『コット、はじまりの夏』という映画を見たのはちょっと前のことだ。時間が経ってしまったけど、何だか心に残っているのでやはり書いておきたい。アイルランドの映画で、2022年度の米国アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた。これは同国初だという。またベルリン映画祭の国際ジェネレーション部門でグランプリを受賞している。
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アイルランドの農村地帯に住む一家の物語である。1981年の話らしいが、それはインターネットの情報による。一家は横暴な父が支配していて、9歳の少女コット(キャサリン・クリンチ)は親にもなかなか心を開けない。学校でも孤立しているようで、友人と遊ぶこともない。英語題が「The Quiet Girl」で、まさにおとなしく静かな少女である。別に傷害があるとか、いじめられているとかではなく、ただ内気なのである。父母に加えて、年の離れた姉もいて、自分のペースで話すことが出来ないのである。
(コット)
その年の夏、母は妊娠していてコットを構うことが難しい。母親のいとこ夫婦が預かっても良いと言うことで、夏休みの間だけやはり農家のアイリンとショーンの家に行くことになった。厄介払いみたいなもんだけど、コットはおとなしく従う。その家には子どもはなく、夫婦は親切に受け入れてくれる。やがて牛の世話も手伝えるようになり、コットもなじんでくる。アイリンは「わが家には秘密はない」と言って、何でも困ったことはしゃべってくれるように言う。子供服がないので、一緒に町まで買いに行ったりする。そんなひと夏の愛おしい一瞬一瞬を美しい映像で記録した映画である。
(コットとアイリーン)
ところが実はその家には悲しい「秘密」もあったのである。コットがその事を知ることで、預かってくれている夫婦と心が通ってくるのである。アイルランドの美しい自然の中で、コットの「はじまりの夏」を描くだけの映画。それだけなので、大きな社会的テーマがあるわけじゃない。欧米では子どもも皆独立心旺盛で自己表現に優れているなんてことは、やっぱりないのである。内気でおとなしい少女はやっぱりいるんだけど、誤解されやすいのである。夏休みも終わるので家に戻るというとき、コットも初めて自分の気持ちを全開にする。それが見る者の心を打つ。
(コルム・バレード監督)
子どもの眼で描くある夏の日々。それだけの映画である。いじめも虐待もないけど、がさつで口うるさい父親のもとで、静かに生きていた少女。コットという少女が、とてもいじらしく忘れがたいのである。ドラマというほどのドラマもない映画だが、何十年も経ってからもコットはこの夏を覚えているだろう。監督・脚本は1981年生まれのコルム・バレードという男性である。短編映画やドキュメンタリー映画を作った後で、初めての長編劇映画としてこの映画を作った。コットは芯が強いけど、表面上おとなしいから、心の中を周りが気づけない。こういう子どもっているなあと思った。「夏休み映画」はいっぱいあるが、こんな風に静かで心に沁みるような作り方も出来る。
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アイルランドの農村地帯に住む一家の物語である。1981年の話らしいが、それはインターネットの情報による。一家は横暴な父が支配していて、9歳の少女コット(キャサリン・クリンチ)は親にもなかなか心を開けない。学校でも孤立しているようで、友人と遊ぶこともない。英語題が「The Quiet Girl」で、まさにおとなしく静かな少女である。別に傷害があるとか、いじめられているとかではなく、ただ内気なのである。父母に加えて、年の離れた姉もいて、自分のペースで話すことが出来ないのである。
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その年の夏、母は妊娠していてコットを構うことが難しい。母親のいとこ夫婦が預かっても良いと言うことで、夏休みの間だけやはり農家のアイリンとショーンの家に行くことになった。厄介払いみたいなもんだけど、コットはおとなしく従う。その家には子どもはなく、夫婦は親切に受け入れてくれる。やがて牛の世話も手伝えるようになり、コットもなじんでくる。アイリンは「わが家には秘密はない」と言って、何でも困ったことはしゃべってくれるように言う。子供服がないので、一緒に町まで買いに行ったりする。そんなひと夏の愛おしい一瞬一瞬を美しい映像で記録した映画である。
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ところが実はその家には悲しい「秘密」もあったのである。コットがその事を知ることで、預かってくれている夫婦と心が通ってくるのである。アイルランドの美しい自然の中で、コットの「はじまりの夏」を描くだけの映画。それだけなので、大きな社会的テーマがあるわけじゃない。欧米では子どもも皆独立心旺盛で自己表現に優れているなんてことは、やっぱりないのである。内気でおとなしい少女はやっぱりいるんだけど、誤解されやすいのである。夏休みも終わるので家に戻るというとき、コットも初めて自分の気持ちを全開にする。それが見る者の心を打つ。
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子どもの眼で描くある夏の日々。それだけの映画である。いじめも虐待もないけど、がさつで口うるさい父親のもとで、静かに生きていた少女。コットという少女が、とてもいじらしく忘れがたいのである。ドラマというほどのドラマもない映画だが、何十年も経ってからもコットはこの夏を覚えているだろう。監督・脚本は1981年生まれのコルム・バレードという男性である。短編映画やドキュメンタリー映画を作った後で、初めての長編劇映画としてこの映画を作った。コットは芯が強いけど、表面上おとなしいから、心の中を周りが気づけない。こういう子どもっているなあと思った。「夏休み映画」はいっぱいあるが、こんな風に静かで心に沁みるような作り方も出来る。