尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

香港情勢と「米中新冷戦」をどう考えるか

2020年08月14日 23時06分57秒 |  〃  (国際問題)
 「香港国家安全法」なる法律が7月1日より施行されて以来、「一国二制度」下に保証されているはずの香港の「言論の自由」が危機に瀕している。9月6日にに予定されていた香港立法会選挙も、コロナ問題を理由に1年間延期されてしまった。そんな中で、8月10日には民主派への一斉弾圧が行われた。大手日刊紙「蘋果日報」(リンゴ日報)本社を家宅捜索し、創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏らを連行。また日本でも知名度の高い「民主の女神」周庭(アグネス・チョウ)さんらも逮捕した。容疑は「外国勢力との結託」とされたようだ。
(保釈された周庭氏)
 いずれも、その後保釈されたとはいえ、そもそもの「容疑」自体がでっち上げ的なものに思える。例えば周庭さんは7月以後にSNSなどへの投稿はしていないという。民主運動家としての活動は「香港国家安全法」施行以前のものだから、今回の逮捕は「罪刑法定主義」「法の不遡及」という民主主義の大原則に反する可能性が高い。要するに、「何か」があって逮捕したのではなく、政治的な意図によって「逮捕」という政治ショーを世界に示したというべきか。
(台湾を訪問するアビー米厚生長官)
 そこで考えられるのは、ちょうどその時にアメリカのアビー厚生長官台湾を訪問していたことである。これは米中国交樹立以後、最高位の高官の訪台だという。李登輝元総統の弔問を理由としながら、WHO脱退を表明したアメリカの現職厚生長官が台湾を訪問することは十分に中国に対する徴発でもある。折しもTikTok問題などをきっかけにして、改めて米中の経済摩擦が激しくなっている。7日には香港の行政長官など高官に対して、米国内の資産を凍結するという「制裁」を科した。対抗して中国も米議員らに制裁を科したが、さらに「中国が出来ること」として、台湾では出来ないから香港で弾圧を強化したのではないか。

 「米中経済摩擦」はいくつかの次元で考えられる。一つは「中国の台頭」を「文明史的変容」と考えて「文明の対立」と見る見方。もう一つは「覇権大国」としてのアメリカの「没落」と多極主義世界の中で、「アメリカ様式」と「中国様式」に二分化されつつあるという見方。IT技術をめぐる世界基準をめぐる争いは一つの象徴だ。そう見ると、アメリカの政権が民主党に移っても、米中対立は何らかの形で続いていくことになる。多分バイデン政権でも米中対立は起こるだろう。

 ただし、現時点では「もう一つの焦点」がある。「トランプ大統領は再選のためなら何でもやりかねない」という問題だ。劣勢のトランプが是非とも欲しいのは、「外敵」だろう。中国が現実に台湾に武力行使をすることは考えられないが、中国の選択肢として放棄はしない。台湾あるいは「北朝鮮」で武力衝突が起きることは、現時点で中国の望むところではない。しかし、それを見越せばアメリカ側から「米中経済摩擦」をいくらでも高めることが出来る。中国の側からすれば、経済ではずいぶん妥協してきたのに、選挙前になってホゴにされたと思っているだろう。トランプ政権にこれ以上妥協することは意味がないと思っている。
(中国とイランの協力関係)
 一方非常に危険なのは「イラン情勢」だ。アメリカがイランに直接攻撃を加えるとは思えないが、「イラン系シーア派組織が中東の米軍を攻撃したと称して米軍が反撃する」という「満州事変」型衝突は絶対に起きないかどうか。イラン側からすれば、ありうる話だと思っているだろう。そこで最近、イランと中国の協力関係が進んでいるという報道があった。アメリカはイランから原油を輸入するなどした国には制裁を行っているので、日本やヨーロッパの企業もイランとの取引が出来なくなっている。しかし、中国はもうアメリカの機嫌を伺う必要がなくなってきた。

 もっともイラン内の超強硬派からすれば、中国は宗教を異にする異文化の国であって「外国」との協力は全て危険だと言う反対もあるらしい。中国のアフリカ進出を見れば、植民地主義と言われかねない面もあるから、中国を危険視するのも判らないではない。しかし、大きな目で見れば世界は「親米」「反米」に大分裂しつつある。そしてどっちも「自国中心」で「反人権」的な強権化が進んでいる。この世界は変わりうるのか。どうしてそうなったのか。「中国」をどう考えるべきか、きちんと向き合わないといけない問題だ。
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