尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「浅田家!」と「生きちゃった」ー家族を描く2つの映画

2020年10月26日 22時58分41秒 | 映画 (新作日本映画)
 映画「浅田家!」(中野量太監督)を見たので、書き残していた「生きちゃった」(石井裕也監督)と合わせて紹介しておきたい。どっちも「家族」をテーマにして、現代日本の姿を映し出している。「浅田家!」は実在の写真家一家がモデルで、主人公が認められてゆくまでが前半。映画半ばで東日本大震災が起こり、主人公は写真返却ボランティアを続けながら、「家族」と「写真」の意味を考えることになる。終わった後で、周りから「こんないい映画だったんだ」という声が聞こえてきた。二宮和也妻夫木聡菅田将暉らの豪華キャスト目当てだけではもったいない。中野量太監督は「湯を沸かすほどの熱い愛」や「長いお別れ」など家族映画の名手ならではの手腕。

 三重県津市に生まれた浅田政志二宮和也)は、兄幸宏(妻夫木聡)、父(平田満)、母(風吹ジュン)と仲良く暮らしていた。この一家では母が看護師で働き、父が家事をしていた。カメラが好きな父は毎年年賀状のために兄弟を撮影していたが、ある年父は政志にカメラをプレゼントする。そこから写真に目覚めて専門学校に進むが、自分の撮りたいものが見つからない。父が本当は消防士になりたかったと知り、消防車を借りだして一家で消防士に扮して家族写真を撮った。
(ホンモノの写真集「浅田家」)
 それが始まりで、家族による「成り切り」のコスプレ写真を撮り始めた。これは実話で、上にあるのが実際の写真集。写真を携えて上京し、幼なじみの若菜黒木華)のところに転がり込む。そして写真集出版に向け動き始めるが…。その後、何とか認められ、家族写真を頼まれるようになって、最初に岩手県の海岸近くに住む一家に向かう。震災のあと、その一家が気になり訪れてみたのだが見つからない。小野菅田将暉)という青年が写真の泥を取っているのを見て手伝い始めた。そして多くの人に取って「家族写真」とは何だろうと考えさせられる。
(右=小野青年)
 僕も震災ボランティアに行ったときには、津波被災地の中からアルバムをいくつも見つけた経験がある。「モノ」も大切だが、一枚の写真があることで救われる人だってあるだろう。そんな「家族写真」を撮り続けた浅田政志という写真家を僕は知らなかった。いろんな人がいるんだと感じいった。映画は沢山のエピソードで作られているが、ここでは省略する。ただ思ったのは「家族写真」にも「演出」がいるんだなということだ。単なる集合写真やスナップでは伝わらないものが、「演出」で伝わっていく。「家族」を前提にすることで、落ちてしまうものもあると思ったけれど、それでも見ておいていい映画だと思う。

 石井裕也監督「生きちゃった」は、アジア各国の映画関係者が協力して香港映画祭が出資した映画。特に国際的なテーマはなくて、日本社会の中で生きている若い夫婦の話になっている。渋谷のユーロスペースで上映されているだけなので、知らない人が多いと思う。石井裕也監督は「舟を編む」や「映画 夜空はいつも最高密度の青色だ」などで知られるが、僕はあまり相性がよくなくてどちらも高く評価されたのに記事を書かなかった。この映画も僕は評価に困るところが多いけれど、「これが日本か」みたいな感じを持った。 

 山田厚久仲野太賀)、武田若葉竜也)、奈津美大島優子)の友だちがいる。説明されないんだけど、数年後厚久と奈津美は結婚して子どもがいる。しかし、なんかつらいことが奈津美にあったとき、厚久は婚約者がいたのに解消した過去があったらしい。今も厚久と武田は英語や中国語を夜に習いに行き、将来の向上を夢見ている。そんな地道な暮らしが、ある日風邪を引いて早退したら妻が「不倫」していて、それをきっかけにあれよあれよと暗転してしまう。

 いくら何でも、ここまでつるべ落としのごとく不幸の連鎖があるものか。と思うけれど、厚久は自分の本当の気持ちを奈津美に伝えられていなかったことを後悔し続ける。そして「日本人だからかなあ」と口ごもるようにつぶやく。家族写真を撮る人もいれば、気持ちが伝わらない人もいる。何だか「生きちゃった」の方が日本のリアルを見る感じがするのは何故だろう。「家族」というのはなかなか難しい。「本当の気持ち」を言えばいいというもんでもないだろう。「幸福」は放っておくとどんどんすり減ってしまうから、「演出」も必要なんだろう。映画の技術や俳優以前に、家族というテーマだと自分に引きつけてみてしまう。
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