2016.09.16 『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』@ヒューマントラストシネマ有楽町
試写会応募したけどハズレ。『スーサイド・スクワット』見に行く予定だったけど、テアトル系会員は1,000円で鑑賞できるハッピーフライデーであることに気付き、こちらを見に行くことに。楽しみに行ってきた~
ネタバレありです! 結末にも触れています!
「第二次世界大戦中のカリフォルニア州の漁村。8歳のペッパーは誰よりも背が小さくリトル・ボーイと呼ばれからかわれていた。心の支えは"相棒"である父親との冒険。ところが、徴兵検査に不合格となった兄に代わって、父親が出兵することになる。父親を取り戻したいペッパーは、司祭からミッションを授かるが・・・」という話。これは良かった。感動! という感じではないけれど、じんわり心にしみて、そして最後には笑顔になれる。実は重いテーマで、強いメッセージが込められているけれど、ポップでちょっとおとぎ的な語り口で見せるため、重くなり過ぎずに見ることが出来る。
メキシコのアレハンドロ・モンテヴェルデ監督作品。作品を見るのは初めて。メキシコの映画賞ルミナス賞にて作品賞、監督賞、新人賞(ジェイコブ・サルヴァーティ)を受賞している。どうやらモンテヴェルデ監督が広島に投下された原子爆弾がLITTLE BOYと呼ばれたことを知り、映画化を考えたそうで、脚本のペペ・ポーティーロと共に父と幼い息子の話に仕上げたとのこと。後述する予定だけれど、ハッキリとした形でLITTLE BOY(Wikipedia)が登場してきて、監督の思いも感じられたので、原題の『LITTLE BOY』は間違いなくダブルミーニング。まぁ、着想自体がそうなのだから当然だけど(o´ェ`o)ゞ
老人となった主人公のナレーションで始まる。語られる通り絵ハガキのような小さな漁村が映し出される。ポップでありながらレトロな感じの色合い。映像がイイ。主人公ペッパー・バズビー(ジェイコブ・サルヴァーティ)は8歳だけれど体が小さく、医師のデブ息子たちに"リトル・ボーイ"とからかわれている。とにかくこのデブ息子が意地悪で、これは明らかにイジメ。彼のとりまきだけでなく、少女たちまでペッパーがいじめられていれば、止めるどころかはやし立てる始末。これはヒドイ。ただ、陰湿な感じで描いてはいないのが救いではあるのだけど、彼が辛い日常を生きていることは間違いない。そんなペッパーの心の支えは父のジェイムズ(マイケル・ラパポート)。
ペッパーには兄のロンドン(デヴィッド・ヘンリー)がおり、徴兵検査を受けられる年齢になったと言っていたから18歳? 年が離れて生まれたせいか、生まれた時から体が小さかったためか、父はペッパーをとてもかわいがっており、お互いを相棒と呼びあい様々な冒険をする。「やれるか相棒?」と父が問い「やれる」とペッパーが答えるシーンは、劇中劇のように様々なシーンで描かれて楽しく見れるけれど、このやり取りが後にペッパーの支えとなる。ペッパーが生まれてからの流れもコミカルに描かれていて、見ていてまるで絵本を読んでいる感じで楽しい。そしてちょっと切ない
父は自動車修理工場を経営しており、兄のロンドンも一緒に働いている。片耳のない従業員もおり、彼は工場の一角に住んでいるらしい。この片耳従業員は後にペッパーのミッションに一役買うことになる。ロンドンは徴兵検査を受けるも、偏平足が理由で不合格となってしまう。何故、偏平足が不可なのかは後にコミカルなシーンで明かされるけれど、それが真実なのか、そもそも本当に偏平足ではダメなのかは不明。兄がひどく落胆したからなのか、成人男性のいる家庭は最低1人は出兵しなければいけないのか謎だけど、兄の代わりに父が戦地に行くことになる。
大切な”相棒”を奪われたペッパーは辛い。そして、やはり大好きな母エマ(エミリー・ワトソン)が悲しむ姿を見るのも辛い。兄も荒れている。ペッパーが父のためにと、お小遣いを集めて欲しがっていたウエスタンブーツを買ったのに、デブ息子がそれを奪い、周りがはやし立て、抵抗するとペッパーをゴミ箱に入れてしまうのを見るのは観客も辛い。それでもペッパーは健気に生きて行く
身長が伸びないペッパーは、母と共に定期的に医者に通っているらしい。医師の診断によるとまだ病気とは断定できないので様子を見ようとのこと。この医師はデブ息子の父親で、どうやら妻を亡くした彼は、ペッパーの母親に気があるらしい。露骨ではないものの、そっと肩に置く手で表現する感じが上手い。まぁ、後に半ば強引に息子と共に食事に招かれるように仕向けたりするのだけど。デブ息子がペッパーをいじめるのは、この辺りのこともあるのかもしれない。自分の父親が同級生の母親で、しかも戦地にいるとはいえ夫のいる相手にアプローチしているとあっては複雑でしょう。だからといっていじめていいことにはならないし、その辺りもドロドロした感じには演出していないので、ちょっとコミカルなものとして見ることができるのだけど。しかし、このデブ息子の配役が絶妙でニヤリ。
ある日、ペッパーはテレビで日系人のニュースを見る。第二次大戦中、日系の方々が収容所に入れられていたことについては知っているし、その事について現在でも議論がされていることも知っているけれど、アメリカに忠誠を誓い認められた方々が、収容所を出ていたことは知らなかった。ニュースはそのことを伝えるもので、彼らを信用していいのか?という言葉で結ばれていた。真珠湾攻撃後とのことで、この時期のアメリカの敵は明白に日本だったのだから、日本や日本人に対する憎しみの感情は分かるし、幼いペッパーが日系人が解放されたことに対する恐怖のようなものを感じているのも理解できる。そんな中、ペッパーは雑貨店で日系人の初老の男性にぶつかってしまう。怖くなった彼は兄のロンドンにそのことを告げる。兄は敵意をむき出しに男性を罵倒する。皆の敵意が辛い。
少し前後するけれど、この男性は町のはずれに住むハシモト(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)。後の会話で彼が移民一世で、数十年ここに住んでいること、妻を亡くし1人であること、日本にいる甥っ子に会いたいと思っていることが分かる。ただ、数十年も住んでいるのに、彼に好意を示す人がオリバー司祭(トム・ウィルキンソン)しかいないことがちょっと不思議ではある。確かに、強面でとっつきやすい人物ではない。でも、まるで日系人を初めて見るかのような態度だったので・・・
ペッパーは父と見ようと買っていた奇術師ベン・イーグル(ベン・チャップリン)の実演つき映画を見に行く。するとなんと、ベンの助手として念力でビンを動かす役を仰せつかる。最前列に陣取ったデブ息子がはやし立て、全員がペッパーにヤジを飛ばす状況の中、ベンが言った「できるか?」の一言が、相棒である父とのやり取りとリンクして、俄然やる気になる。奇術にはタネがあるのだから、もちろんこれは動く。見ている側は当然これはベンが動かしているのだと分かっているけど、ペッパーは自分にはベンと同じ力があるのだと思い込む。この映画のカギとも言えるのがこの"不思議なパワー"。
自分に力があると思い込んだペッパーは、なんとか父親を連れ戻すことは出来ないかと考える。そんな彼に苛立つ兄。そんな力があるわけがない。だったらあの山を動かしてみろ!と言う。両腕を前後に突き出し、うなり始めるペッパー。もちろん何も起こらない。でも、しばらく続けているとなんと地震が起きる。火山が噴火まではしなかったよね? もちろんこれは偶然。だけど、だけど偶然とも言い切れない。この感じが上手い。見ている側がどちらにとっても微笑ましく嫌な気持ちがしないし、どちらにとってもファンタジック。そして、この"不思議なパワー"はもう一度大変複雑な形で出て来る。
さて、ハシモトの存在を知った兄のロンドンは、ペッパーと共に彼の家へ。そして2人は窓ガラスを割ってしまう。この時、兄は偏平足のため坂で滑って転んでしまうのだけど。これが兄が不合格になった理由かと納得して笑える場面になっているけど、本来は笑えることじゃない。ということで、兄は牢に入れられて、ペッパーは司祭に呼び出される。ペッパーは自分には不思議な力があると主張。証拠としてベン・イーグルのショーでビンを動かしたことをあげる。司祭はもちろんそれにはネタがあることは知っていると思うけど、ペッパーの動かしたいという思いが、ビンを動かしたのだと言う。それこそが信仰であり、人を動かす力ということなのかな? 納得のいかないペッパーに司祭は一枚の古いメモ?を渡す。そのメモには5つのタスクが書かれている。1.飢えた人に食べ物を 2.家なき人に屋根を 3.囚人を励ませ 4.裸者に衣服を 5.死者の埋葬を。そこに司祭はハシモトに親切をと書き加える。このタスクを達成すれば父が戻って来るかもしれないというのだった。これはキリスト教の教えにあるのかな? キリスト教に詳しくないので、これらがどんな教えと結びついているのか不明だけど、司祭が書き加えたのは汝の敵を愛せよってことかな? もちろん、どんな人でも敬意を払われるべきだということだと思うけれど。
早速ハシモト宅を訪れるけれど、ペッパー自身も怖がっているし、ハシモトとしても迷惑。初めは拒否されてしまうけれど、そのうち受け入れてくれる。2人が仲良くなるであろうことは予測しているので、この辺りの葛藤は気にならない。とはいえ、2人の交流はハシモトの日本人特有の距離感で、表面上はそんなにフレンドリーな感じにはならない。でも、その感じがまた良かった。ペッパーはハシモトの助言を受けつつミッションをこなしていく。3.囚人を励ませは兄を励ましに行くなど、コミカルに描かれて楽しい。例の片耳従業員は2.家なき人に屋根をの部分で登場。
ハシモトから聞いた侍の話が日本人としては興味深かったのだけど、これは監督の創作なのかな? 聞いたことない名前だったし。でも、いわゆる変な日本名ではなくて、ちゃんと日本人の名前として成立してたし、再現映像もかなり頑張ってはいた。まぁ変だったけど(笑) 相変わらずデブ息子たちにいじめられているペッパー。ハシモトが窮地を救ってくれたり、この侍の話を思い出したりしつつ、ついにデブ息子をやっつける! ちょっと頑固な祖父と孫のような関係になっていく2人。ハシモトのおかげでペッパーは成長したし、妻を亡くし孤独だったハシモトにとっても大切な存在になっていく。
その間もハシモトへの嫌がらせは続いており、ますます拍車がかかっている。そんな中、ペッパーはハシモトをお茶に招く。母親は困惑しつつもペッパーの思いを汲んで招き入れてくれる。この母親の対応も感動的だった。母親は父を深く愛しており、子供たちの前では気丈に振る舞っていたけれど、夜には1人で涙していたりする。結婚記念日にはドレスアップしたりして切ない。夫に帰って来て欲しいという気持ちはペッパーと同じ。そして、幼い息子の思いをかなえてあげたいと思う。そのためには、村人たちを敵に回す覚悟で招き入れる。その感じが押しつけがましくなく描かれている。母はハシモトに敬意をもって接してくれ、品格のある気持ちのいいひと時。でも、そこに兄のロンドンが帰って来てハシモトを追い出してしまう。兄の気持ちはよく分かるけど、やっぱりこれは辛い。
一方、ペッパーは戦争が終われば父が帰って来ると考え、日本に向けて"不思議なパワー"を送り続ける。その姿は話題となる。最初は笑っていた人々も、ペッパーの姿に心打たれたりする。そしてある日、ペッパーは村中の人々から喝采されることになる。彼らが手にした新聞にはLITTLE BOYが広島に落とされたことが書かれていた。リトルボーイの不思議なパワーががLITTLE BOYを落とさせたと、本気で信じているわけではないでしょうけれど。よろこぶ彼らの顔を見て、日本人としてはとても複雑な気持ちになった。もちろん、彼らの思いは戦争が終わるという希望によるところが大きかったのでしょうけれど、広島で亡くなった人々も彼らと同じく戦争が終わることを望んでいた市井の人々だったのに・・・ ペッパーは自分が引き起こした(と思われる)ことが上手く呑み込めなかったけれど、彼らのように喜べなかった。この感じはやっぱり罪悪感だったりするのかな? 日本が反撃するであろうという会話の中で、母が言った原爆によって都市が一つ無くなったという一言が、ペッパーに悪夢を見せる。この黒焦げになった遺体の中を歩くペッパーの映像は、適度にリアルで適度に作り物っぽい。この感じに日本人としては少し救われる。前述したとおり、監督が今作を撮った理由が、LITTLE BOYにあるわけだから、この映像を見せたかったのだと思う。どちらが悪いということではなくて、核兵器根絶や反戦の強いメッセージを感じた。それを、ファンタジックに見せる感じが良かった。
その頃、父親は捕虜になっていた。捕虜を解放しょうと米軍機が攻めて来る。そのため、捕虜を射殺するよう命令が下る。慌てて逃げる捕虜たち。父は撃たれ倒れてしまう。その父の姿を物陰に隠れて見ていた別の捕虜。彼には靴がなかった。そこで場面転換。この彼が重要な役割を果たすのだろうことは予想できる。今作の中ではかなりリアルに銃撃戦などがあるシーンで迫力があった。
人々の日本に対する憎しみはハシモトに向けられる。とりわけ戦争で息子を亡くした男性は怒りを隠さない。日本人としては複雑だけれど、日本や日本人に対して憎しみを持たれることは仕方がない。その憎しみを個人に向けるべきではないと思うけれど、それはやっぱり難しいのでしょうかね。ただ、この男性と兄のロンドンがハシモトを追い出すために、家を荒らす行為は犯罪だし、ショックを受けたハシモトが心臓発作を起こしたのに、その場を立ち去った男性は人として許されるものではないと思う。兄は必死で彼を止めようとするのに振り切って帰ってしまったからね(*`д´) 兄がハシモトのために助けを呼んでくれて良かった。それはもちろんハシモトのためでもあるけど、兄が人として一線を越えずに済んで良かったと思った。
病室のハシモトを見舞うペッパー。ただ1つ実行できていないミッション。5.死者に埋葬を。ハシモトを埋葬すればミッションが完成し、父親が帰って来るかもしれない。でも、ペッパーは祈る。死なないで。兄の行動と同じく、ペッパーが人として正しい選択をしてくれて良かった。もちろん見ている側も、代わりに父が死ねばいいと思っているわけではない。善とか悪とか、敵とか味方とか、私を越えたところで、人を思う気持ち。その思いがあれば分かり合えるというメッセージなのかな? ここはとても感動した。
家族のもとには父の死の知らせが届く。ハシモトの証言により釈放された兄も、回復したハシモトも、父の埋葬に立ち会う。ハシモトを襲った男性も参列しているけど、彼はハシモトをまともに見ることが出来ない。人として正しくないことをした人は、一生その負い目を背負うことになる。ペッパーは父を失ったけれど、代わりに人の死を願うという負い目を負わすに済んだ。そして、奇跡が起きる。
父は撃たれたけれど亡くなってはいなかった。例の物陰に隠れていた捕虜が、父が亡くなったと判断し、靴を奪って逃げるも撃たれて亡くなってしまった。その遺体が履いていた靴のタグから、死者は父だとされてしまったのだった。ペッパーが父と再会し、一家が家に向かうシーンで映画は終わる。一見、いろいろミラクルが起きているように見える映画だけど、本当の奇跡は父の生還のみ。もちろん、火山の件も、リトルボーイもペッパーの不思議なパワーと考えてもいいのでしょう。どちらとも取れるように描いているのかなとも考えられる、個人的には2つは偶然であって、奇跡は1つだけと受け取ったし、そう描いていると感じた。じゃないと、5つ+1つのミッションの意味もなくなってしまうので・・・
キャストは皆良かった。エミリー・ワトソンが自身の悲しみや不安をにじませつつ、子供たちを守り愛する母親を好演。父が亡くなったと知り、ハッキリと言い寄って来る医者に、ピシャリとこれからもミセス・バズビーだと毅然と言う姿に感動。ペッパーを時に厳しく、でも優しく諭すオリバー司祭のトム・ウィルキンソンがさすがの存在感。声高に主張するわけではないけれど、正しいことをする。彼だけは正しいと感じさせて素晴らしい。優しく少年のような父のマイケル・ラパポートも良かった。
ルミナス賞新人賞を受賞したというペッパー役のジェイコブ・サルヴァーティがカワイイ。演技するのは初めてだそうで、技術的に拙い部分があったとしても、とっても自然。彼が疑問に思っていることが、そのままペッパーの疑問であるかのよう。ホントに普通の少年で美少年じゃないのも良かった。ホメてます! そして、何といってもハシモトのケイリー=ヒロユキ・タガワが素晴らしい。妻を亡くし故郷を思いながらも、自分はアメリカ人であるという強い信念。表情を変えないので得体が知れないと思われがちだけれど、その泰然とした姿は侍のよう。古き良き日本人を感じさせて素晴らしい 今作では日本人は敵。画一的に悪とは描いていない部分はあるけれど、それでも日本人=残虐な悪魔となっていなかったのは、ケイリー=ヒロユキ・タガワのハシモトのおかげ。
小さな漁村の絵ハガキのような美しさ。ちょっとおとぎ的な映像も良かった。ハシモトの家も日本的過ぎない感じや、暗い感じも良かったと思う。反戦や反核の強いメッセージを込めつつ、誰も完全な悪人としてはおらず、イジメなど重いテーマも出て来るのに、どこかコミカルでおとぎ的な語り口で、笑いながら見てしまったりする。その辺りがお見事
感想書くの遅くなっちゃったけど、まだ上映してるかな? 調べてみた! 回数は減ってるけどHTC有楽町で上映中! オススメです!
『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』Official site