尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

韓国映画『密輸 1970』、抜群の面白さに拍手!

2024年08月01日 20時29分09秒 |  〃  (新作外国映画)
 7月12日公開の韓国映画『密輸 1970』(リュ・スンワン監督)はちょっと油断しているうちに上映が少なくなってきた。どうしようかと思ったけど見に行ったら、これが抜群の面白さで驚いた。海洋版『テルマ&ルイーズ』だという人があって、なるほどと思った。懐かしムードの歌謡曲に乗せて、猛然たるスピードで駆け抜けて時間を忘れて見てしまう。アクション&コメディの純然たる大エンタメ作品だが、冒頭から編集のうまさが光る。そして「サメ映画」でもあるんだから、大いに笑える。

 1970年の韓国西海岸クンチョン(架空の漁村)。海女たちがアワビを捕って暮らしていたが、化学工場の排水で不漁続きになる。そこに「密輸」の話が持ち込まれ、やむを得ず船主の娘でリーダー格のジンスク(ヨム・ジョンア)は話に乗ることにする。船が荷物を海底に沈め、それを海女たちが引き揚げるのである。今では「密輸」というと麻薬か覚醒剤かという感じだが、その当時の韓国はまだまだ経済発展途上にある。正規に輸入すれば多額の関税がかかるから、日本製の電気製品などをそうやって「密輸」するのである。ところがある日、税関の船が突然検査にやって来て、ジンスクは父と弟を失い,自らも逮捕されてしまった。
(海女の面々)
 それから2年。ジンスクはようやく監獄から出て来ている。そして、あの日一人だけ捕まらなかった親友のチュンジャ(キム・ヘス)が密告したんじゃないかと疑っている。チュンジャはソウルに逃げてすっかり垢抜けて、今も怪しい商品ブローカーとして幅をきかせていた。と思うと、そこにはやはり組織があり「ショバ代」を無視したチュンジャは,ある日痛めつけられてしまう。組織のボス、クォン軍曹(チョ・インソン)はチュンジャを始末しようかと思うが、うまい密輸方法があるとクォン軍曹に持ち掛けるのだった。
(チュンジャ)
 そして久しぶりにクンチョンに戻ったチュンジャだったが、そこではジンスクの父親に使われていたドリが偉くなって羽振りをきかせている。出所した海女たちは命令に従う立場になっていた。何とか海女たちを使って大々的な密輸を始めたいのだが…。それに加えて税関の係長として取り締まりの中心にいるジャンチュン(キム・ジョンス)、喫茶店のアルバイトだったのに今では店を乗っ取っているオップン(コ・ミンシ)など怪しい人物たちが入り乱れている。そこにクォン軍曹がヴェトナム帰りの部下を連れて現場視察にやって来るが、ひそかにドリはクォン軍曹に対抗心を燃やしていた。
(クォン軍曹)
 かくしてすべての人々がクンチョンに集まるが、昔のいきさつからジンスクはなかなかチュンジャを信用できない。一体2年前の真相はいかに? そして密輸場所に選ばれたのは、最近サメが出るとして海女たちが恐れていた場所だった…。ということで、驚くべき真相、驚くべきアクションが怒濤のように展開され、やり過ぎ的なお約束の結末に一気になだれ込んでいく。エンタメの極意は「反復」にあるが、この映画も重要な展開はすでに伏線として提示されているので、見事な「反復」に笑ってしまう。
(喫茶店で)
 この映画は2023年韓国映画の興収3位とヒットし、青龍賞で作品賞など4冠、大鐘賞では監督賞を得た。リュ・スンワン監督は『ベルリン・ファイル』『モガディシュ 脱出までの14日間』などを作った人だが、今まで見てなかった。素晴らしい疾走感で見せるが、海洋アクションの凄さも見どころ。まさかホントに海で撮ってるのかと思うが、もちろんプール撮影だという。海女はこんなに長く潜っていられるのかと思うぐらいワンシーンが長い。俳優たちは昔の日本映画を思わせる面構えで懐かしい。そして何より「歌謡映画」という作りになっていて、クンチョンだと昔の演歌っぽく、ソウルだとポップ調。昔の曲だけでなく、新たに作ったのもあるらしいが、見事に乗せられる。ムチャクチャ面白かった。
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