尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

柳亭こみちの「改作古典」他-新宿末廣亭2月下席(昼の部)

2024年02月25日 22時02分35秒 | 落語(講談・浪曲)
 寒い雨の日曜日に新宿まで落語を聴きに。新宿末廣亭2月下席(昼の部)は、女性落語家の柳亭こみちがトリである。1月31日の「落協レディーズ」では、昼に出ていたので聴いてなかった。その日に割り引きチラシを配ってたので、行こうかなと思っていた。他にも柳家権太楼桃月庵白酒古今亭文菊など、僕の好きな落語家も勢揃い。この前聞いた川柳つくし、真打昇進間近の林家つる子(三遊亭わん丈と日替わり)など実に魅力的な顔ぶれが揃っていた。

 よく寄席の記事を書くが大体は出番通りに書くことが多い。そうすると、トリの噺家にたどり着くまで長くなり、書く方も読む方も印象が薄くなる。そこで今回は柳亭こみちから書きたい。この人は何回か聞いてるが、最近非常に面白くて注目している。もしかして女性落語家で一番面白いんじゃないだろうか。協会が違う芸協所属の、それも漫才師の宮田昇(「宮田陽・昇」として出ている)と結婚していて、10歳と8歳の男児の母でもある。古典落語を「改作」して、主人公を女性に置き換えて語る「改作古典」をたくさん作っていることで知られている。
(柳亭こみち)
 今日は「リクエスト」で演目を決めると言って3つの中から拍手を求めたが、どれも同じぐらい。困っていたけれど、結局「寝床~おかみさん編」をやった。「寝床」は、大家の旦那が義太夫好きで長屋の店子を集めて義太夫を語る会を開くという。美味しいものも出るというのに、凄まじいまでの下手さが知れ渡って皆が行き渋るという噺。その旦那を大店のおかみさんに変えて、設定は同じ。店子にとって大家は親も同然というけど、やはり他人である。一方、おかみさんとなると夫婦であるから店の旦那の悩みはさらに大きい。こういう「下手の横好き」の話は世界にもあるが、なかなか壮絶でとてもおかしかった。
(柳亭燕路)
 こみちの師匠は柳亭燕路(りゅうてい・えんじ)で、今回は入ってないはずが林家正蔵の代演で聞くことが出来た。多分初めてなのだが、なかなか上手くておかしかった。「やかんなめ」という噺で、初めて聴くが変な落語もあったもんだ。昔はよく女性の病気に「」(しゃく)というのがあった。いろんな痛みの総称で、腹痛や生理痛を指していたことも多いだろう。「癪にさわる」の語源である。ある奥方が道ばたで癪が起きる。実は「薬罐」(やかん)をなめると治るという特徴があるというんだけど、道中に薬罐など持参していない。そこに頭がハゲている武士が通りかかり、薬罐にソックリじゃないかと思いつき…。そんなバカな!

 川柳つくしは婚活をめぐる新作。婚活にあたって自分の魅力が低いことを知っている女性が、相手の男性にも何でも「低い」ことを求めたが…。林家つる子は今日は古典で、こっちも「やかん」の噺。知ったかぶりの隠居の「先生」が訪ねてきた八五郎を「愚者」「愚者」と呼ぶ。判らないから誉められているのかと思うが、実はそうじゃない。それではクジラの語源を知ってるかと聞くのだが、先生はヘリクツで答える。続いて「やかん」は何故やかんというのかと質問する。先生はなんと川中島の戦いを朗々と語り出し、ついに…。この講談調になるところが熱演で、やはりこの人は魅力である。
(林家つる子)
 柳家権太楼はトンデモ床屋に入ってしまった男の「悲劇」をおかしく語る「無精床」。古今亭文菊は、風に強い日に本妻と妾の間をウロウロする「権助提灯」。ヤキモチと女の意地がエスカレートして、旦那は居所を失うという噺だが、文菊はいつものようにうまい。橘家文蔵は「時そば」で、誰でも知ってる噺だがそばを食べるところの所作なんか実に魅力的。古今亭志ん輔の「夕立勘五郎」というド下手な浪曲師赤沢熊造を語る噺も面白かった。桃月庵白酒はこの間の余一会で聴いたばかりの「ざるや」をさらっと演じた。この人は「軽み」が見事で、いつも楽しみ。

 今日は子連れで来てた人も何組かあって、漫才や曲芸が受けてた。小学生じゃ落語はなかなか厳しいだろうから、色物は貴重だなと思う。まだプログラムに亡くなった林家正楽が掲載されていて、寂しい限り。今週はもう一回、落語協会100周年で寄席に行くから、最近映画や散歩より落語に気持ちが向いてるかも。
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