尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

中高一貫校問題①3冊の本

2014年01月09日 23時38分30秒 |  〃 (東京・大阪の教育)
 年末に「中高一貫校」に関する新書が相次いで刊行された。3冊ある。新書は数多いが、このように同じようなテーマで刊行が続くのも珍しい。ちょうど中学受験(2月1日から)が始まる時期である。このテーマをもとに、現在の学校教育が抱える問題を少し考えておきたい。自分にとって、生徒としても教員としても関わりがあるテーマなので、語りにくい部分もあるのだが。まず最初は書評から。さて、その3冊の本とは以下の通り。
河合敦都立中高一貫校10校の真実」(幻冬舎新書、2013.11.30刊)
小林公夫公立中高一貫校」(ちくま新書、2013.12.10刊)
横田増生中学受験」(岩波新書、2013.12.20刊) 

 まず最初に書いておくことがある。それは③の岩波新書の冒頭にビックリすることが書いてあるのである。著者の横田氏がある「教育ジャーナリスト」に取材を申し込んだところ、受ける条件として「書籍全体のゲラをチェックして、コメントがどのような文脈で引用されているかを確認してから、コメントの使用を許可する」と言われたというのである。著者は「潜入ルポ アマゾン・ドット・コム」(朝日文庫)や「ユニクロ帝国の光と影」(文春文庫)という著書があり、もし同じ条件を付けられていたら、この2冊の本は全く内容が違ったのではないかというのである。ところが、このような条件は教育本にはありがちらしいのである。私立中高一貫校に関する本や雑誌記事などは、そのような「書かれる側でチェック済みの広告みたいなもの」である可能性が相当あるらしい。これは、わが子に良かれと本を探す親にとっては大きな落とし穴があるということだ。危ない、危ない。

 さて、中高一貫校とはそもそも何か。私立では昔から系列の大学に直結した中学や高校が人気を得てきた。また「教育の一貫性」をウリに難関大学に高い進学実績を残す「名門私立」も各地にある。一方、公立では(当然のことながら)義務教育である中学と、義務教育を外れる高校の一貫校は作ることが出来なかった。しかし、1998年の学校教育法改正により、公立の中高一貫教育が可能になり、宮崎県の五ヶ瀬中等教育学校が1999年に発足した。もともと全寮制の「県立五ヶ瀬中学」「県立五ヶ瀬高校」があり、独自の教育理念で教育を行ってきた。それを合併したもので、自然の中で少人数教育を行い、「わらじを作れる東大生」を育てるといった目標を掲げていた。(ホームページを見ると、過去に5人の東大合格者がいるが、最近5年にはいないようである。)このような学校が出来たということは、当時の教育関係者にビッグニュースとして受け止められたと記憶する。

 しかし、本当に公立中高一貫校が話題に上るようになったのは、2002年に都教委が都立高校10校を一挙に中高一貫校に再編成するという方針を打ち出してからである。2005年に第一陣として都立白鷗高校附属中学校が設立され、以後10校が続々と誕生し、2011年には白鷗高校の中高一貫一期生が卒業し、東大に5名が合格したために「白鷗ショック」とか「白鷗サプライズ」と呼ばれた。このあたりのことは次回以後に詳しく書くとして、これ以後特に全国的に公立中高一貫校への関心が高まってきたわけである。(なお、中高一貫教育には、3タイプあることになっている。しかし単に中高で「連携」を行うだけでは「中高一貫」とは言えない。中学段階で生徒を募集した以後は生徒を入れない「中等教育学校」型と、併設の「附属中学校」を作り、高校段階でも附属中とは別に高校入試を行う「併設型」が主に中高一貫校と言える。白鷗高校は「併設型」である。)

 公立中高一貫校では「適性検査」を行う。つまり「学力検査」は行わない。(行えない。)それは教育関係者にはほとんど自明のことだが、一般にはまだ驚かれることらしい。その是非は別として、一体どんな「検査」が行われているのか。その問題に答えるのが、②の「公立中高一貫校」という本である。ちゃんと問題を見た人は少ないだろうから、へえ、こういう問題が出るんだという面白さがこの本にはある。だけど、それでは「受検ガイド」である。この本は実際に受検指導に当たっている著者が、親子にインタビューした様子などを載せた本で、最終章が「親の力で、子どもを中高一貫校に合格させる」となっている。つまり客観的に中高一貫校を分析する本ではなく、「どういう親子が合格するか」という、新書としては異色の内容となっている。公立中高一貫校は「新しいブランドの誕生」と言われ、良いものであるというのが前提になっている本だと思う。一方、ご丁寧にも全国の各中高一貫校の問題分析が載せられているが、肝心の東京都では12月19日付で、「平成27年度から適性検査問題を共同作成する」と変わってしまった。まあ、直近の検査には関係ないけれど。

 どうしてそうなったかは、詳細は知らないけれど、①の河合著を読めば、「現場教員があまりにも大変である」ということにつきるのではないか。河合敦氏は昨年度まで白鷗高校で教えていた人で、昨年3月で退職した。もともと「歴史作家」として多くの著書を持ち、テレビ出演も多いので、歴史バラエティ番組などでご存じの人も多いだろう。著者は毎年学級担任をし、進路指導に尽力してきたことがこの本で判る。しかし、ついに「二足のわらじ」は不可能となったのである。そういう河合氏が、実際に中高一貫校教員として体験したことを書いた本が①である。恐らくこういう本は、以後書かれないのではないか。非常に貴重な本だと思う。そこで考えたことはいろいろあるのだが、「教員の平均在勤期間が3・3年という現実」「力量のある教員から敬遠される中高一貫校」という驚くべき実態が語られている。また併設型の白鷗では、中学からの生徒と高校からの生徒では、同じクラスにはできない(中学段階の学習進度が違う)という様子も書かれている。

 一方、私立中高一貫校に詳しいのが③の岩波新書。特に20世紀後半に東京に吹き荒れた私立「お受験」ブームや塾の事情などが興味深い。小学生の進学塾の老舗、四谷大塚は今では東進ハイスクールの傘下にあるという。2006年に合併されたということで、「予備校によるM&Aの先陣を切った」というから、さすが「今でしょ」の林修先生のいる予備校である。一方、杉並区立和田中の「夜スぺ」で話題となったSAPIXは、2009年と2010年に代ゼミに買収されたという。(中高部と小学部が別々に買収されたということらしい。)また「私立中高一貫校は“夢の楽園”なのか」と問題を投げかけ、最後の章は「教育格差の現場を歩く」となっている。一般書としては③をまず読まないといけない。しかし、この3著はある意味で「合わせ鏡」となっていて、「そういう本が求められている」という意味で併読する方が面白い。特に首都圏の教員、保護者は読んでみる価値があるだろう。では僕の意見は?それは次回以後に。3冊の本を載せておくので、帯の文を読むと、それぞれのスタンスがある程度わかるだろう。
  
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