新潟県の一番西(富山県寄り)にある糸魚川を訪ねたことがあるだろうか。読めない人がいるかもしれないから、一応ふりがなを書いておくと「いといがわ」である。ここは多くの人、特に日本の教員には一度は行って欲しい場所だ。社会や国語もそうだけど、特に理科の教員。でも周囲に行ったことがある人はほとんどいないようだった。僕は歴史少年になる前は地図ばかり見ている地理少年だったから、「糸魚川」という地名にはなじみがある。言うまでもなく「糸魚川・静岡構造線」(以下、糸静線)である。「糸魚川」という不思議な地名とともに、一体どんなところだろうと思っていた。
自分が行ったのは今から十数年前のことだが、糸魚川だけが目的じゃなかった。長野県の白馬や小谷(おたり)温泉に泊まろうと企画した後で、地図を見たら糸魚川は県境を越えたすぐ北じゃないか。この機会に行こうかと思ったが、じゃあ宿はどうする。有名な宿がたくさん紹介されている温泉ガイドはあるし、秘湯を紹介する本も多い。「笹倉温泉龍雲荘」という「日本秘湯を守る会」に入っている温泉があるが、他はガイドにも出ていない。移動を考えると、もう一つ泊まる宿が欲しい。そこでネットを探し回って見つけたのが姫川温泉の「ホテル國富翠泉閣」という宿だった。ここは素晴らしい宿だったけど、その後もほとんど紹介されていない。
(「國富翠泉閣」大浴場と全景)
お湯はこんこんと湧き出て掛け流しであふれている。日本海の新鮮な魚や新潟のお米は美味しいし、宿はキレイで言うことなし。というのは言いすぎで、ちょっと困ったのは夏の露天風呂で、アブが襲撃してくることだった。しかし、何より良かったのは、「ムアツフトン」が用意された部屋があったことだ。少し高かったと思うが、そこでグッスリと休むことが出来た。その後しばらくの間案内のハガキが来ていたが、二度行けるほど近くない。久しぶりにホームページをのぞいてみたら、客数をおさえて営業しているようだ。その分宿代が高いように思ったが、風呂や料理は相変わらず素晴らしい感じだった。
糸魚川は日本だけでなく世界のジオパークに指定されている。「ジオパーク」というのは、地球科学的価値が高い景観を保護し観光や教育に生かそうという「公園」である。世界ジオパークに指定されたところが日本には8つある。他にも日本独自のジオパークが40箇所以上指定されている。僕が行ったころは、まだジオパークという仕組みは出来ていなかったが、糸魚川では90年代からジオパーク構想を持って施設整備を進めていた。中心になる施設は、1994年に出来たフォッサマグナミュージアムで、ここは絶対に一度は訪れたい場所だ。フォッサマグナというのは日本列島を東西に分ける「大地溝帯」だが、その西の断層ラインが「糸静線」である。ミュージアムの近くには、地層そのものを見られる場所があって「東西」がまさに明示されている。
(フォッサマグナミュージアムと地層)
僕はフォッサマグナをよく理解していなかったのだが、たまたま本屋で講談社ブルーバックスに藤岡換太郎「フォッサマグナ」という本を見つけた。2018年8月に出た本で、はっきり言って難しいところがある。フォッサマグナという地形は世界のどこにもないという特殊なもので、何故出来たのかの定説もまだないんだそうだ。そこで様々な知見を検討し、成因の仮説を提示している。その当否は判らないが、とにかく重大な問題だなあと思った。「日本の東西差」は網野善彦らによって、日本を考えるときの鍵とされてきた。植生や動物、食品の好みなど多くの点で今も東西差が日本にはある。大きく言ってしまえば、その東西というのは「糸静線」である。ここへ行かずに日本文化を論じるなかれである。
(藤岡換太郎「フォッサマグナ」)
糸魚川は歴史的にも非常に重要な場所である。それは「翡翠(ヒスイ)」で、日本で(ほぼ)ただ一つのヒスイ産地だった。姫川や青海川に沿った渓谷で産出し、縄文時代から多くのヒスイが装身具として使われてきた。勾玉(まがたま)を(実物やレプリカで)見たことがある人は多いだろう。それがどこで作られたか長いこと判らなかったが、実は全部糸魚川産だった。そして北海道から沖縄、さらに朝鮮半島にまで流通していた。「小滝川ヒスイ峡」に行っても、ああここかと思っただけだったが、天然記念物指定の峡谷である。今も時々川から流れたヒスイが海岸で見つかることがあるとか。糸魚川のあちこちに大きなヒスイが飾られていて、今は糸魚川のシンボルだが、実は奈良時代にヒスイ文化が廃れて以後ずっと忘れられていたというから驚き。
(ヒスイ峡と勾玉)
他にも面白いところは多い。「高浪の池」なんて全国的には知られていないが、とても不思議で大きな池だった。全国にそういう「地元では有名な観光地」があるものだ。海辺に出れば難所で知られた「親不知」(おやしらず)もあるし、芭蕉が宿泊した「市振」(いちぶり)もある。「一つ家に 遊女も寝たり 萩と月」の句を詠んだところである。車がないと効率よく回るのは大変だと思うが、是非一度は行っておきたい場所。笹倉温泉にも泊まったが、行く途中で海からあっという間に山になる地形が面白かった。
自分が行ったのは今から十数年前のことだが、糸魚川だけが目的じゃなかった。長野県の白馬や小谷(おたり)温泉に泊まろうと企画した後で、地図を見たら糸魚川は県境を越えたすぐ北じゃないか。この機会に行こうかと思ったが、じゃあ宿はどうする。有名な宿がたくさん紹介されている温泉ガイドはあるし、秘湯を紹介する本も多い。「笹倉温泉龍雲荘」という「日本秘湯を守る会」に入っている温泉があるが、他はガイドにも出ていない。移動を考えると、もう一つ泊まる宿が欲しい。そこでネットを探し回って見つけたのが姫川温泉の「ホテル國富翠泉閣」という宿だった。ここは素晴らしい宿だったけど、その後もほとんど紹介されていない。
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お湯はこんこんと湧き出て掛け流しであふれている。日本海の新鮮な魚や新潟のお米は美味しいし、宿はキレイで言うことなし。というのは言いすぎで、ちょっと困ったのは夏の露天風呂で、アブが襲撃してくることだった。しかし、何より良かったのは、「ムアツフトン」が用意された部屋があったことだ。少し高かったと思うが、そこでグッスリと休むことが出来た。その後しばらくの間案内のハガキが来ていたが、二度行けるほど近くない。久しぶりにホームページをのぞいてみたら、客数をおさえて営業しているようだ。その分宿代が高いように思ったが、風呂や料理は相変わらず素晴らしい感じだった。
糸魚川は日本だけでなく世界のジオパークに指定されている。「ジオパーク」というのは、地球科学的価値が高い景観を保護し観光や教育に生かそうという「公園」である。世界ジオパークに指定されたところが日本には8つある。他にも日本独自のジオパークが40箇所以上指定されている。僕が行ったころは、まだジオパークという仕組みは出来ていなかったが、糸魚川では90年代からジオパーク構想を持って施設整備を進めていた。中心になる施設は、1994年に出来たフォッサマグナミュージアムで、ここは絶対に一度は訪れたい場所だ。フォッサマグナというのは日本列島を東西に分ける「大地溝帯」だが、その西の断層ラインが「糸静線」である。ミュージアムの近くには、地層そのものを見られる場所があって「東西」がまさに明示されている。
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僕はフォッサマグナをよく理解していなかったのだが、たまたま本屋で講談社ブルーバックスに藤岡換太郎「フォッサマグナ」という本を見つけた。2018年8月に出た本で、はっきり言って難しいところがある。フォッサマグナという地形は世界のどこにもないという特殊なもので、何故出来たのかの定説もまだないんだそうだ。そこで様々な知見を検討し、成因の仮説を提示している。その当否は判らないが、とにかく重大な問題だなあと思った。「日本の東西差」は網野善彦らによって、日本を考えるときの鍵とされてきた。植生や動物、食品の好みなど多くの点で今も東西差が日本にはある。大きく言ってしまえば、その東西というのは「糸静線」である。ここへ行かずに日本文化を論じるなかれである。
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糸魚川は歴史的にも非常に重要な場所である。それは「翡翠(ヒスイ)」で、日本で(ほぼ)ただ一つのヒスイ産地だった。姫川や青海川に沿った渓谷で産出し、縄文時代から多くのヒスイが装身具として使われてきた。勾玉(まがたま)を(実物やレプリカで)見たことがある人は多いだろう。それがどこで作られたか長いこと判らなかったが、実は全部糸魚川産だった。そして北海道から沖縄、さらに朝鮮半島にまで流通していた。「小滝川ヒスイ峡」に行っても、ああここかと思っただけだったが、天然記念物指定の峡谷である。今も時々川から流れたヒスイが海岸で見つかることがあるとか。糸魚川のあちこちに大きなヒスイが飾られていて、今は糸魚川のシンボルだが、実は奈良時代にヒスイ文化が廃れて以後ずっと忘れられていたというから驚き。
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他にも面白いところは多い。「高浪の池」なんて全国的には知られていないが、とても不思議で大きな池だった。全国にそういう「地元では有名な観光地」があるものだ。海辺に出れば難所で知られた「親不知」(おやしらず)もあるし、芭蕉が宿泊した「市振」(いちぶり)もある。「一つ家に 遊女も寝たり 萩と月」の句を詠んだところである。車がないと効率よく回るのは大変だと思うが、是非一度は行っておきたい場所。笹倉温泉にも泊まったが、行く途中で海からあっという間に山になる地形が面白かった。