辻村深月原作、河瀬直美脚本、撮影、監督の映画「朝が来た」が面白かった。河瀬直美監督は相性が悪い方で、この映画もまあ見なくてもいいかと思っていた。全部の映画は見られないから、自分なりに分類するわけ。しかし最近疲れていたので、見に行ったのである。変な表現だが、昔の映画2本立てや寄席なんかは、疲れてると大変なのだ。美術館や博物館も予約してまで行くのも面倒だけど、空いてる新作映画なら見に行けるのである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/26/51/1b018c8912c053a1afd96e6e3671c1a7_s.jpg)
冒頭で永作博美の妻(栗原佐都子)が出てくる。夫は井浦新(栗原清和)である。原作があると知ってるし(読んでない)、夫婦を知名度のある俳優がやっている。当然劇映画だと判って見ている。しかし、まるで悩み多き夫婦の密着取材かと思うシーンが続く。幼稚園から電話が掛かってきて、子どもが友だちをジャングルジムから押して落としたかもしれないと言われる。この子(朝斗)は「特別養子」として迎えた子で、夫婦の間には子どもが出来なかった。前半は夫婦の不妊治療と養子を迎える決断をするまでを繊細に描き出す。
(栗原一家)
大体の人はある程度の情報を持って映画に接するものだ。僕も大筋は知って見たが、子どもの実の母親は14歳の中学生だった。思いがけない妊娠をした片倉ひかりを後半は描き出す。演じているのは蒔田彩珠で実に見事な演技が賞賛されている。読み方もよく判らなかったが、「まきた・あじゅ」。「万引き家族」の松岡茉優の妹、「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の主人公の友だちを演じていた。役柄に没頭した自然な演技は強い共感を呼ぶ。
(片倉ひかり)
初めて好きになった同級生と結ばれ、初潮前だったのに妊娠した。気付いたときは中絶可能期間を過ぎていた。育てられないと親が判断し、学校には病気といって広島の島にある「ベビーバトン」という団体の寮に行く。そこには様々な事情で自分では育てられない女性が集まっている。「ベビーバトン」の責任者浅見は浅田美代子が好演。だから創作なんだけど、撮影も担当する河瀬直美自身が、彼女たちにインタビューしている。劇映画ではあり得ない手法だが、このドキュメンタリー的な部分が成功している。見るものはまるで現実の施設にいる感覚になってくる。
河瀬直美監督(1969~)ほど内外の評価が違う映画監督は珍しい。(北野武もフランスでは大芸術家扱いだが、日本はそこまでではない。とはいえ、ベストテンなどには何度も入選していて評価されていないわけではない。)河瀬直美は長編劇映画のデビュー作「萌の朱雀」(1997)がカンヌ映画祭で新人監督賞を受けて世界に知られた。その後「殯(もがり)の森」(2007)がグランプリを取るなど、何回も公式コンペティションに選ばれている。しかし、キネマ旬報ベストテンを見てみると、「萌の朱雀」が10位に入った以外一度も入選していない。
僕も日本の評価の方が正しいように思っていた。「作家性」の強い作風だが、「独自性」よりも「独善性」じゃないかと思う描写や展開が多かった。「2つ目の窓」(2014)や「あん」(2015)の頃から少し変わってきたが、今度は判りやすい描写が必ずしも生きているとは思えない感じもした。もともと自分の私的なドキュメンタリーから製作を始めた人である。対象を見つめる目の独自性、特に自然描写の圧倒的な魅力に大きな特徴があった。「朝が来た」はその自然描写が魅力的で、対象に共感させる力も今までの映画で一番強いと思う。
そしてある日、栗原家に電話があり「子どもを返して欲しい」という。それは誰で、それは何故? 「ひかり」のその後を通して、日本社会の裏の面が描かれる。追い詰められた女性たちが数多くいる。こういう問題、特に「特別養子」という制度には、外部からの安易な感想が言いにくい。「正解がない」問題だと思う。自分の場合を考えても、どんな選択がベストなのか判らない。僕には劇中の彼らがどうすればよかったのか判らない。今後どうするべきかも僕には答えがない。そういう物語は書きにくいんだけど、見る価値はあった。違う人生(実子がいる、あるいは結婚していない等)を送っている人でも見る価値がある。「もう一つの人生」がすぐそこにあった。
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冒頭で永作博美の妻(栗原佐都子)が出てくる。夫は井浦新(栗原清和)である。原作があると知ってるし(読んでない)、夫婦を知名度のある俳優がやっている。当然劇映画だと判って見ている。しかし、まるで悩み多き夫婦の密着取材かと思うシーンが続く。幼稚園から電話が掛かってきて、子どもが友だちをジャングルジムから押して落としたかもしれないと言われる。この子(朝斗)は「特別養子」として迎えた子で、夫婦の間には子どもが出来なかった。前半は夫婦の不妊治療と養子を迎える決断をするまでを繊細に描き出す。
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大体の人はある程度の情報を持って映画に接するものだ。僕も大筋は知って見たが、子どもの実の母親は14歳の中学生だった。思いがけない妊娠をした片倉ひかりを後半は描き出す。演じているのは蒔田彩珠で実に見事な演技が賞賛されている。読み方もよく判らなかったが、「まきた・あじゅ」。「万引き家族」の松岡茉優の妹、「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の主人公の友だちを演じていた。役柄に没頭した自然な演技は強い共感を呼ぶ。
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初めて好きになった同級生と結ばれ、初潮前だったのに妊娠した。気付いたときは中絶可能期間を過ぎていた。育てられないと親が判断し、学校には病気といって広島の島にある「ベビーバトン」という団体の寮に行く。そこには様々な事情で自分では育てられない女性が集まっている。「ベビーバトン」の責任者浅見は浅田美代子が好演。だから創作なんだけど、撮影も担当する河瀬直美自身が、彼女たちにインタビューしている。劇映画ではあり得ない手法だが、このドキュメンタリー的な部分が成功している。見るものはまるで現実の施設にいる感覚になってくる。
河瀬直美監督(1969~)ほど内外の評価が違う映画監督は珍しい。(北野武もフランスでは大芸術家扱いだが、日本はそこまでではない。とはいえ、ベストテンなどには何度も入選していて評価されていないわけではない。)河瀬直美は長編劇映画のデビュー作「萌の朱雀」(1997)がカンヌ映画祭で新人監督賞を受けて世界に知られた。その後「殯(もがり)の森」(2007)がグランプリを取るなど、何回も公式コンペティションに選ばれている。しかし、キネマ旬報ベストテンを見てみると、「萌の朱雀」が10位に入った以外一度も入選していない。
僕も日本の評価の方が正しいように思っていた。「作家性」の強い作風だが、「独自性」よりも「独善性」じゃないかと思う描写や展開が多かった。「2つ目の窓」(2014)や「あん」(2015)の頃から少し変わってきたが、今度は判りやすい描写が必ずしも生きているとは思えない感じもした。もともと自分の私的なドキュメンタリーから製作を始めた人である。対象を見つめる目の独自性、特に自然描写の圧倒的な魅力に大きな特徴があった。「朝が来た」はその自然描写が魅力的で、対象に共感させる力も今までの映画で一番強いと思う。
そしてある日、栗原家に電話があり「子どもを返して欲しい」という。それは誰で、それは何故? 「ひかり」のその後を通して、日本社会の裏の面が描かれる。追い詰められた女性たちが数多くいる。こういう問題、特に「特別養子」という制度には、外部からの安易な感想が言いにくい。「正解がない」問題だと思う。自分の場合を考えても、どんな選択がベストなのか判らない。僕には劇中の彼らがどうすればよかったのか判らない。今後どうするべきかも僕には答えがない。そういう物語は書きにくいんだけど、見る価値はあった。違う人生(実子がいる、あるいは結婚していない等)を送っている人でも見る価値がある。「もう一つの人生」がすぐそこにあった。