尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「台湾侵攻」と日米安保、米軍基地への攻撃可能性ー「台湾有事」考②

2024年06月03日 22時13分46秒 |  〃  (国際問題)
 米軍筋からは「2027年台湾侵攻」の可能性が度々発信されている。それが確定的な情報だとは思ってないけれど、完全なガセネタとは決めつけられない。当然そこは「情報戦」の様相を呈して、今後も様々な情報が乱れ飛ぶと思うが、一応いずれかの時点で中国軍が台湾に侵攻すると仮定する。そうした場合、一体どうことになるんだろうか? 世界経済に与える影響など未確定の部分が多いけれど、取りあえずは侵攻作戦そのものは成功するのだろうか?

 もちろん予測不能な要因がいっぱいあるけれど、「台湾侵攻のシミュレーション」は幾種類もなされている。特にアメリカの「戦略国際問題研究所」(CSIS)というところが、2023年2月に報告書を発表しているそうだ。朝日新聞2023年3月26日付の記事(佐藤武嗣編集委員執筆)が簡潔に紹介しているので、記事を参照しながら考えてみたい。そのシナリオでは「2026年」に侵攻作戦が始まると想定されている。24通りもの戦闘シナリオがあるというが、「中国海軍が台湾を取り囲み電撃的に攻撃を開始して航空機や艦艇を壊滅させる」という風に始まるとされる。
(台湾有事シミュレーション)
 「台湾侵攻」は中国にとって大作戦なので、多くの艦船が台湾沖に集結するなど、ある程度事前に予想可能だと思われる。だが台湾や米軍が「先制攻撃」することは難しい。中国側に「自衛」の口実を与えるだけで、米側の大義名分を奪うからである。アメリカは1979年に「中華民国」の承認を取り消し、中華人民共和国を「唯一の政権」として承認した。その結果「米華相互防衛条約」が無効となったが、米国は「台湾関係法」を制定し台湾とのそれまでの取り決めは維持されるとしている。

 米国歴代政権は台湾に武器を援助してきたし、大統領選、議会選の結果にもよるが、現時点では民主、共和両党ともに対中国強硬派が多い。「台湾侵攻」に何のリアクションもしなければ、今後中国の行動に何も言えなくなってしまう。一方、中国軍は緒戦で制空権・制海権を握ったとしても、(ロシアとウクライナのように地続きではないので)、ぼうだいな占領軍を海上から送り込む必要がある。それは空爆やミサイル攻撃と違って一瞬で出来ることではない。その間に台湾各地で自衛的な市民の行動が湧き起こると思われる。その様子が全世界に発信され、同情的な世論が形成されるだろう。米軍はそれを見殺しに出来ないはずだ。
(CSISの机上演習における日米中の被害想定)
 そこで米軍が中国軍の補給線を断つとともに、台湾防衛軍を派遣することになる。この後に幾つかのヴァリエーションがあり得るが、台湾防衛のために米軍は日本の基地を発進、補給の基地として利用することになる。それに対して日本はどのように対処するのか? 多くのシナリオでは、「中国が台湾を制圧するのは、米軍が本格的に参戦した場合は極めて難しい」とされているようだ。しかし、「米軍が台湾を防衛するためには、日本の基地を全面的に利用することが必須になる」ともされる。

 日本とアメリカの間には「日米安全保障条約」があるわけだが、条約に「極東条項」がある。米軍は「日本国の安全」だけでなく「極東における国際の平和及び安全の維持」のためにも活動する。そして、米軍が日本領外での戦闘活動に基地を使用する場合には「事前協議」となる(はずである)。従って、日本は米中の対立に「中立」を表明して、米軍には日本領内の基地を使用させないという選択も理論的にはあり得る。だが政治的、国際的、社会的に、日本は米軍基地の使用を認めざるを得ないだろうし、むしろ積極的に米軍と協力して自衛隊の活動を活発化させる可能性が高い。(その是非は別として。)

 命運を賭けた大作戦を始めた中国は、米軍基地のインフラをそのままにしておけない。必ずそうなるということではないが、中国が米軍基地に攻撃を掛ける可能性は否定出来ない。台湾から近い沖縄に集結している米軍基地を一時的にも使用不能にすれば、軍事的にかなり有利になるだろう。米軍基地は条約に基づいて米国に使用を許可しているわけで、(治外法権区域ではあるが)米国領土ではない。米軍基地を攻撃すれば、それは日本への攻撃になる。それに基地には日本人労働者もいるし、誤爆もあるだろうから、日本国民にも被害が生じるだろう。そうなったときに日本の世論はどう反応するだろうか。
(日本国内の米軍基地)
 これこそ「日本が戦争に巻き込まれる」最も可能性の高いシナリオだと考えられる。これは安保条約について、反対運動の中で言われてきた「安保巻き込まれ論」そのものの事態だ。だが、昔はアメリカ(帝国主義)の無謀な戦争に日本が否応なく巻き込まれるという文脈で論じられていた。しかし、今後あり得る「台湾有事」では中国の軍事侵攻の方に無理があり、世界の多くの国は「台湾を救え」となるだろう。日本国内でも台湾支援論が盛り上がると思われる。その上で「中国の侵攻を失敗させ、日本の被害を最低限にする」ための自衛隊の活動も「許容」される可能性が高い。

 このように「日本が米国とともに台湾支援に本格的に乗り出す」ことが台湾侵攻作戦の成否を握っている。それが台湾有事シミュレーションの結論となる。だが昔の日中戦争を思い起こすまでもなく、ウクライナやガザの戦争を見れば、一度始めた戦争は終わらせるのが難しいことが理解できる。どこまでなら「許容」できる被害なのか、今の日本社会で冷静に議論できるだろうか? 一歩間違えば、シベリア出兵のように日本だけが延々と戦争を続けることにもなりかねない。そうなると、どうしても「台湾有事そのものを起こさせないためにはどうすれば良いか」と真剣に考え抜くことこそ今必要なことだろう。

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