尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

小泉内閣が生んだ教員不足ー『先生が足りない』を読む②(「教員不足」問題②)

2023年05月29日 22時44分49秒 |  〃 (教育行政)
 文科省が2021年に「教員不足」を調査した結果、全国の5.8%の学校で教員不足が起こっていた。これは5月1日現在の数である。小学校が一番多いが、中学、高校、特別支援いずれも不足が生じ、全部で2557人になっている。春休みから一生懸命探し続けて、まだ見つからなかったのだから、非常に深刻な問題だ。公立学校は税金で運営され、すべての国民に適切な教育環境を提供する義務があるはずだ。それが授業時間に管理職の教員が来て自習プリントを配るだけ…。そういうことが1ヶ月も続くとなると、児童・生徒は「見捨てられた」と思うようになる。そのことが氏岡氏の本でよく判る。

 そこで原因は何かと文科省が各教委に示したアンケートを基にすると、前回書いたように「産育休の増加」「病休の増加」「特別支援学級の増加」がいわば三大要因として上がってくる。しかし、それだけなんだろうかと氏岡氏の本は論じている。そこで参考にされているのが、慶應義塾大学の佐久間亜紀教授と元小学校教員島崎直人さんが調べた研究である。そこでは「X県」の実態がつぶさに調査されている。なお、場所を特定しないことが調査に応じる条件だったということで、X県がどこかは不明だが日本のどこかには違いない。細かいデータは同書に譲り、結論だけを書くと「そもそも正教員が足りてなかった」のである。

 正規教員の数が学年当初で1200人も足りてなかったという。この「足りてない」というのは何かというと、クラス数に応じて学校ごとの本来いるべき教員数が決定される。つまり、学習指導要領で授業時間は決まっているから、クラス数が確定すると授業時間数が決まるわけである。そこで全国一律に各学校の教員数が決まっているわけで、正教員が足りないということは起こらないはずである。今も原則としてはそうなんだけど、実際は大分(良い意味でも、悪い意味でも)違っているのである。それをもたらしたのは、小泉内閣で進められた「規制緩和」と「三位一体改革」だった。
(三位一体改革のイメージ)
 「三位(さんみ)一体改革」というのは、①国から地方への補助負担金を4兆円削減する②地方交付税を抑制する(5.1兆円)③国から地方へ3兆円の税源を移譲するという3点を同時に実施するという改革だった。地方への移譲額と中央政府の削減額を比べて見れば、あまりにも地方へ厳しい「改革」だった。この時に「義務教育費国庫負担金」も削減されたのである。義務教育の水準が地方ごとにバラバラでは困るので、従来は小学校、中学校教員の人件費は国が半分を支出していた。それがこの「三位一体改革」の時に「3分の1」に減らされたのである。

 その代わりに、教員定数配置の規制緩和も進められた。そのため地方で独自の少人数教育を進めることも可能になった。都道府県ではなく、市区町村で教員を確保することも可能になった。しかし、その反対に正規教員の数を抑えて、その分で非正規教員を増やすことも可能になったのである。そうなると今後進む少子化を予測して、地方ではあっという間に正教員ではなく非正規教員を雇うようになった。公務員の定年年齢は今後65歳になっていくだろうから、正教員には40年近く給与を払い続けるのである。生徒数が3分の1ぐらい減るだろうという時に、確かにそれは抑制したいだろう。

 だから、このような「教員不足」を生んだのは明らかに国の責任である。次世代の育成は社会持続の鍵である。「教員不足」などということが起きないようにするためには、国がきちんと人件費を措置しなければならない。多くの人は「小泉改革」がこういうことを生み出すと予測していただろう。それがやっぱり実現してしまったというわけである。「郵政民営化」などに熱狂した人にきちんと考えて欲しいと思う。詳しいデータは是非氏岡氏著を参照して欲しい。
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