【tv】100分de名著「太平記」第1回
"あわいの時代"を生きる
1回25分×4回で1つの作品を読み解く番組。2022年7月は「太平記」。講師は「平家物語」でも講師を務められた能楽師の安田登氏。
「太平記」は漠然と足利尊氏の物語というイメージがあったくらいで、全然内容が分からないので楽しみ。安田先生の「平家物語」めっちゃ面白かったので期待大✨
『太平記』(Wikipedia)について
構成:全40巻
成立:室町時代(1370年代?)
作者:不詳
内容:鎌倉幕府の滅亡~南北朝時代 足利義満の治世となるまでの50年の動乱を描く
平安時代=「公」(朝廷)の時代、鎌倉時代=「武」(武家政治)の時代
「武」に問題が起こることにより、「公」がまた現れる。「公」と「武」が入り乱れる時代。
前半の主要人物
「武」北条高時(Wikipedia)
「公」後醍醐天皇(Wikipedia)
「公」楠木正成(Wikipedia):武士だが後醍醐天皇側なので「公」
「武」⇨「公」新田義貞(Wikipedia):鎌倉幕府に仕えていたが途中から後醍醐天皇側へ
「武」⇨「公」⇨「武」足利尊氏(Wikipedia):新田義貞と同じ流れから後醍醐天皇と争う
伊集院光氏:「公」「武」入り乱れているのが分かる
ナレーション:「公」「武」入り乱れる『太平記』実は先立って成立した軍記物『平家物語』(Wikipedia)に影響を受けている。『平家物語』は平清盛の死を頂点に滅びへ向かっていく物語。『太平記』第一部(12巻まで)従来の「武の滅び」楠木正成の活躍を頂点に滅びに向かう
朗読:(安田登氏)
ナレーション:もうひで?が古今の変化を採って安危の所由を察するに覆って外無きは天の徳なり。明君これにて国家を保つ。載せて?つること無きは地の道なり。良臣これに則って社稷を守る。もしも徳欠くる則は、位有りといへども保たず(中略)其の道違う則は威有りといへども保たず。
現代訳:古から今に至る世の移り変わの中に、平和と乱世との由来を私なりによくよく考えてみると、万物をあまねく覆うものこそが天の徳だと分かる。明君はこの徳を身に備えて国を治めるのである。一方国家の運営を任せて疎んずるころの無いのが地の道である。だから良臣はこの道理に従って重要な国家祭祀を守って行くのである。また臣下が地の道を誤った政治を行うならば、権勢があってもその地位を維持することはできない。
伊集院光氏:聞き覚えはないが言っている内容はおごれる者は久しからずみたいなこと?
国家を平和に保つのに必要なこと
〇キーワード:天の徳 地の道
君主=「天」 臣下=「地」 天地で一つ。両方相まってなくてはいけない。
道徳とも読める。
伊集院光氏:大きな会社の創業者は漠然とこの会社はこうあるべきだという方針を体現している人で、重役は具体的にこうしようということをやる。それがきちんと機能していないともたないよということ?
天と地が一緒になって初めて上手くいく。
安部みちこアナウンサー:ベースになっている学問があるのでしょうか?
儒教「論語」(Wikipedia)がよく引用される。
政を為すに徳を以てすれば、譬えは北辰に其の所に居て衆星のこれに共するがごとし
君主が政をするには徳をもってすると北極星がそこのところにいて周りが拱手(両手の指を胸の前で組み合わせてお辞儀をする中国の敬礼)をする。
これが正しい政治である。君主は何もせず「北極星」であることが大事。
伊集院光氏:トップの上司が細かいことまで動いちゃうと、それがいいかというとあまりよくない。
人物の徳
一番ダメに描かれているのが北条高時
「太平記」では十四代執権北条高時が悪く描かれている。闘犬・田楽に狂い好き放題なことをして周りの武士たちを呆れさせる。
伊集院光氏:本来は天? 地?
儀式的には天。日本全体では天皇が天で武士は地。
伊集院光氏:ちょっと複雑なポジションにいて、天としても地としてもまずそう。
安部みちこアナウンサー:なぜこの時代にこんなに世が乱れたのでしょうか?
「あわい」の時代
間というのは A とBの空いているところ。 あわいというのはAとBが重なっているところのことを言う。いろんなことが重なっている時代。現代もそうで変化している。
伊集院光氏:徐々に移り変わっている間に前の常識でやっていいのか、新しい常識に従うべきか混乱する。その時代であった常識で。現代もそう。
安部みちこアナウンサー:特別すぐれた人物として描かれている人物がいる。
楠木正成:後醍醐天皇に尽くすが2人の出会いが不思議。
ナレーション:後醍醐天皇は鎌倉時代に禅僧が宋から持ち込んだ宋学(Wikipedia)を熱心に学んでいた。朱子学とも呼ばれるこの儒教思想には「一人の王のもとに国家は統一されるべき」という考えがあった。
後醍醐天皇は天皇自らが政治を行うことを目指し、幕府打倒を企てる。しかし、その計画は二度にわたり幕府に露見し、後醍醐天皇は京都を脱出し笠置山に逃れる。援軍も少なく窮地に陥る中、後醍醐天皇はうたた寝をして夢を見る。
宮中の庭先思われるところに大きな常葉樹があり、南に向けて伸びた枝が特別勢いよく生い茂っていた。
その下に大臣など公卿が並んで座っていたが、南に面した席には誰も座っていない。はて誰が座る席なのだろうと訝しんでいるところに2人の童子が現れた。
童子は跪きこの世には帝が身を隠せる場所はありませんが、あの座席は帝のための玉座。しばらくそこにいて下さいと言うと天高く昇って行った。
そんな夢を見た後醍醐天皇は木に南と書くのは楠だと思い、翌日寺の僧を呼んだ。
「もしかして、この辺りに楠といっている武士はおらぬか」とお尋ねになると「河内国の金剛山の西に楠多聞兵衛正成といって、弓矢を取って優れた者ありと、人にも聞こえた者がございます」
帝は詳しくお聞きになり「それでは、昨夜の夢はこのことだったのだな」とお思いになられたので、直ぐに正成を召し出された。
後醍醐天皇の元にはせ参じた楠木正成は挙兵を快諾。初陣となった赤坂城の戦いでは攻めて来る敵を罠にかける。
朗読:(安田登氏・玉川奈々福氏)
寄せ手はいよいよ調子づいて四方の塀に手をかけて、同時に乗り越えようとしたところ、もともとこの塀は二重に築いてあって、外の塀をばっと切り落とすように造ってあったので塀の中から四方の釣り縄を一度に切って落とした。
塀に取りついていた兵士たち千余人は、上からおもりをかけられたように目ばかり白黒しているところへ、大木・大石を投げかけ投げかけして打ったので、寄せ手はまた今日合戦でも七百余人が討たれてしまった。
ナレーション:正成は奇策や計略を尽くし、幕府軍を翻弄。後醍醐天皇のために大いに働く。
ニュータイプ武士! 楠木正成
それまでの源氏と平家は両方天皇の血筋。楠木正成は全く出自が分からない。当時は「悪党」と呼ばれていた。悪党=強い。強い人たち。忍びを使ったり、偽情報を流すなど情報戦を行う。
伊集院光氏:血筋と腕っぷしみたいな時代にとんでもない人が出て来た。
「あわい」の時代だからこそ。中国のあわいの時代である三国志の時代に「人物志」という本が書かれた。
一流の人(一つの専門家)二流の人(二つの専門家)こういう人に国を任せてはいけない。なぜならその人はその専門家なので、それ以外はダメだと思ってしまう。三流以上の人に国を任せよと「人物伝」には書いてある。
楠木正成も武将ではありながら商人としても成功していて何でもする人。そういう三流の人が重要。
伊集院光氏:三流という言葉だけ聞くと、今の使い方だとダメな人だが、いろんなことが出来る人?
自由な発想があるし、非常識も気にしない。それが三流の人のすごさ。
楠木正成が素晴らしい活躍をしたので幕府側から離反し後醍醐天皇につく人物が出て来る。新田義貞と足利尊氏。
ナレーション:新田義貞と足利尊氏は源氏の血筋の武将。新田義貞は平家の血筋である北条家を見限り、天皇を支えることを決める。
足利尊氏は体調も悪い中、北条氏から討幕軍追討を命じられたことに不満を高めていた。
後醍醐天皇は隠岐に流されていたが脱出。鳥取県の船上山に籠城。足利尊氏は幕府側の司令官を任じられ京都に向かっていたが一転、討幕を表明。足利尊氏が寝返ると加勢する武将(赤松円心・佐々木道誉)が増え幕府は劣勢に立たされる。
関東では新田義貞が鎌倉に攻め上る。海と山に守られた鎌倉の守りが堅く、攻撃は難航。そこで新田義貞は稲村ケ崎で黄金の刀を龍神に捧げると、なんと海が干上がり新田義貞軍は海岸線から鎌倉に突入する。
鎌倉を制圧された北条高時ら一門は東照寺で集団自決。それは壮絶な光景だった。
朗読:あるいは腹を掻き切って炎の中に飛び込む者あり、あるいは父子・兄弟が刺し違えて重なり合って死ぬ者もあった。血は流れて大地にあふれこんこんとして大河のようになり、屍は道々に横たわって累々として葬送の野原のようである(中略)
九代の繁栄は一時に滅亡して源氏は多年の胸の思いを一朝に解き放つことができたのである。驕れる者は久しからず。この道理にのっとって天地は驕る者を助けなさらないと言われているけれど、目前の幕府滅亡の悲しみを見る人々は、皆涙を流すのであった。
伊集院光氏:出てきましたね。驕れる者は久しからず。あの新田義貞の方はすごく天と地が分かりやすい。
寝がえりの理由 新田義貞と足利尊氏
伊集院光氏:北条っていう天に着いて行けないな。だったら後醍醐天皇という天に自分は地として着きたいというのはすごくしっくりくる。
足利尊氏は前年に後醍醐天皇を討てという北条高時から言われるが、その時に自分の父親が亡くなって法事だった。悲しみも癒えていないのに、今回は体調が悪いのに酷い。なら寝返っちゃおう!
伊集院光氏:それにしても一気に滅びましたね。
それがあわいの時代の怖さでもある。北条高時は偉いので働けない。それが滅びの原因ではないか。
伊集院光氏:旧時代の価値観を捨てきれないっていうこと?
足利尊氏が室町幕府を作るが、彼はあまりかっこよくない。足利尊氏のかっこ悪さ「弱さ」が次の時代を作って行く。
伊集院光氏:おもしろいキーワード
北条高時だけが強い人で、後醍醐天皇も実は弱い天皇。中継ぎの天皇で楠木正成も出自がハッキリしない。新田義貞も足利尊氏も弱い。「強い」立場の北条高時を「弱い」立場の人たちが滅ぼす変化があわいの時代。
「強い」と留まってしまう「弱い」と動ける。
伊集院光氏:今までの実績で動けない状態と、捨てる物がない側が思い切った行動が出来るのは分かる。弱かったけど開き直って才能があった楠木正成は時代とフィットした。すごく分かる。
なるほど。後醍醐天皇って後白河法皇ほどではないけど、なんとなくいいイメージがなかったのだけど、視点を変えるとちょっと面白い。楠木正成との出会いについては、この時代はこんな話をすんなり受け入れてしまう土壌があったのか、「太平記」もやっぱり物語であるからこういう逸話が挿入されているのか?🤔
この鎌倉時代から室町時代の辺りって全然詳しくなくて、主要人物たちの名前はさすがに聞いたことあったけど、足利尊氏以外は具体的に何をどうしたのか漠然としていたので、この辺りのことが学べそうで楽しみ!
そして安田登さんの朗読が素晴らしく、とても楽しい!
もう既に3回まで放送されているけど、録画を見れていない。続きがいつになるか分からないけど、頑張ってみるつもり😅
100分de名著:毎週月曜日 午後10:25~10:50 Eテレ