尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

武力を行使すれば、「独立」が正当性を得るー「台湾有事」考④

2024年06月05日 21時56分52秒 |  〃  (国際問題)
 「台湾有事」問題は考えるべき問題が多く、延々と書くことがあるんだけど、そろそろ他の問題を書きたくなってきた。今回はリクツの問題に絞って、4回で一端打ち止めにしたい。さて、この問題をネットで調べてみると、「台湾の独立を承認している国」という言葉が出て来る。しかし、世界中で「台湾の独立を承認している国」は本当はゼロである。

 「中華民国」を承認している国なら、世界に12国程度存在する。それらの国は「中華人民共和国」は承認していない。中国全体の合法的政府として「中華民国」を選択しているのである。従って台湾独立を承認しているわけではない。だが「中華人民共和国」が建国75年を迎えるという段階で、「中華民国」を中国全体の支配者だとみなすのはいくら何でも無理筋だろう。

 台湾帰属問題は中華人民共和国側から見れば、「内戦の続き」になるんだろう。内戦が終わってないのだから、武力を行使してでも統一を目指すのは当然と思っているはずだ。もともと武力革命で政権を獲得した中国共産党には「唯銃主義軍事力優先思考」が強い。第一次世界大戦からロシア革命が起こったように、日中戦争が中国革命を成功させた。中国共産党は日本の侵略に果敢に戦ったことで民衆の支持を集めていった。「武力」こそが共産党の革命神話になってきた。

 昔から「台湾独立派」は存在する。その人々は本土と台湾島は歴史的経過から、別々の国家になるべきだと考える。台湾を支配した蒋介石の国民党にとっては、認められない思想だった。しかし、南部には独立派が多く、現在の与党である「民進党」もホンネは独立派だという見方もある。それは政権担当者としては公に言えないことで、口にしたら中国との関係が完全に破綻し、武力侵攻の引き金になりかねない。
(台湾独立派の集会)
 自由で民主的な社会だから、台湾で独立を主張することは出来るだろうが、公然と国論にすることは不可能である。僕は将来的には「中国の連邦化」などで解決するべき問題だと思う。異民族で慣習が違っているウィグル族チベット族とは違うのである。(ウィグル、チベットは独立国家を建設する権利があると考える。)そこが台湾問題が特別なところだが、この認識は絶対のものではない。「台湾が独立せざるを得ない状況」が生じれば、「台湾独立」が現実的な問題になるときもあり得る。

 それはいつかと言えば、中国が台湾に武力侵攻を行った時である。国連安保理の常任理事国である中華人民共和国が、国連憲章や国際人権規約に公然と反して、平和的に暮らしている民衆生活を破壊することは許されない。もっともアメリカのイラク戦争、ロシアのウクライナ侵攻など、常任理事国の無謀な軍事行動には多くの前例がある。しかし、ロシアのウクライナ侵攻はウクライナの民心を完全にロシアから離れさせてしまった。今後数百年にわたって禍根を残すに違いない。

 武力で統一したことで、結局は独立を承認せざるを得なかった実例が東チモールである。ポルトガルの植民地だった東チモールでは、1975年にポルトガルが撤退した後、インドネシアが武力で制圧し1976年にはインドネシアの一州として正式に併合した。国連安保理はインドネシアの撤退を決議したが、事実上「黙認」されてしまった。しかし、1998年にインドネシアのスハルト独裁政権が崩壊した後で、住民投票を行うこととなった。その結果に基づき、2002年に東チモールの独立が実現したのである。
 (独立を祝賀する東チモールの人々)
 この論理(というか「背理」と言うべきか)が中国政府に通じるとは思ってない。だが中国が台湾に非道な武力侵攻を行い、多くの人命、財産が失われたとするならば、中国は永遠に台湾民衆の人心を失うことになる。武力で「統一」を実現すれば、歴史上のいずれかの時点で「台湾独立」につながるのである。そういう事態が起きたら、もう「平和的統一」は二度と不可能である。その後、仮に中国が自由で民主的な政体に転換したとしても、台湾は中国に帰属したくないだろう。

 歴史的に同じ民族が複数の国家を樹立することは珍しくない。ドイツオーストリアはその一例である。インドパキスタンは宗教の違いで別々の国家となった。当初はパキスタンは東西に分かれていたが、やがて東パキスタンはバングラデシュとして独立した。歴史の道筋を間違えれば、中国は自ら台湾独立への道を開くことになる。中国はいまウクライナ情勢を注意深く見つめているだろう。個々の戦闘経過ではなく大局的な歴史的教訓を学び取るならば、台湾侵攻のような愚挙を実行しないはずだ。
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