尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ロシアの五輪復帰には時間が必要、ロシア「排除」は二重基準かーパリ五輪②

2024年08月14日 22時40分04秒 | 社会(世の中の出来事)
 パリ五輪では、「AIN」(中立国)という選手がいた。「個人資格の中立選手」として、ロシアとベラルーシからドーピングなどの条件をクリアーした選手が出場出来る仕組みである。15人出場してメダルは5個獲得したが、国別ランキングには登場しない。(獲得種目は金=トランポリン男子、銀=トランポリン女子、ローイング・男子シングルスカル、テニス女子ダブルス、銅=重量挙げ男子108キロ級。)出場選手が少なかったのは、ロシア国内で「参加するな」的な心理的圧力があったためだろう。具体的なことは判らないが、事実上プーチン政権や「特別軍事作戦」を支持するかどうかの「踏み絵」になったと思われる。ロシア国内ではテレビ放映もなかったとのことで、五輪の存在は消された。

 そんな中で、パリ五輪中のエピソードとして「北京冬季五輪のフィギュアスケート団体」のメダル授与式があった。元々は金=ROC銀=アメリカ銅=日本だった。ROCはロシアオリンピック委員会のこと。しかし、ロシアのワリエワ選手のドーピング問題で、金メダルは取り消された。そこで銀と銅が繰り上がることになり、パリで授与式が行われたわけである。日本チームはすでに引退した宇野昌磨はスイスのアイスショーと重なり不参加だったが、他の選手たちがパリに集まった。下の写真は毎日新聞社のサイトにあるものだが、余りに素晴らしいので使わせて貰った。(右から 坂本花織、樋口新葉、鍵山優真、木原龍一、三浦璃来、小松原美里さん、小松原尊=トロカデロ広場で2024年8月7日、玉城達郎撮影)

 ところで、ロシアが「排除」されたのに対し、イスラエルが参加出来たのは「二重基準」だという批判があった。(イスラエルは金=1、銀=5、銅=1の計7個のメダルを獲得。)ウクライナとガザで戦争が続く中で、国連安保理の米ロの対応は「二重基準」と言われても当然だろう。まあ「国益第一」という意味では、どっちも同じ基準というべきかもしれないが。その事は今までも書いてきたが、オリンピックの対応はどう考えるべきだろうか。しかし、そこで考えるべきことは「ロシアは東京五輪にも参加出来なかった」という事実だ。ロシア選手は確かに参加していた。ただし「ROC」として参加が許容されたのである。
(東京五輪ではROCとして入場)
 「二重基準」だと批判する人はそのことに触れない。ロシアは今までも「オリンピック精神に反する」行動が見られ、「ロシア」という国としては参加を認められていなかった。金メダルを獲得してもロシア国旗は掲げられず、国歌の代わりにチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第1番」が流された。そのような経過を考えると、ロシアがウクライナに侵攻したまま通常の対応をすることはIOCとしても当然出来ないだろう。団体競技の予選にロシアの参加は認められず、従って参加資格を得られない。
(ロシアオリンピック委員会の旗)
 一方、イスラエルは当然のこととしてガザ戦争以前に団体競技予選に参加していた。男子サッカーのU21欧州選手権が2023年6月に行われ、イングランドが優勝、スペインが準優勝、イスラエルとウクライナが4強だった。(イスラエルはヨーロッパ協会所属である。)ヨーロッパ出場枠は開催国フランスを除き3か国で、スペイン、イスラエル、ウクライナに与えられた。(イングランドが出てないのは、「五輪加盟国」ではないということか。)このようにすでに獲得していた出場権は、スポーツ界内部の不祥事以外では取り消されないだろう。この参加を取り消さないのは「二重基準」なのか。

 イスラエルがガザでいかに非道なことをしていても、それを言い出せばそもそもはハマスのテロ攻撃をどう考えるべきかと反問されるだろう。ハマス幹部も戦争犯罪を犯したと国際刑事裁判所も認めている。ではパレスチナの参加も認めないのか。パレスチナはメダルには届かなかったものの8人の選手を派遣している。パレスチナの参加は当然だし、イスラエルの参加も選手の権利だと思う。一方、ロシアの選手はドーピング問題が完全解決しない限り、今後も参加は難しい。(ベラルーシの参加は認めるべきだろう。)

 ロシアのドーピングは軍や諜報機関、ひいては政権上層部が関わっていると思われる。世界中のすべての五輪選手は厳しいドーピング検査をクリアーして試合に臨んでいる。検体を国家機関が関わってすり替えてしまうなんてことをするのはロシアだけだろう。(いや、中国でも組織的ドーピングが行われているとアメリカは非難しているが、今のところ公式的には証明されていない。)2028年ロス五輪は米国開催だから、ロシアもアメリカも妥協しにくい。今後の開催国はイタリア(冬)、米国、フランス(冬)、オーストラリア、米国(冬)と「西側」主要国が連続する。ウクライナ戦争がいつ和平に至るか判断が難しいが、戦争が終わっていたとしても、ロシアはすぐには参加出来ないだろう。ロシア選手団の本格復帰までは相当の時間がかかると思う。

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