尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「教職調整額10%」以外に多くの問題が潜む中教審「審議まとめ」

2024年05月28日 22時01分43秒 |  〃 (教育行政)
 いわゆる給特法により支給される「教職調整額」を現行の4%から10%に増額するという案が公表された。この問題に関して一度きちんと書いておきたいと思いつつ、なかなか機会がなかった。この問題については校種や教員個々にとっても状況が大きく違っていて、全員の意見がまとまるということはないだろう。僕はベストの案とは思ってないが、「やらないよりはまし」なのか、「やらない方がまし」なのかの判断が難しい。NHKニュースが「定額働かせ放題」という表現を使って報道し、文科省が抗議したというニュースもあった。この問題をどう考えれば良いのだろうか。
(ニュース報道)
 何だかもう決まったかのように書いてる人も多いけど、まだ中教審の答申にも至っていない。中教審の初等中等教育分科会の、さらに下にある「質の高い教師の確保特別部会」で検討された「「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について 」の「審議のまとめ」に過ぎない。それは文科省のサイトにある「令和の日本型学校教育」を担う 質の高い教師の確保のための環境整備に関する 総合的な方策について (審議のまとめ)というPDFファイルで見られる。
(日本教育新聞電子版)
 この10%増額案に関しては様々な意見が飛び交っているが、今回きちんと「審議まとめ」を読んでみて、教職調整額以外にも大きな問題点が幾つもあることが判った。まずは「主幹教諭と教諭の間に新たな職を創設する」という方向性が明記されている。これはすでに10年以上前に東京都で創設された「主任教諭」制度を法的に整備して全国で実施するものと見てよい。東京じゃ、多くの教員が反対していたが、作られてしまったらあっという間に「教員の階層性」が「定着」したかに見える。
 
 第二次ベビーブーム世代の成長に伴って70年代、80年代に大量採用された教員は、2010年頃から大量退職時代を迎えた。東京は全国で一番教員が多いわけだが、もう「管理職以外は全員教諭」という時代を知っている世代は少数派になっているだろう。何でも今では「主幹教諭は上司」と思っている(思わせられている)という話。先の「審議まとめ」では「チーム学校」などと言って教員間の協力体制を構築して「働き方改革」にするようなことが書いている。教育行政は「チーム学校」が大好きだが、何で逆行するようなことばかりするのか。あるいは校長の命令一下整然と働くのを「チーム学校」と思っているんだろうか。

 他に「新卒教員を教科担任にする」(学級担任にしないという意味か?)という教師を増やさないと難しいことも言っている。また学級担任に義務教育等教員特別手当を増額」とも。これは多分「現場」的には賛成が多いのではないか。感覚的には僕も納得する気持ちもあるが、本来学級担任は教科バランスを踏まえながら全員回り持ちで担当するものだ。しかし、諸条件(家庭的、健康的、役職的など)で、担任を持たない(持てない)教師もいる。役職的とは、教務主任や生活指導主任が分掌専任になる大規模校と、分掌主任と学級担任を兼務せざるを得ない小規模校の問題。「チーム学校」的観点からは課題がある。

 もう一つ、「審議まとめ」には明記されていないが、教職調整額を10%にする案が通ったとして、それを「本給扱い」している現行制度が維持されるのかどうかという大問題がある。教員以外には関係ないし、ほとんど知らないだろう。「教職調整額」は本来「残業代なしの対価」ではない。当時の平均時間外業務を調べて4%としたようだが、建前上は「教員の人材確保」が目的だった。従って教育職全員に調整手当が加算されるし、それは「本給扱い」となる。つまり「一時金」(ボーナス)に反映される。「何ヶ月分支給」というときに、(本給+教職調整額)×支給月が払われるのである。
(ぎふきょうそブログより)
 これが10%に増額されると、果たして財政の厳しい地方では同じようにボーナスに反映されるのかという問題がある。そして、さらに大問題なのは、退職金の問題。退職金の支給月数の基準も、本給+教職調整額である。これが10%に増額されても、同じように反映されるのか。上記画像にあるように、もし本給のみ反映となった場合、退職金が100万円近く減額になる可能性がある。逆に言えば、10%増額が実現して一時金、退職金に反映されるなら、これは相当の優遇策となる。だが、そんなことが起こりうるだろうか。少なくとも「退職金には4%のみ加算」などということになりかねない。そういう問題も起こりうるのである。「10%増額」問題そのものは、またいずれ改めて考えることにしたい。

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