尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

スポーツ推薦の性差別

2019年06月05日 23時15分03秒 |  〃 (教育問題一般)
 FIFA女子サッカーワールドカップが6月7日から1ヶ月に渡って行われる。今年が8回目で、開催国はフランス。今も2011年の日本代表の優勝は記憶に新しい。2011年は決勝でアメリカに勝って優勝し、2015年はアメリカに敗れて準優勝だった。その後アジアやヨーロッパで強豪が台頭して、日本はリオ五輪出場を逃した。今回のワールドカップも厳しい闘いになるだろう。ところで、今までの優勝国を調べてみると、アメリカ3回ドイツ2回ノルウェーと日本が1回となっている。
 (2011年ワールドカップで優勝)
 ここで書きたいのは、なぜアメリカの女子サッカーは強いのかである。もちろんアメリカの女子選手は他のスポーツでも活躍している。男子も含めてスポーツ大国なんだから、女子サッカーが強くても不思議な感じはしない。僕も今までそう思っていた。しかし、アメリカのサッカーは男子より女子の方が活躍している。それは何故だろう。アメリカの男子サッカーも弱いわけではない。2018年ロシアワールドカップは出場を逃したが、その前は7回連続で出場していて、2002年の日韓大会ではベスト8になっている。もっとも最高でベスト8なんだから、やはりサッカーでは女子の方が活躍している。

 アメリカ合衆国で最も人気のあるプロスポーツは、アメリカンフットボールバスケットボールベースボール(野球)、アイスホッケーで、4大プロリーグと言われる。サッカーの人気も高いようだが、リーグとしての人気は4つに及ばないらしい。そしてプロ選手も出場するバスケットボールやアイスホッケーは五輪でも金メダルを取る。ゴルフやテニスも人気だが、個人種目であってチームでリーグ戦をやるわけじゃない。アメリカの大学スポーツでもアメリカンフットボールやバスケットボール、野球などの人気が高い。これらの種目で高校時代に活躍すると、推薦で大学へ進学して活躍してプロ選手になる。

 しかし、6月3日付東京新聞の「直言タックル」(小川勝)を読んで、なるほどと思った。アメリカの女子サッカーの強さには、1972年に成立した男女の教育機会均等を義務づけた法律が大きいという。そこでは「連邦政府から財政援助を受ける大学は、スポーツの奨学金において男女の機会が均等でなければならない」と決められた。私立大学は当然アメリカンフットボールのチームを持ちたいから、同数の女子選手にも奨学金を与えないといけない。陸上などの個人種目だけでは「男女均等」にならないのだ。選手数の多い競技で女子を取らないといけないのである。それがサッカーだった。

 この論理をどう思うだろうか。日本では正月早々、箱根駅伝が行われ、同時期には全国高校サッカー大会が行われる。春休みには選抜高校野球大会、夏休みには全国高校野球大会がある。全部男子じゃないか。他のスポーツでも、大学単位、高校単位で競う有名な大会は男子スポーツが多い。女子スポーツですぐ思い浮かぶのは、高校のバレーボールやバスケットボールぐらいじゃないだろうか。それでも女子のバレー、バスケが強い高校として思い浮かぶ数は、男子野球で有名な高校の場合に比べて全然二桁以上の単位で違っている。ほとんどの人はそうだと思う。
 (2019年箱根駅伝)
 私立大学には多くの国費が投入されている。それどころか今では私立高校への学費補助も多くの地方で行われている。それを考えると、税金で支えられた学校ではスポーツ推薦入学者が男女同数でなければならないのではないだろうか。これは今までほとんど論じられていない論点だと思う。僕も高校野球の現状がこれでいいのかと考え、昨年書いた記事では「高校生野球大会」と改名して、高校単位じゃない地域チームも参加出来るようにするべきだと書いた。しかし、女子の野球選手もいるんだから、「男子高校生野球大会」にするべきだと書くべきだった。僕もそこまで考えていなかった。

 何で考えていなかったのか。まずは「私立大学」「私立高校」が、宣伝のためにスポーツを振興するのは当然だろうという意識である。実際、箱根駅伝に出てるから知った、甲子園に出てるから知った、そういう学校は誰でもいくつかあるだろう。人気のある男子スポーツを優遇することを当然視していた。それと「スポーツ推薦」そのものがある種の差別だという考えもある。体育系、芸術系の大学が実技試験をするのは当然だ。しかし、普通の学部でスポーツ重視で入試なしで入学できること自体がどうなんだと思わないではない。そういうこともあって、「スポーツ推薦の性差別」という問題意識をもたなかった。

 改めて考えてみると、高校無償化、大学無償化が議論され、すでに多額の税金が私立学校に使われている。そしてスポーツ振興、特に女性のスポーツ環境の整備というのも、誰も否定できない。医学部入試で発覚した「性差別」という日本の状況を考えてみると、スポーツ選手にも「性差別」の現状があると言うべきじゃないか。今の段階では、正月は箱根駅伝、春夏は高校野球に熱中するという「風物詩」が定着していて、女子は出てないじゃないかということを意識もしてない人が多いだろう。「性的マイノリティ」のケースはどうするか。高校や大学への財政援助にも、やり方には多くの議論がある。そういう段階で、以上の議論が有効かどうかは判らないけれど、問題提起として書いてみた。
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