尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

真犯人隠ぺい? 今市事件のトンデモ判決

2018年08月04日 23時31分54秒 |  〃 (冤罪・死刑)
 東京高裁で8月3日に「栃木女児殺害事件」(「今市事件」)の控訴審判決があった。「原判決を破棄。被告人を無期懲役に処する。」という、不可思議極まる判決だった。控訴審が自白に寄りかかり過ぎた一審判決を破棄するのは当然だが、その後で自判して有罪にしていいのか。控訴審判決はあまりにもおかしいと考えるので、ここでまとまって書いておきたい。

 控訴審では、殺人事件で一番重大な殺害時間と殺害場所に関して重大な訴因変更があった。殺害時間が「被害者が行方不明になってから、遺体が発見されるまでのいつか」、殺害場所が「栃木県か茨城県またはその周辺」って、冗談としか思えない。これじゃ、そもそも起訴できたかどうかも怪しい。「自白」に基づいた検察の立証活動は破たんした。それならば「証拠不十分」で、「疑わしきは被告人の利益に」ではないのか。刑事裁判としておかしいのではないか。

 一審段階では長時間の取り調べ中の録画をもとに「自白に信用性がある」と認定した。自白だけで有罪にするのは憲法違反であると僕はその時に批判した。今回「自白画像で有罪認定はできない」と判断したのは、当然正しい。しかし、この一審判決に対して弁護側は反証を続けてきたわけで、その結果検察側は訴因変更に追い込まれた。ところが、裁判所が訴因変更を受け入れ、状況証拠でも有罪認定できるというんだったら、一体被告・弁護側はどういう反証を行えばいいのか。試合開始後のルール変更じゃないのか。

 「被告人が母親に送った手紙」を有罪認定に使った判断も危険である。手紙で捜査側も知らなかった「秘密の暴露」があるなら別だが、「今回、自分で引き起こした事件、本当にごめんなさい。まちがった選択をしてしまった」という内容は、どうにでも解釈できるものだ。今までにも友人や家族、同房者への手紙などが有罪証拠に使われたことが何度もある。証拠がないときに、こういうことを言うのである。1970年の「大森勧銀事件」では、知人に対して事件を起こしたのは自分だと吹聴していた人が逮捕・起訴された。(一審無期懲役、2審で無罪、最高裁で無罪確定。)

 そもそも「母親への手紙」も「一種の自白」であり、それだけでは有罪証拠にしてはいけない。自由な環境で書いたものではなく、獄中で書かされたものだ。お前が人殺しになって親が泣いてるぞ、一言お詫びの手紙を書けなどと言われるわけだ。獄中で精神的にも支配されているから、家族相手でも自由には書けない。今度の手紙も直接的には犯行には何も触れず、「まちがった選択」は「自白を強要された」とも取れる。むしろ「無罪心証」と評価出来るものではないか。

 弁護側はビニールテープに被告以外のDNA型が検出され、真犯人のものだと反証した。この鑑定に対し、裁判官は「捜査官に由来する可能性」として証拠価値を認めなかった。確かに裁判所の判断も一般論としてはあり得ることだが、この事件では違うと思う。実は捜査段階で、まさに捜査官のDNA型が検出されていた。それを犯人のものだと追いかけていたら、実はミウチのものだった。捜査中の不手際で付いてしまったのである。

 だからテープのDNAも捜査官のものと思うかもしれない。しかしその当時、証拠物に触った可能性のある捜査官のDNA型の鑑定を行ったはずだ。そうじゃないと、実際に捜査官のものだったと判らない。だから未提出の捜査官鑑定書を確認すれば、テープのDNAも捜査官のものと検察側は証明できる。それを行っていない以上、この事件に関してはテープに付いたDNAは確かに真犯人の可能性が高いと思う。テープは普通個別に包装されているから、お店の人のものということもないだろう。(なお、問題の捜査官はアリバイがあったから犯人ではない。)

 この事件に関しては多くの未提出証拠が存在する。「捜査官のDNA鑑定結果」もそうだし、「取り調べテープの全容」もある。さらに「Nシステムの設置場所」が大問題。被告人が疑われたのは、遺体遺棄時間に宇都宮から深夜に出て早朝に帰る車が確認されたからだ。ここで疑問なのは、「深夜に出ていく車」は被害者(生死は不明だが)を乗せているわけだから、絶対に警察の目に触れてはいけないのに、なぜNシステムがる大きな通りを通ったのかである。

 もちろん、そんなシステムの存在は意識しなかっただけかもしれない。しかし、それならなぜ前日の「犯行へ向かう道」がNシステムで検知されなかったのか。被害少女は「自白」ではその日に見かけたことになっている。その日の車は犯罪を犯すと知らずに出かけたのである。その日こそNシステムで捕捉できないとおかしい。だが当時のNシステムの設置場所と捜査状況は公表されていない。だから、何故犯行日のドライブが証明できないのかも判らない。

 僕も「誘拐」「死体遺棄」双方の行き帰り4回全部で被告の車が確認できたのなら、それはかなり強力な「状況証拠」になると思う。でも一番大事な犯行日の方が行きも帰りも出てこないのは不自然である。以下は想像で書くことだが、多分栃木県には他県に先がけて多くのNシステムが整備されていたと思う。「那須御用邸」があるから、警察庁も優先して整備したはずだ。そして日光も関東最大の国際的観光地であり、「旧田母沢御用邸記念公園」がある。警備の対象にはなってるはずで、日光付近には多くのNシステムがあったに決まってる。証拠を開示するべきだ。

 今市事件が起きた2005年12月1日の直前に、別の誘拐殺人事件が起こっていた。11月22日に広島市安芸区で小学校一年の女児が殺害された事件である。犯人はペルー人だった。当時から僕が思ったのは「今市事件は広島事件に刺激されたものではないか」ということだ。そしてさらに言えば、「またあの犯人なのではないか」ということである。その時点では足利事件の菅家正和さんの無実は晴らされてはいなかった。しかし、栃木・群馬県で未解決の誘拐事件が多発していることは一部で知られていた。今は清水潔「殺人犯はここにいる」で知られる。足利・太田あたりから近いとまでは言えないが、車なら1時間もかからない。

 なんだか今回の判決のあまりにも不自然な事実認定を見ると、単なる誤判というレベルを超えて、事件の真相をあえて隠すべき国家的理由があるのではないかとまで勘ぐってしまうのだ。思えば6月11日、袴田事件における東京高裁の再審破棄決定も理由付けが不自然でおかしかった。だけど、今になって考えてみると、死刑再審が6月に認められていたらどうだったろう。オウム真理教事件の再審請求中の死刑囚は執行が難しかったのではないか。東京高裁はそのような「国家的要請」に応えたのではないだろうか。東京高裁の「忖度」判決があるのではないか。
*2020年3月4日付で、最高裁は上告を棄却した。理由は「上告理由に当たらない」というもので、疑問に答えるものではなかった。
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1 コメント

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Unknown (真犯人の可能性は50%)
2022-09-10 17:01:03
実は今市事件には、重要な容疑者がもう一人いるんです。そちらの容疑者を完全無視して勝又容疑者だけを掘り下げていく姿勢には納得がいきません。容疑者が二人いるのだから、両方を比べるべきです。

そもそも、勝又容疑者を犯人に仕立てたい栃木県警は「霊能能力者に依頼して勝又を犯人だと言わせる」という前代未聞の小細工を弄した過去もあります。その一件だけでも、勝又への捜査姿勢に怒りを感じます。

もう一人の重要な容疑者の件ですが、なるべく特定できないように、詳細をお伝えします。
2000年12月30日に、世田谷一家四人殺害事件を起こした犯人は、ある不祥事で逮捕されなくなっていました。この犯人は劇団へ所属していましたが、活躍していた2005年秋に退団しました。犯人が影響を受けた少年犯の一人が、2005年11月ごろに出所し大阪で殺人事件を起こしました。そして起きたのが12月の今市事件です。大阪の方の元少年犯は、今市事件が起きてすぐに逮捕され数年後に死刑判決が出ました。
2006年1月には、犯人が影響を受けたもう一人の少年犯も出所しました。まさに、世田谷犯人の人生にとって激動の時期だったのです。犯人の名が、今市事件の地裁の名前と一致しているのも不気味なところです。そういうタイプの事件を起こす男なのです。
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