尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

もう一度見たい映画・日本編

2018年01月02日 22時42分11秒 |  〃  (旧作日本映画)
 新年早々から暗い話題も何だから、日本や世界の情勢はおいといて少し思い出話を書いてみたいなと思う。映画の記事はよく書いてるけど、当然ながら最近見た映画について書くことが多い。あるいはそれに連動して、監督について書いたリ。だから、数年前に生誕110年だった小津安二郎のことは書いたけど、溝口健二黒澤明の作品についてちゃんと書いたことはないだろう。

 でも溝口や黒澤の作品も、いつもどこかで上映されている。待ってれば大体どこかでやってくれる。というか、大体有名な作品はほとんどDVDになってる。今じゃ家でDVDを見てるのも、映画鑑賞にしてしまうかもしれない。でも僕は昔の映画に関しては劇場で見たいと思う。ビデオやDVDで細かく調べて、何か隠されたメッセージを見つける人もいるけど、そういうことにはほとんど関心がない。昔は映画館で見たら二度と見られなかった。もちろん2回、3回と同じ映画に通えば別だし、ヒット作は名画座で何度もやっていた。それでも映画館で見る以外には見る手段がなかった。

 ところが昔の日本映画は今はかなり劇場で見ることができる。「もう一度見たい映画」は何本もあるけど、そのかなりのものはこの数年で実際に見てしまった。大手の映画会社で作られた作品は、基本的にはフィルムが残っているから映画館がその気になれば上映できる。(でも上映不能なほど素材不良なフィルムも多いし、会社で廃棄してしまった映画も多い。)かつて銀幕で活躍したスターが相次いで亡くなった時など、いくつかある名画座で特集上映が行われた。高倉健とか原節子などが出ている映画などは、少し待ってれば(東京近辺では)見ることができるんじゃないかと思う。

 実際に過去のベストテンを見てみると、ちょうど50年前の1968年では1位の「神々の深き欲望」、続けて「肉弾」「絞死刑」「黒部の太陽」「首」「初恋地獄篇」「日本の青春」「燃えつきた地図」「人生劇場・飛車角と吉良常」「吹けば飛ぶよな男だが」だけど、まあ5年ぐらいすれば大体見られそうな気がする。メンドーだから、今は細かく説明しないけど、監督特集や俳優特集でやってくれる映画が多い。「黒部の太陽」だけは、前はソフト化も名画座上映も不可だったけど、最近はできるようになった。(もっとも10位以下の「強虫女と弱虫男」「青春」「ドレイ工場」「祇園祭」などはほとんど見られない。)

 1958年の「楢山節考」「隠し砦の三悪人」「彼岸花」「炎上」なんかも同様で、50年代の映画はむしろ10位以下も上映の機会が多い。一方で、80年代、90年代の映画の方があまり上映されない。ベストテンで見ると、文芸・社会派作品が多くなるけど、娯楽作品を見ても同様で、東映時代劇任侠映画日活アクション大映の時代劇(座頭市や眠狂四郎など)なんかも上映機会が多い。僕の大好きな日活の「拳銃(コルト)は俺のパスポート」や東映の「0課の女 赤い手錠(ワッパ)」なんかも、新年早々の新文芸座のアクション映画特集の上映作品に入っている。

 ということで前置きが長くなったけど、しばらく劇場上映の記憶がなくて、僕が好きな映画を探してみたい。まず最初に「青幻記」。1973年のベストテンで3位になってる映画で、当時から僕は非常に好きだった。一色次郎原作、成島東一郎監督で、今じゃどっちも知られていないだろう。成島は昔の日本映画ファンなら誰でも知ってた撮影監督で、「秋津温泉」「古都」「心中天網島」「儀式」など忘れがたい映像を残した。この「青幻記」が初めての監督作品。(もう一本「オイディプスの刃」がある。)沖永良部島を舞台に、母と子の悲しい情愛を美しく描き出して忘れがたい。田村高廣、賀来敦子主演。どこかで阪妻と田村兄弟特集でもやってくれればいいんだけど。
 (青幻記)
 次には「あらかじめ失われた恋人たちよ」で、これはDVDが入手しやすいようだが、しばらく見てないので。1971年のATG映画だが、同年のATG映画にはベストワンの「儀式」の他、「書を捨てよ町へ出よう」「曼陀羅」「告白的女優論」「日本の悪霊」「修羅」など問題作、話題作のオンパレードで、この映画も忘れられてしまう。時々どこかでATG映画特集をやると入っていることもある。この映画は田原総一郎清水邦夫の共同脚本、監督という、今からみると驚く顔ぶれ。主演も石橋蓮司加納典明桃井かおりという驚くべきキャスト。桃井かおりは新人だったし、加納はもちろん写真家である。話は聾唖のカップルと一人のチンピラが北陸の海岸を彷徨いゆくさまをモノクロで描く。つのだひろの「メリー・ジェーン」がテーマ曲になっていて、それも印象深い。忘れられない映画。
 (あらかじめ失われた恋人たちよ)
 次は僕の好きな名作で、村野鐵太郎監督の「月山」。岩波ホールで上映されたと思うが、その後あまり上映機会がない。そもそも森敦の原作(芥川賞)が好きで、月山(がっさん)という山も好き。孤独な精神性が忘れられず、僕はとても好きだった。村野監督は大映で「犬」シリーズや「男一匹ガキ大将」など多くの娯楽映画を作った後で、ATGで「鬼の詩」、岩波ホールで公開された「遠野物語」「国東物語」などを作った。だんだんつまらなくなった感じもあるけど、僕はこの「月山」だけは名作中の名作だと思う。どこかで芥川賞映画特集でもないかな。村野監督も再評価するべき。

 他にどんな映画があるだろうか。昔からもう一度見たいとずっと思っていた芦川いづみ主演の「あいつと私」とか「あじさいの歌」なんか、最近になって何度も見てしまった。藤田敏八の「赤い鳥逃げた?」や神代辰巳の「宵待草」なんかも複数回見た。(どうも同時代に見た時ほどの感激はない感じだったが。)鈴木清順や加藤泰などの作品も何度も見る機会があるから最近はパス。

 そんな中で公開以来大スクリーンで見てないのは、ジブリ映画じゃないか。ソフト化され、テレビでもよくやるけど、なんで映画館でリバイバルしないのか。ジブリ映画専門館があってもおかしくないと思うんだけど。英語だけじゃない各国語字幕版を付ければ外国人観客もいっぱい来るだろう。僕が特に大スクリーンで見直したいなと思うのは、何といっても「もののけ姫」。「紅の豚」や「魔女の宅急便」、それに「千と千尋の神隠し」も見直してみたいけど、なんといってもまずは「もののけ姫」かな。

 それと原田真人監督の初期作品。今みたいに大作を任される前の、1997年の「バウンス ko GALS」とか、1995年の「KAMIKAZE TAXI」。後者は原田監督の最高傑作じゃないかと思う。でも、なんとも変な「バウンス ko GALS」って映画、公開が小規模だったから見てない人が多いと思うし、その後もほとんど上映されない。役所広司がカラオケで「インターナショナル」をギャルに向かって歌う傑作シーンが忘れがたい。もう一本、磯村一路監督「がんばっていきまっしょい」。松山東高校の女子ボート部を描く青春映画。田中麗奈が圧倒的に素晴らしい。1998年のベストテン3位になってるけど、全然上映されない。DVDも中古で高くなっている。これこそ多くの人に見てもらいたい映画。
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