・エキサイテッド!」はペドロ・アルモドバルの新作だけど、大して面白くない。B級のテイストに戻ったというけど、昔の「バチ当たり修道院の最期」なんかのハチャメチャの面白さがない。いや、飛行機内は大混乱だけど、いくら何でも機内であんなに乱れては。
・「殿方ご免遊ばせ」はフィルムセンターで昔の洋画特集。でも千円も取るのにフィルムの状態が非常に悪い。これは通常の500円にしないといけない。ブリジット・バルドーはちょっと昔過ぎて、「軽蔑」などは見てるけど、娯楽映画は見てない。ミシェル・ボワロンだから期待してはいないけど、やはり面白くない。まあべべはこういう感じだったかと確認。当時はモンローとか今の檀蜜とかのような「お色気スター」だったわけだけど。今は反毛皮運動の旗手。
・「ソウル・ガールズ」。今月見た新作では一番感動した。68年のオーストラリア。アボリジニーの姉妹が歌がうまく、コンクールに出たい。でも白人に差別され認められない。ベトナム戦争慰問のグループを募集していて、それに応募しようとダメ男のピアニストに特訓を頼む。戦場に行くことでしか「解放」されなかった先住民女性の青春。戦場で見たものは…。68年のムード、戦場のベトナムを再現しながら、ソウル音楽の素晴らしさが心を動かす。「合唱映画」というのはいっぱいあるけど、これは出色で、音楽だけでなく、豪州に関心のある人も必見。
・「オンリー・ゴッド」。「ドライブ」のレブン監督がタイで撮ったバイオレンス映画。確かにすごいけど、これは僕にはあまり楽しめない。「オリエンタリズム」ではないか。いくらなんでも警官があんなに殺しまくって、その後カラオケするか。デンマークがああいう風に描かれたら面白くはないだろうと推察するが。でもライアン・ゴズリングは似た役柄が多いなあ。
◎1月23日(木)
22日にフィルムセンターで「男はつらいよ 紅の花」。結果的に「最後の寅さん」。そうとは思わないから、公開時は見なかった。寅さんが加計呂麻島でリリーと暮らしているところに、泉の結婚式をぶち壊した満男が訪ねていく。その設定だけは前から知ってるけど、これはこれで最後でもいい感じの映画ではないか。浅丘ルリ子は、渥美清の衰弱ぶりを見て、リリーと寅さんを結婚させてあげてと山田洋次に言ったという。だけど、結果的にそうならず良かったのではないか。まだどこかに放浪したまま、最後の最後に阪神大震災後の神戸を応援に行き、それが「寅さんの遺言」になった。とても心に響く終わり方。23日に新文芸坐で「コックファイター」と「恐怖と欲望」。前者は「断絶」のモンテ・ヘルマンが作った闘鶏映画で、軽口を批判されて以後は口をきかないと決めた主人公ウォーレン・オーツがすごい。「デリンジャー」や「ガルシアの首」で忘れられない人だけど、この映画は大コケしたとかで、去年まで公開されなかった。まあコケるでしょうね。撮影がネストール・アルメンドロス。後者はキューブリックのデビュー作だけだけど、本人の意向で封印されていたという。戦争中にはぐれた4人の兵隊が次第に狂気に陥っていく小品で、明らかに才能がうかがわれるが、では面白いかと言えばそうとも言えない。
◎1月20日(月)
早稲田松竹で「ブリキの太鼓」と「バグダッド・カフェ」の「西ドイツ映画」2本立て。改めて、どちらもものすごい傑作だと思った。「ブリキの太鼓」は3歳で成長を止めたオスカルのナチス時代を描くギュンター・グラスの大長編の映画化。フォルカー・シュレンドルフ監督。カンヌ映画祭大賞、アカデミー外国映画賞、キネ旬外国映画1位という作品は「愛、アムール」までないのではないか。とにかく面白いのである。原作も映画も有名だから、今さら短評は書かないけど、これはどこかで必ず見るべき映画。一方、「バグダッド・カフェ」も何回見ても面白い。奇跡の映画だと思うし、人生を変えるかもしれない映画だと思う。バグダッドと言っても、アメリカの砂漠にある町。91年の湾岸戦争よりもさらに前の映画だから、皆まだバグダッドと聞いても硝煙の匂いを思い起こしたりはしなかった。
◎1月19日(日)
フィルムセンターで「男はつらいよ」を2本。どっちも見てるけど、見直すと細部を全く忘れていることに気づく。僕にとって、寅さんシリーズは渥美清や周囲の人物、または当時の風景、さらに「日本人の家族論」や「人間論」などを見るというのが長い間の見方だった。今見直すと、このシリーズは「旬の女優」の缶詰で、中期までの映画では「女優を見る楽しみ」が一番大きいのではないか。「葛飾立志扁」では若き桜田淳子が出てたことをすっかり忘れてた。これほど可愛かったかと思いだす。2本目の「寅次郎夕焼け小焼け」は寅さん史上最高のキネ旬2位となった。この作品は、前半が宇野重吉、後半が太地喜和子に分裂していると思っていた。今となると、宇野重吉も太地喜和子ももういないから、見てるだけで懐かしい。後半に出てきて映画を「かっさらう」感じの太地喜和子は本当に素晴らしい。その年の助演女優賞を軒並み取った。太地喜和子の魅力を永遠に伝える映画。「愛」という以上に「正義感」の物語で、「振り込め詐欺」などが頻発する現在の方が身に迫るかもしれない。終わった後でフィルムセンターで拍手が沸いた。
◎1月15日(水)
フィルムセンターで山田洋次作品を3本連続。昨日も「虹をつかむ男」を見た。今日はその続編1時に「虹をつかむ男 南国奮斗編」、4時に「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」、7時に「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」。最後は小諸ロケなので、行ったばかりで見たいなと思っていた。三田佳子がマドンナで、三田寛子が和歌を詠む早稲田の学生役。さすがに脚本がよくできてる。この頃はもう新作を見てない時期なんだけど、見て良かった。
◎1月13日(月)
早稲田松竹で、スティーブン・ソダーバーグの2作。「マジック・マイク」はフロリダで男性ストリッパーをしている男たち。「恋するリベラーチェ」は、70年代のラスベガスでショーをしている人気ピアニストの話。ゲイを隠しながら年下の恋人と暮らす様子を大娯楽映画として描く。マイケル・ダグラス、マット・デイモンが素晴らしい。どっちも純粋フィクションと思って見てたけど、後で解説見たらどっちも実話だった。ソダーバーグもいろいろ作ったけど、もう映画監督はしないと言ってる。こういう2本立ては名画座向きで、得した気分になる。
◎1月12日(土)
フィルムセンターで、山田洋次初期作品「運が良けりゃ」「一発逆転」。どっちも落語がもと、ハナ肇主演で倍賞千恵子が妹という作品。後者は現代に翻案してるけど。前者はアンツル(安藤鶴夫)が監修した本格的古典落語映画で、大船に江戸の長屋の大セットを作ったらしい。熊さん(ハナ)と八つぁん(犬塚弘)を中心にした滑稽譚で、藤田まこと、砂塚秀雄、渥美清らいろいろ出てる。最後が上方由来の大ネタ「らくだ」になるが、ここはおかしいが、後はあまり笑えなかった。後者はあまり上映されない「一発」シリーズの最初で、勘当されたハナが数十年ぶりに帰郷し温泉掘りに熱中する。当たるわけないと思ってるが…というあたりがおかしい。愚兄賢妹という構造が寅さんに引き継がれる。どこでロケしたのだろうか。
◎1月10日(土)
キネカ大森で「かぐや姫の物語」。見てる間はかなり満足して、高畑勲の最高傑作だと思ったんだけど、一日たったらなんだか忘れつつある。「風たちぬ」とどっちが上か難しいが、キネ旬では「かぐや姫」が4位、「風たちぬ」が7位だった。僕は「太陽の王子ホルスの大冒険」が好きだが、「アルプスの少女ハイジ」を通し、一貫して「文明批判」があるのではないか。「物語のふくらませ部分」の自然描写などは見入ってしまうのだが、ベースの竹取が物語としては初期のシンプルな世界なので、どうしても少し飽きてくる。中世史家の保立道久氏のブログ「かぐや姫の犯した『罪と罰』とは何か」は難しいけど、興味深い。
ここ数日に見た外国映画6本の短評。
・「幸せの行方」「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命」は主演のライアン・ゴズリング特集で、前者は不動産会社の御曹司が抑圧されて育ち、金持ちではないキルステン・ダンストと結婚するものの次第に心の歯車がゆがんで行く。「レベッカ」なんかにはるかに及ばぬ愛のミステリー。実話らしいけど。後者は子どもがいることを知り、銀行強盗でカネを稼ぐ若い男と、その男を射殺した警官の、子どもの世代にまたがる因縁の話。非常に面白い犯罪映画ではないか。キネカ大森。
・「アイム・ソー・エキサイテッド!」はペドロ・アルモドバルの新作だけど、大して面白くない。B級のテイストに戻ったというけど、昔の「バチ当たり修道院の最期」なんかのハチャメチャの面白さがない。いや、飛行機内は大混乱だけど、いくら何でも機内であんなに乱れては。
・「殿方ご免遊ばせ」はフィルムセンターで昔の洋画特集。でも千円も取るのにフィルムの状態が非常に悪い。これは通常の500円にしないといけない。ブリジット・バルドーはちょっと昔過ぎて、「軽蔑」などは見てるけど、娯楽映画は見てない。ミシェル・ボワロンだから期待してはいないけど、やはり面白くない。まあべべはこういう感じだったかと確認。当時はモンローとか今の檀蜜とかのような「お色気スター」だったわけだけど。今は反毛皮運動の旗手。
・「ソウル・ガールズ」。今月見た新作では一番感動した。68年のオーストラリア。アボリジニーの姉妹が歌がうまく、コンクールに出たい。でも白人に差別され認められない。ベトナム戦争慰問のグループを募集していて、それに応募しようとダメ男のピアニストに特訓を頼む。戦場に行くことでしか「解放」されなかった先住民女性の青春。戦場で見たものは…。68年のムード、戦場のベトナムを再現しながら、ソウル音楽の素晴らしさが心を動かす。「合唱映画」というのはいっぱいあるけど、これは出色で、音楽だけでなく、豪州に関心のある人も必見。
・「オンリー・ゴッド」。「ドライブ」のレブン監督がタイで撮ったバイオレンス映画。確かにすごいけど、これは僕にはあまり楽しめない。「オリエンタリズム」ではないか。いくらなんでも警官があんなに殺しまくって、その後カラオケするか。デンマークがああいう風に描かれたら面白くはないだろうと推察するが。でもライアン・ゴズリングは似た役柄が多いなあ。
◎1月23日(木)
22日にフィルムセンターで「男はつらいよ 紅の花」。結果的に「最後の寅さん」。そうとは思わないから、公開時は見なかった。寅さんが加計呂麻島でリリーと暮らしているところに、泉の結婚式をぶち壊した満男が訪ねていく。その設定だけは前から知ってるけど、これはこれで最後でもいい感じの映画ではないか。浅丘ルリ子は、渥美清の衰弱ぶりを見て、リリーと寅さんを結婚させてあげてと山田洋次に言ったという。だけど、結果的にそうならず良かったのではないか。まだどこかに放浪したまま、最後の最後に阪神大震災後の神戸を応援に行き、それが「寅さんの遺言」になった。とても心に響く終わり方。23日に新文芸坐で「コックファイター」と「恐怖と欲望」。前者は「断絶」のモンテ・ヘルマンが作った闘鶏映画で、軽口を批判されて以後は口をきかないと決めた主人公ウォーレン・オーツがすごい。「デリンジャー」や「ガルシアの首」で忘れられない人だけど、この映画は大コケしたとかで、去年まで公開されなかった。まあコケるでしょうね。撮影がネストール・アルメンドロス。後者はキューブリックのデビュー作だけだけど、本人の意向で封印されていたという。戦争中にはぐれた4人の兵隊が次第に狂気に陥っていく小品で、明らかに才能がうかがわれるが、では面白いかと言えばそうとも言えない。
◎1月20日(月)
早稲田松竹で「ブリキの太鼓」と「バグダッド・カフェ」の「西ドイツ映画」2本立て。改めて、どちらもものすごい傑作だと思った。「ブリキの太鼓」は3歳で成長を止めたオスカルのナチス時代を描くギュンター・グラスの大長編の映画化。フォルカー・シュレンドルフ監督。カンヌ映画祭大賞、アカデミー外国映画賞、キネ旬外国映画1位という作品は「愛、アムール」までないのではないか。とにかく面白いのである。原作も映画も有名だから、今さら短評は書かないけど、これはどこかで必ず見るべき映画。一方、「バグダッド・カフェ」も何回見ても面白い。奇跡の映画だと思うし、人生を変えるかもしれない映画だと思う。バグダッドと言っても、アメリカの砂漠にある町。91年の湾岸戦争よりもさらに前の映画だから、皆まだバグダッドと聞いても硝煙の匂いを思い起こしたりはしなかった。
◎1月19日(日)
フィルムセンターで「男はつらいよ」を2本。どっちも見てるけど、見直すと細部を全く忘れていることに気づく。僕にとって、寅さんシリーズは渥美清や周囲の人物、または当時の風景、さらに「日本人の家族論」や「人間論」などを見るというのが長い間の見方だった。今見直すと、このシリーズは「旬の女優」の缶詰で、中期までの映画では「女優を見る楽しみ」が一番大きいのではないか。「葛飾立志扁」では若き桜田淳子が出てたことをすっかり忘れてた。これほど可愛かったかと思いだす。2本目の「寅次郎夕焼け小焼け」は寅さん史上最高のキネ旬2位となった。この作品は、前半が宇野重吉、後半が太地喜和子に分裂していると思っていた。今となると、宇野重吉も太地喜和子ももういないから、見てるだけで懐かしい。後半に出てきて映画を「かっさらう」感じの太地喜和子は本当に素晴らしい。その年の助演女優賞を軒並み取った。太地喜和子の魅力を永遠に伝える映画。「愛」という以上に「正義感」の物語で、「振り込め詐欺」などが頻発する現在の方が身に迫るかもしれない。終わった後でフィルムセンターで拍手が沸いた。
◎1月15日(水)
フィルムセンターで山田洋次作品を3本連続。昨日も「虹をつかむ男」を見た。今日はその続編1時に「虹をつかむ男 南国奮斗編」、4時に「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」、7時に「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」。最後は小諸ロケなので、行ったばかりで見たいなと思っていた。三田佳子がマドンナで、三田寛子が和歌を詠む早稲田の学生役。さすがに脚本がよくできてる。この頃はもう新作を見てない時期なんだけど、見て良かった。
◎1月13日(月)
早稲田松竹で、スティーブン・ソダーバーグの2作。「マジック・マイク」はフロリダで男性ストリッパーをしている男たち。「恋するリベラーチェ」は、70年代のラスベガスでショーをしている人気ピアニストの話。ゲイを隠しながら年下の恋人と暮らす様子を大娯楽映画として描く。マイケル・ダグラス、マット・デイモンが素晴らしい。どっちも純粋フィクションと思って見てたけど、後で解説見たらどっちも実話だった。ソダーバーグもいろいろ作ったけど、もう映画監督はしないと言ってる。こういう2本立ては名画座向きで、得した気分になる。
◎1月12日(土)
フィルムセンターで、山田洋次初期作品「運が良けりゃ」「一発逆転」。どっちも落語がもと、ハナ肇主演で倍賞千恵子が妹という作品。後者は現代に翻案してるけど。前者はアンツル(安藤鶴夫)が監修した本格的古典落語映画で、大船に江戸の長屋の大セットを作ったらしい。熊さん(ハナ)と八つぁん(犬塚弘)を中心にした滑稽譚で、藤田まこと、砂塚秀雄、渥美清らいろいろ出てる。最後が上方由来の大ネタ「らくだ」になるが、ここはおかしいが、後はあまり笑えなかった。後者はあまり上映されない「一発」シリーズの最初で、勘当されたハナが数十年ぶりに帰郷し温泉掘りに熱中する。当たるわけないと思ってるが…というあたりがおかしい。愚兄賢妹という構造が寅さんに引き継がれる。どこでロケしたのだろうか。
◎1月10日(土)
キネカ大森で「かぐや姫の物語」。見てる間はかなり満足して、高畑勲の最高傑作だと思ったんだけど、一日たったらなんだか忘れつつある。「風たちぬ」とどっちが上か難しいが、キネ旬では「かぐや姫」が4位、「風たちぬ」が7位だった。僕は「太陽の王子ホルスの大冒険」が好きだが、「アルプスの少女ハイジ」を通し、一貫して「文明批判」があるのではないか。「物語のふくらませ部分」の自然描写などは見入ってしまうのだが、ベースの竹取が物語としては初期のシンプルな世界なので、どうしても少し飽きてくる。中世史家の保立道久氏のブログ「かぐや姫の犯した『罪と罰』とは何か」は難しいけど、興味深い。