アメリカ大統領選挙で民主党の副大統領候補となったミネソタ州知事、ティム・ウォルズという人の経歴・実績はなかなか興味深いので、ちょっと調べてみたい。アメリカ人もこの人のことを知らなかった人が多いというが、日本人だってついこの間まで兵庫県知事の名前なんか(現地の人を除けば)知らなかっただろう。そういうウォルズ氏がなぜ副大統領候補に選ばれたのか?
上院は与野党の議席差が少なく、上院議員を選ぶことは考えにくい。そこで民主党系の知事が候補になるが、カマラ・ハリスが「女性、有色人種系」なので、副大統領は「男性、白人系」を選んでバランスを取る必要がある。さらにトランプ支持者が多い「ラスト・ベルト」だと一番ふさわしいので、当初はペンシルバニア州のシャピロ知事が有力と言われた。恐らくユダヤ系のシャピロ氏はイスラエル支持色が強く、アラブ系民主党支持者の反発を呼ぶ可能性があるとして避けたのだろう。もちろんハリスも基本的にイスラエル支持だが、夫がユダヤ系なのでそれ以上必要ない。ウォルズとは面談で「ウマが合った」と言われている。
ティム・ウォルズ、正確にはティモシー・ジェームズ・ウォルズ(Timothy James Walz)は1964年4月6日に生まれた。2019年からミネソタ州知事を務めていて、現在2期目である。その前は2007年から6期にわたって、連邦下院議員を務めていた。その前は公立高校の教員で、2006年に選挙に出る時は休職制度を利用した。選挙に立候補する際に公職を休職できる制度があるらしい。ミネソタ州は五大湖地方の西にあって、アメリカの地理的区分けでは「中西部」になる。人口は570万ほどで、全米22位。面積は225,181 km²で全米12位。日本の本州島は227,976 km²なので、ほとんど本州と同じぐらいある。州都はセントポールだがミシシッピ川をはさんだミネアポリスと同一の都市圏を形成していて「ツインシティ」と呼ばれている。
(ミネソタ州の位置)
こう書くとティム・ウォルズはミネソタ州に生まれたように思うかもしれないが、実際はネブラスカ州が生地である。ミネソタ州の西南に当たるが、よく見ると隣接していない。人口は200万に満たず全米37位なので、ミネソタ州よりずいぶん少ない。面積はそんなに違わないが、影響力では小さな州だ。父親の病気で田舎町に移り、夏は農場で働きながら小さな郡の高校を卒業した。そのまま大学へ進学しなかったのは、恐らく父の病気(肺がん)、死去(1984年)が影響したのだろう。父の死に精神的にも経済的にも打撃を受け、ウォルズはアーカンソーやテキサスなどで州兵になった。その後、1987年にネブラスカに戻ってシャドロン州立大学に入学し、1989年に社会科教員の資格を取った。このようになかなか苦難の青春を送った人である。
(ネブラスカ州の地図)
その後サウスダコタの先住民居留地で教師となり、続いて中国広東省佛山市の高校で1年間教えた。帰国後にネブラスカの高校で教員として働き、1994年に同僚のグウェン・ウィップルと結婚した。グウェンはミネソタで学位を取ってネブラスカで英語教師の職を得ていた。二人は96年に妻の生地ミネソタ州に移住し、ミネソタ南部の小都市マンケート西高校の地理教員及びフットボールコーチとなった。同校のフットボール部は当時27連敗していたが、3年後の1999年に州大会で優勝した。
映画や小説に高校のフットボール部がよく出て来る。多くの地域でアメリカンフットボールの高校対抗戦が学校スポーツの華で、チアリーディング部の女子生徒が対抗戦を盛り上げる。コーチは有償で、いろいろ調べると50万~60万程度の報酬らしい。他部のコーチより高額で、それは拘束時間が長いからだという。誰でも部活に入れるわけではなく、セレクションを突破した生徒のみが参加出来る。(学力条件もあると思われる。)アメリカの学校スポーツは季節が決まっていて、夏と冬で違う競技をしたりする。試合は有料なので、それでコーチを雇えるらしい。教師がボランティアでやってる顧問とは違って、日本で言えば私立高校の野球部監督に近いと思う。一年で数ヶ月間コーチを務めるだけというのも日本と違う。
(フットボールコーチ時代)
その間1999年には性的マイノリティ向けの指導員になっている。同性愛生徒がいじめにあったのを見て、研修を受けたという。また特別支援学級でも教えている。このような幅広い体験は生い立ちもあるだろうが、中国の学校と関係を持ち続けたことも影響している。妻とともに夏休みに中国でボランティアする会社を設立し、2008年まで毎夏生徒を連れて行っていた。また2002年にはミネソタ州立大マンケート校に、ホロコーストの教育に関する修士論文を提出し、体験教育に関する修士号を得た。妻との間には不妊治療を経て二人の子どもが生まれていて、この間の活動には驚くばかり。これだけ活躍すれば周囲からの注目も集まるだろう。2006年はイラク戦争が泥沼化していて、ウォルズが戦争に強く反対していたことが、立候補のきっかけだろう。
(教師としてのウォルズ)
下院議員の活動を振り返ると長くなるので省略する。2017年に民主党の現職知事が引退を表明し、ウォルズは2018年の知事選への立候補を表明した。知事選では53%対42%で共和党候補を破り当選した。当選就任後は教育と医療改革を進めると演説した。もっともBLM運動のデモへの対応や警察改革には批判も受けたが(2020年5月にジョージ・フロイドが警官に殺されたのはミネアポリスだった)、教育など他の施策への支持は強く、2022年には2期目の当選を52対44で果たしている。
教育問題だけ見ておくが、日本語版Wikipediaでは以下のように書かれている。(英語版はもっと詳しい。)「教員の能力給に反対する」「公立学校への財政支出の強化」、「低所得世帯の学生を対象とする公立大学授業料無償化を支持」、2019年2月12日には「経済の強固な基盤を確保するために最も重要なことは、子どもたちに可能な限り最高の教育を提供することだ」と演説し、これらの教育政策に対して、全米教育協会、全米大学女性協会、全米小学校長協会などの多くの利益団体から強い支持を得ている。」2023年3月、「ミネソタ州のすべての児童・生徒を対象とする学校給食費無償化法案に署名」。同年8月、「州内の公立学校に対し、4年生から12年生までの児童・生徒に生理用品を無償で提供することを義務付ける法案に署名」。
どうだろう、この人こそ僕の望む教育政策を進めていた人なのではないか。教員の能力給に反対し、公立学校への支出を強化する。ミネソタ州のすべての児童・生徒への給食費無償化。こういう施策は当然教育界の多くの団体に支持されている。こういう人が日本にも欲しいし、教育をホントに理解出来る人が政治家に欲しい。なおウォルズは中国との関係が長いが、中国の人権環境を厳しく批判しているという。また副知事のペギー・フラナガンはネイティブ・アメリカン出身の初の州知事になる可能性が高い。ウォルズが副知事に女性の先住民運動家を選任したというのも素晴らしいことだと思う。
上院は与野党の議席差が少なく、上院議員を選ぶことは考えにくい。そこで民主党系の知事が候補になるが、カマラ・ハリスが「女性、有色人種系」なので、副大統領は「男性、白人系」を選んでバランスを取る必要がある。さらにトランプ支持者が多い「ラスト・ベルト」だと一番ふさわしいので、当初はペンシルバニア州のシャピロ知事が有力と言われた。恐らくユダヤ系のシャピロ氏はイスラエル支持色が強く、アラブ系民主党支持者の反発を呼ぶ可能性があるとして避けたのだろう。もちろんハリスも基本的にイスラエル支持だが、夫がユダヤ系なのでそれ以上必要ない。ウォルズとは面談で「ウマが合った」と言われている。
ティム・ウォルズ、正確にはティモシー・ジェームズ・ウォルズ(Timothy James Walz)は1964年4月6日に生まれた。2019年からミネソタ州知事を務めていて、現在2期目である。その前は2007年から6期にわたって、連邦下院議員を務めていた。その前は公立高校の教員で、2006年に選挙に出る時は休職制度を利用した。選挙に立候補する際に公職を休職できる制度があるらしい。ミネソタ州は五大湖地方の西にあって、アメリカの地理的区分けでは「中西部」になる。人口は570万ほどで、全米22位。面積は225,181 km²で全米12位。日本の本州島は227,976 km²なので、ほとんど本州と同じぐらいある。州都はセントポールだがミシシッピ川をはさんだミネアポリスと同一の都市圏を形成していて「ツインシティ」と呼ばれている。
(ミネソタ州の位置)
こう書くとティム・ウォルズはミネソタ州に生まれたように思うかもしれないが、実際はネブラスカ州が生地である。ミネソタ州の西南に当たるが、よく見ると隣接していない。人口は200万に満たず全米37位なので、ミネソタ州よりずいぶん少ない。面積はそんなに違わないが、影響力では小さな州だ。父親の病気で田舎町に移り、夏は農場で働きながら小さな郡の高校を卒業した。そのまま大学へ進学しなかったのは、恐らく父の病気(肺がん)、死去(1984年)が影響したのだろう。父の死に精神的にも経済的にも打撃を受け、ウォルズはアーカンソーやテキサスなどで州兵になった。その後、1987年にネブラスカに戻ってシャドロン州立大学に入学し、1989年に社会科教員の資格を取った。このようになかなか苦難の青春を送った人である。
(ネブラスカ州の地図)
その後サウスダコタの先住民居留地で教師となり、続いて中国広東省佛山市の高校で1年間教えた。帰国後にネブラスカの高校で教員として働き、1994年に同僚のグウェン・ウィップルと結婚した。グウェンはミネソタで学位を取ってネブラスカで英語教師の職を得ていた。二人は96年に妻の生地ミネソタ州に移住し、ミネソタ南部の小都市マンケート西高校の地理教員及びフットボールコーチとなった。同校のフットボール部は当時27連敗していたが、3年後の1999年に州大会で優勝した。
映画や小説に高校のフットボール部がよく出て来る。多くの地域でアメリカンフットボールの高校対抗戦が学校スポーツの華で、チアリーディング部の女子生徒が対抗戦を盛り上げる。コーチは有償で、いろいろ調べると50万~60万程度の報酬らしい。他部のコーチより高額で、それは拘束時間が長いからだという。誰でも部活に入れるわけではなく、セレクションを突破した生徒のみが参加出来る。(学力条件もあると思われる。)アメリカの学校スポーツは季節が決まっていて、夏と冬で違う競技をしたりする。試合は有料なので、それでコーチを雇えるらしい。教師がボランティアでやってる顧問とは違って、日本で言えば私立高校の野球部監督に近いと思う。一年で数ヶ月間コーチを務めるだけというのも日本と違う。
(フットボールコーチ時代)
その間1999年には性的マイノリティ向けの指導員になっている。同性愛生徒がいじめにあったのを見て、研修を受けたという。また特別支援学級でも教えている。このような幅広い体験は生い立ちもあるだろうが、中国の学校と関係を持ち続けたことも影響している。妻とともに夏休みに中国でボランティアする会社を設立し、2008年まで毎夏生徒を連れて行っていた。また2002年にはミネソタ州立大マンケート校に、ホロコーストの教育に関する修士論文を提出し、体験教育に関する修士号を得た。妻との間には不妊治療を経て二人の子どもが生まれていて、この間の活動には驚くばかり。これだけ活躍すれば周囲からの注目も集まるだろう。2006年はイラク戦争が泥沼化していて、ウォルズが戦争に強く反対していたことが、立候補のきっかけだろう。
(教師としてのウォルズ)
下院議員の活動を振り返ると長くなるので省略する。2017年に民主党の現職知事が引退を表明し、ウォルズは2018年の知事選への立候補を表明した。知事選では53%対42%で共和党候補を破り当選した。当選就任後は教育と医療改革を進めると演説した。もっともBLM運動のデモへの対応や警察改革には批判も受けたが(2020年5月にジョージ・フロイドが警官に殺されたのはミネアポリスだった)、教育など他の施策への支持は強く、2022年には2期目の当選を52対44で果たしている。
教育問題だけ見ておくが、日本語版Wikipediaでは以下のように書かれている。(英語版はもっと詳しい。)「教員の能力給に反対する」「公立学校への財政支出の強化」、「低所得世帯の学生を対象とする公立大学授業料無償化を支持」、2019年2月12日には「経済の強固な基盤を確保するために最も重要なことは、子どもたちに可能な限り最高の教育を提供することだ」と演説し、これらの教育政策に対して、全米教育協会、全米大学女性協会、全米小学校長協会などの多くの利益団体から強い支持を得ている。」2023年3月、「ミネソタ州のすべての児童・生徒を対象とする学校給食費無償化法案に署名」。同年8月、「州内の公立学校に対し、4年生から12年生までの児童・生徒に生理用品を無償で提供することを義務付ける法案に署名」。
どうだろう、この人こそ僕の望む教育政策を進めていた人なのではないか。教員の能力給に反対し、公立学校への支出を強化する。ミネソタ州のすべての児童・生徒への給食費無償化。こういう施策は当然教育界の多くの団体に支持されている。こういう人が日本にも欲しいし、教育をホントに理解出来る人が政治家に欲しい。なおウォルズは中国との関係が長いが、中国の人権環境を厳しく批判しているという。また副知事のペギー・フラナガンはネイティブ・アメリカン出身の初の州知事になる可能性が高い。ウォルズが副知事に女性の先住民運動家を選任したというのも素晴らしいことだと思う。
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