『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』が公開された。2024年の米アカデミー賞で作品賞、脚本賞などにノミネートされ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受けた映画である。アレクサンダー・ペイン監督作品で、この監督とは『サイドウェイ』(2004)、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013)など相性が良いので期待大。そして期待にたがわぬ心に沁みる傑作だった。今年の外国映画は『哀れなるものたち』『オッペンハイマー』『関心領域』など例年になく傑作ぞろいだが、そういう本格アート映画はやはり見てて疲れる。『ホールドオーバーズ』はその中にあって一服の清涼剤みたいな映画だ。
時は1970年のクリスマス。ところはアメリカ北東部、ボストン近郊のバートン校という全寮制高校である。アメリカの映画や小説には、こういう学校がよく出てくる。金持ちが子どもを預ける場所である。夏冬の休暇には、ほとんどの生徒が親元に帰る。それを楽しみに窮屈な学園生活を耐え忍んでいるわけである。しかし、中には学校に残らざるを得ない家庭事情の生徒もいる。それが「ホールドオーバーズ」(The Holdovers)で、「残留者」といった意味。そうなると、彼らの面倒を見るため教師も一人残ることになる。今年の担当は母親が難病とか理由を付けて逃げてしまった。そこで、ハナム先生(ポール・ジアマッティ)が代わることになるが、彼に言わせればこれは「懲罰」。多額の寄付金をくれた有力議員の息子を落第させたからである。
(ハナム先生=ポール・ジアマッティ)
ハナム先生は自分もバートン校出身で、古代ギリシャ・ローマ史専攻。いつも大昔の格言なんかを繰り出す浮世離れしたタイプで、せっかくのクリスマス休暇もきちんと勉強させると張り切っている。こういう映画では教師は分からず屋の頑固者と決まってる。料理番として残ったメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)は、何とか息子をバートン校に入れたがお金がなくて大学へ行かせられなかった。息子は徴兵でヴェトナムに送られ、戦死してしまった。バートン校の戦死者の列に加わった最新の卒業生である。悲しみを抱えた訳知りの黒人女性を見事に演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフに助演女優賞が与えられた。
(ハナム先生とメアリー、アンガス)
生徒は初め4人のはずだったが、突然アンガス・タリーが加わって5人となった。母と再婚した夫が二人だけで新婚旅行に出掛けるからである。その5人組で話が進むのかと思ってると、一人の親がヘリコプターでやってきてスキーに連れてってくれるという。だがアンガスだけ両親と連絡が付かず、居残りを続けることになる。こうして、ハナム先生、メアリー、アンガスの3人になってからが、真のドラマだった。何かと問題を起こすアンガス、孤独なハナム先生もパーティに誘われたり…。そんな中アンガスはどうしてもボストンに行ってみたいと言い出す。ハナム先生は拒むが、メアリーが口添えして「まあ社会見学なら」と許可する。
(ボストンの街頭古書店)
メアリーも妹に会いに行くと同行するが、二人だけになるとハナム先生は実際に歴史博物館や古本屋に連れて行くから笑える。それでもスケートに行ったり、少しずつ気持ちも通い合う。そんな中で、ハナム先生もアンガスも深い秘密を抱えていたことが判るのだが、そのことがラストで生きてくる。オリジナルシナリオ(デヴィッド・ヘミングソン=アカデミー賞ノミネート)がとても良く出来ていて、この種の物語の定番でありつつも時代相を書き込んでいる。往年のクリスマス・ソングがバックに流れ、外はニューイングランドの雪景色。ラストは予想通りだったが、それでも感動的な展開に良い映画を見たという満足感があった。
全寮制高校を舞台にした映画といえば『いまを生きる』(1989、ピーター・ウィア-監督)が思い浮かぶ。実際製作者サイドも判っていて、その映画が1958年だったので設定をもう少し後にしたという。1970年はもう半世紀も前のことになるが、変革期として思い出す時代である。だが古風な全寮制高校ではなかなか変化が見えない。しかし、外には熱い変革の風が吹いていた。それなのに映像で美しい学園風景を見ると、無条件に懐かしい気持ちになる。もちろん1970年のアメリカのクリスマス・パーティなんか知らないが、それでも青春は世界共通だからノスタルジーに浸れる。
(アレクサンダー・ペイン監督)
アレクサンダー・ペイン監督(1961~)は『サイドウェイ』『ファミリーツリー』で2回アカデミー賞脚色賞を受賞したが、今回は他の人に任せている。アイディア自体はペインが着想したようだが、シナリオはデヴィッド・ヘミングソンに任せて演出に専念したのが功を奏したと思う。ハナム先生のポール・ジアマッティはペイン監督の出演が多いが、まさにその人がいるような名演。アンガスはドミニク・セッサという新人で、いかにもスポイルされたようで実は繊細な感じが出ている。知名度のある俳優が出てないから見逃しがちだが、この映画は見た人の心に残り続ける名作になるだろう。
時は1970年のクリスマス。ところはアメリカ北東部、ボストン近郊のバートン校という全寮制高校である。アメリカの映画や小説には、こういう学校がよく出てくる。金持ちが子どもを預ける場所である。夏冬の休暇には、ほとんどの生徒が親元に帰る。それを楽しみに窮屈な学園生活を耐え忍んでいるわけである。しかし、中には学校に残らざるを得ない家庭事情の生徒もいる。それが「ホールドオーバーズ」(The Holdovers)で、「残留者」といった意味。そうなると、彼らの面倒を見るため教師も一人残ることになる。今年の担当は母親が難病とか理由を付けて逃げてしまった。そこで、ハナム先生(ポール・ジアマッティ)が代わることになるが、彼に言わせればこれは「懲罰」。多額の寄付金をくれた有力議員の息子を落第させたからである。
(ハナム先生=ポール・ジアマッティ)
ハナム先生は自分もバートン校出身で、古代ギリシャ・ローマ史専攻。いつも大昔の格言なんかを繰り出す浮世離れしたタイプで、せっかくのクリスマス休暇もきちんと勉強させると張り切っている。こういう映画では教師は分からず屋の頑固者と決まってる。料理番として残ったメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)は、何とか息子をバートン校に入れたがお金がなくて大学へ行かせられなかった。息子は徴兵でヴェトナムに送られ、戦死してしまった。バートン校の戦死者の列に加わった最新の卒業生である。悲しみを抱えた訳知りの黒人女性を見事に演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフに助演女優賞が与えられた。
(ハナム先生とメアリー、アンガス)
生徒は初め4人のはずだったが、突然アンガス・タリーが加わって5人となった。母と再婚した夫が二人だけで新婚旅行に出掛けるからである。その5人組で話が進むのかと思ってると、一人の親がヘリコプターでやってきてスキーに連れてってくれるという。だがアンガスだけ両親と連絡が付かず、居残りを続けることになる。こうして、ハナム先生、メアリー、アンガスの3人になってからが、真のドラマだった。何かと問題を起こすアンガス、孤独なハナム先生もパーティに誘われたり…。そんな中アンガスはどうしてもボストンに行ってみたいと言い出す。ハナム先生は拒むが、メアリーが口添えして「まあ社会見学なら」と許可する。
(ボストンの街頭古書店)
メアリーも妹に会いに行くと同行するが、二人だけになるとハナム先生は実際に歴史博物館や古本屋に連れて行くから笑える。それでもスケートに行ったり、少しずつ気持ちも通い合う。そんな中で、ハナム先生もアンガスも深い秘密を抱えていたことが判るのだが、そのことがラストで生きてくる。オリジナルシナリオ(デヴィッド・ヘミングソン=アカデミー賞ノミネート)がとても良く出来ていて、この種の物語の定番でありつつも時代相を書き込んでいる。往年のクリスマス・ソングがバックに流れ、外はニューイングランドの雪景色。ラストは予想通りだったが、それでも感動的な展開に良い映画を見たという満足感があった。
全寮制高校を舞台にした映画といえば『いまを生きる』(1989、ピーター・ウィア-監督)が思い浮かぶ。実際製作者サイドも判っていて、その映画が1958年だったので設定をもう少し後にしたという。1970年はもう半世紀も前のことになるが、変革期として思い出す時代である。だが古風な全寮制高校ではなかなか変化が見えない。しかし、外には熱い変革の風が吹いていた。それなのに映像で美しい学園風景を見ると、無条件に懐かしい気持ちになる。もちろん1970年のアメリカのクリスマス・パーティなんか知らないが、それでも青春は世界共通だからノスタルジーに浸れる。
(アレクサンダー・ペイン監督)
アレクサンダー・ペイン監督(1961~)は『サイドウェイ』『ファミリーツリー』で2回アカデミー賞脚色賞を受賞したが、今回は他の人に任せている。アイディア自体はペインが着想したようだが、シナリオはデヴィッド・ヘミングソンに任せて演出に専念したのが功を奏したと思う。ハナム先生のポール・ジアマッティはペイン監督の出演が多いが、まさにその人がいるような名演。アンガスはドミニク・セッサという新人で、いかにもスポイルされたようで実は繊細な感じが出ている。知名度のある俳優が出てないから見逃しがちだが、この映画は見た人の心に残り続ける名作になるだろう。