尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「メダルラッシュ」の虚実、柔道の成功ー東京五輪を振り返る①

2021年08月09日 22時37分25秒 | 社会(世の中の出来事)
 東京オリンピックの会期が終わったので、いくつかの問題を振り返ってみたいと思う。どんどん忘れていくから、他のことをおいて東京五輪の話を何回か。今回はいろんな問題があった大会だったから、特にこれはどうかなと思う点を中心に考えてみたい。まずは日本のメダル数である。今回日本は金=27、銀=14、銅=17、計58個のメダルを獲得した。過去最高であり、これを抜くことはもうないだろう。何でかというと、2024年パリ大会では野球・ソフトボール、空手が実施されないから、すでに金メダルが3個減ることが決まっているのである。

 今回の東京五輪では、日本のメダル数が金メダルで米中に次ぐ第3位金銀銅の総メダル数ではROC(ロシア)、英国に次ぐ第5位だった。メダルの国別ランキングでは金で順位付けしているから日本は世界3位という印象になる。でも本当は総メダル数の方を見るべきだろう。本来は国ごとにメダル数を比べるのは五輪憲章に反する。しかし、全世界で実際は「国力」を測る数値のように使われている。だから、マスコミも大きく報じニッポンバンザイ的にあおる。確かに金メダル数世界3位は事実だから、それを素直に喜ぶべきなのか。

 しかし、素直じゃない身としては疑問がふつふつと湧いてくるのである。何故かといえば、「比較の対象が違っている」からである。リオ大会にソフトボールがあれば、やはり金メダルだったのではないだろうか。だからリオ大会と東京大会を単純に比べることに意味がないと思うのである。全部見ると面倒だから金メダルに限ることにするが、日本はリオで12個、ロンドンで7個だった。1964年東京と2004年アテネの16が過去最高だった。

 リオ大会では、競泳=2体操=2、レスリング=4(女子)、柔道=3(男子2,女子1)、バドミントンである。このうち、競泳は銀2,銅3を獲得、柔道は銀1,銅8を獲得した。ロンドン大会では柔道の金は松本薫の1個だけ、銀2,銅3だった。競泳は金はゼロだが、銀3,銅8だった。ロンドンの金は他に体操1,ボクシング1,レスリング4(女子3,男子1)だった。

 それでは今回の東京大会を見ると、前回実施されなかった独自競技としで野球・ソフトボール=金2空手=金1、銀1、銅1、スケートボード=金3、銀1,銅1、スポーツクライミング=銀1、銅1,サーフィン=銀1,銅2となっている。合計すると、金6、銀4、銅5も獲得している。それはもちろん立派なことだけど、リオと比べるんなら別扱いするべきではないか。また卓球の混合ダブルスも初の種目だし、女子レスリングも前回までの4階級から6階級に増えた。今回は重量級2つでメダルを逃していて、前回までと同じならやはり3つだった可能性が高い。

 今回の日本の金メダルが史上最高だったのは「日本が得意な種目を加えた」ことが大きい。これを大騒ぎするのは「粉飾決算」とまでは言わないけれど、日経平均の指定銘柄を勝手に入れ替えて株価が上がっている新興企業を組み入れて「株価が上昇した」と強弁するようなものではないか。もっともそれを差し引いても金メダル数は増えているのも確かだ。今回はフェンシング女子ボクシング卓球などで史上初の金を獲得した。

 しかし、それ以上に要するに柔道の金メダルが9個と過去最多だったことが大きい。リオ大会でメダル数12個中、金は3個だった。東京大会ではメダル数は同じ12個ながら、金9、銀2、銅1と圧倒的に金が多い。しかし、それでも銀の一つは今回から実施の混合団体だから、個人が獲得したメダル数は1個減っているのである。今回の東京五輪では柔道レスリングは期待通りに活躍したが、競泳バドミントンは事前に期待された結果にならなかった。別にメダルにこだわるということではなく、なぜ柔道はうまくいって競泳はうまくいかなかったのかを考えることが教育や企業経営などにも生かせると思う。

 ということで少しは競技の話を最後に。今回は柔道をずいぶん見た気がする。レスリングも見た。妻が卓球を見ていて、1ゲーム終わるごとにレスリングに変えては早く戻してといわれていた。どうも球技よりも格闘技の方が好きなのかもしれないと初めて自分で感じた。何でかというと、ほんのちょっとの油断ですべてが終わるという緊迫感が半端ないのである。それはスポーツ全部に言えるけれど、球技の場合相手がマッチポイントを迎えても、そこから連続ポイントを獲得して逆転することもある。しかし、柔道やレスリングでは「一本勝ち」というルールがあるから、一瞬の油断で大技を決められたら終わりである。

 柔道は4分間で決着しない場合、勝敗が決するまで戦い続ける「ゴールデンスコア」方式になる。リオ大会後の変更で、それまでの「有効」「効果」という小技による決着、それでも決着しない場合の審判による判定決着をなくして、「技あり」「一本」のみにして延々と戦うのである。さらに、消極的選手に出される「指導」を4回で反則負けからを「指導3回で反則負け」に変えた。とにかく積極的に攻めて技で決着しようという変更である。
 (新井千鶴、タイマゾワ、表彰式と準決勝)
 今回の五輪の中でももっとも凄まじかったのは、柔道女子70キロ級準決勝新井千鶴・タイマゾワ(ROC)戦だった。その結果、新井・タイマゾワ戦は延長しても全く決着せず、何と16分41秒という死闘を繰り広げたのである。しかも、決着したのは新井の絞め技だった。タイマゾワは「落ちた」(失神した)ことで一本負け敗戦となる壮絶な決着だった。「感動を貰える」なんてレベルを超越している。一人しか生き残れない格闘技のトーナメントの非情さをまざまざと感じた。「双方ともに金」が出来る高跳びがうらやましい。

 タイマゾワはそれまでの対戦で負傷していて、大きな絆創膏を額に貼りながら抵抗を続けた。最後の頃は明らかに体力的に新井優位になっていたが、凄まじいまでの頑張りで抵抗し続けた。結局寝技に持ち込まれて「締め」で決着。五輪で絞め技なんて今まであったのだろうか。それでも凄いと思うのは、3位決定戦でタイマゾワはクロアチアの選手に延長戦で勝って銅メダルを獲得したのである。一方新井千鶴もオーストリアのポレレスに技ありで4分間で勝って金メダルとなった。大野将平阿部一二三、詩兄妹、日本最初の金メダルとなった高藤直寿なども素晴らしい選手だと思ったけれど、何といっても新井千鶴選手のすごい戦いが思い出される。

 柔道の日本選手はナショナルトレーニングセンターでずっと合宿トレーニングを続けられ、時差も隔離も不要なのでアンフェアだという声もあった。そういう「地の利」もあったろうが、それだけではない。柔道の国際化に伴い、一時は日本のメダル数も落ちていた。1988年ソウル大会では金メダルが1個だった。(女子は公開競技で正式競技ではなかった。)ロンドン大会は先に見たように金は松本薫一個。今回テコンドーで韓国の金メダルがなかったというが、テコンドーが国際化する中で発祥国が低迷する段階なのだろう。日本柔道はルール改正もあって、技と練習量がより重要になった。それに合わせたトレーニングを続けてきたということだろう。柔道は開会式翌日から始まるから、他競技の日本選手にも影響を与える。柔道の「成功」が今回の東京五輪に大きな意味を持った。(他の競技も書く予定だったが、長くなったのでここで終わる。)
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