'08.08.23 『アクロス・ザ・ユニバース』@シネカノン有楽町2丁目
これ見たかった。『ライオンキング』の演出家ジュリー・テイモアが監督したミュージカル映画。The Beatlesの楽曲を使い構成されている。この手の1人もしくは1BANDの楽曲をもとにミュージカル化した作品は『マンマ・ミーア!』の大ヒット以降やたらと作られた。中には良い作品もあるけど、その出来はピンキリ・・・。でも監督がジュリー・テイモアなのであれば期待大!
「リバプールの造船所で働くジュードは父を探しにアメリカに渡る。そこで知り合ったマックスと意気投合。2人でNew Yorkへ出る。シンガーのセディのアパートで、ギタリストのジョジョ、元チアリーダーのプルーデンスらと共同生活を始める。恋人をベトナム戦争で失くし、兄マックスを頼ってNew Yorkへ出てきたルーシー。彼女とジュードは恋に落ちる。何もかも新鮮で楽しい生活もマックスが徴兵されたことで変化していく・・・」という話。これはすごく良かった。ミュージカルは大好きだけど、ミュージカル映画となるとなんとなく違和感があった。上手く言えないけれど、ミュージカル部分と映画部分とがとけ込んでいない感じで、何となく入り込めない。でも、これはお互いがすばらしいクオリティーで相乗効果となっている。
ジュードがリバプールの浜辺で"Girl"を切なく歌う冒頭から引き込まれた。"Helter Skelter"にのって「彼女」のイメージが広がり、一気に"Hold Me Tight"へ。アメリカのハイスクールの体育館でプロム・ダンスを踊るルーシーと、リバプールのライブ・ハウスで踊るジュード。この対比がいい。中産階級のルーシー達は明るく健康的でいかにもアメリカという感じ。対して労働者階級のジュード。同じ造りの家が並ぶ暗く貧しい雰囲気のジュードの家がいい。このシーンだけで2人が住んでいる世界に違いがある事が分かる。だから後に2人の考え方に違いが生まれ、お互いそれを理解できずに苦しむ感じが良く分かる。とにかく見せ方が上手い。ルームシェア仲間のプルーデンスが切ない恋を歌う"I Want To Hold Your Hand"のシーン。彼女が思う人は実は初めにそれと見せていた人物とは違うということを、目線だけで見せる感じがいい。そういう細かくさりげない、でも映像ならでわの見せ方が上手い。説明過多ではないのに、その人物の思いやバックグラウンドまで伝わる見せ方は大好き。
テーマは大きく2つ。主人公達の成長と反戦。ルーシーはいきなり恋人をベトナム戦争で失ってしまう。マックスは徴兵され負傷して戻ってくるが、一時錯乱してしまう。ジュードは私生児。ようやく探しだした父親に拒絶されないまでも、歓迎はされない。ジョジョは自由を求める黒人達の暴動で弟を亡くす。と実はかなり重い。だけど、それらを語る楽曲と映像が美しい。The Beatlesは好きだけど、特別ファンではない。曲は好きだけど歌詞の意味まで考えたことはなかった。第一歌詞カードと対訳がなければ英語の歌詞なんて分からない(笑) でも、どのシーンも取ってつけたようではなく、楽曲自体が主人公達の気持ちを的確に語っている。
どのシーンも印象的で見どころ。プルーデンスが歌う"I Want To Hold Your Hand"はとっても明るく楽しい曲というイメージだったけど、彼女が思う相手が分かった途端、切ないラブソングに変わる。ベトナム戦争に行く大義が見つけられないマックスの徴兵検査で流れる"I Want You(She’s So Heavy)"もいい。このシーンはシュールで映像がすごく良かった。巨大なポスターの中のアンクル・サムがマックスにI Want Youと歌いかけた後に続く検査シーンがいい。そしてマックス達が自由の女神を背負ってShe’s So Heavyと歌うシーンがすばらしい! それは重かろうと(笑) ジュードとマックスが出会う"With A Little Help From My Friends"は楽しい。そして、デトロイトの暴動でジョジョの弟が歌う"Let It Be"が悲しい。ジョジョの弟の貧しい葬儀と、英雄として亡くなったルーシーの恋人の立派な葬儀との対比がいい。それだけでいろいろな思いが伝わる。
この対比は前にも書いた冒頭のダンス・シーンでのジュードとルーシーとの対比にも言えること。アメリカが最も豊かだった頃の、いわゆるアッパーミドルクラスと思われるルーシーと元カレ。その姿はいかにもアメリカ的健全さ。疑うことを知らない明るさを感じる。真っ直ぐな彼らの姿はまぶしいばかりだけど正直つまらない。失礼だけど(笑) ジュードは私生児として生まれた。初めから父親はいない。自由の国アメリカと違い階級社会のイギリスでは労働者階級は一生労働者という思いが強かったと思う。だからジュードには「世界を変えられる」なんて夢は見れない。自分の内側に沸き上がった衝動に素直に反応できるルーシーとは違う。何かをしなければと行動できる人はスゴイと思うし、うらやましくも思う。ルーシー達の行動は暴力に走るところは共感できないけれど、主張は正しいと思うし、そういう人々の行動がベトナムからの撤退に一役買ったことは間違いないと思う。でも、私はジュードに共感していた。一見、ルーシーに自分の彼女でいてくれることしか求めていない身勝手な男に見える。でも、いつもわりと自分の感情を表さないタイプの彼が、めずらしく激昂して歌う"Revolution"がいい! この歌詞に彼の思いが詰まっている。この歌詞の訳はすばらしいと思う。映画の中でこのシーンが一番印象に残った。
ルーシーの気持ちはよく分かる。10代で恋人の死を体験した。その同じ戦場に今度は兄も行かなくてはならない。あんな思いはしたくない。それはジュードも理解している。もちろんジュードも親友を戦争に行かせたくはない。ジュードが自分の怒りをぶちまけたのはルーシー達の組織のリーダーと彼女のある行動から。彼女を組織に取られた思いもあっただろうし、彼女が心酔するリーダーに対する嫉妬もあったと思う。そんな2人が彼らの部屋にテレビを持ち込む「これで反戦の気持ちを高めろ」と言うリーダーに怒るジュード。彼にとってこの暮らしは初めて自分で掴んだもので、自分の居場所だった。そこへ自分達の思想を一方的に持ち込んだのだ。それは侵害。でも、このリーダーはジュードが彼らの活動拠点に乗り込み彼の思想を語ることは許さない。「サイテーの男だ」と吐き捨てるけれど、横暴なのはどちらか。リーダーならば他人の思想も聞けよ。それがとんでもない屁理屈やスジの通らないたわ言なんじゃなければ。そういう全部が"Revolution"に込められていたと思う。
ジュードのジム・スタージェスが良かった。シャイでその生い立ちから「諦める」という大人になる過程がやや人より早かった感じを上手く表現していたと思う。彼の中では整理がついていないけど、ルーシーの行動は理解できていたし、その活動組織に「自分達だけが正しい」というおごりがあることも分かってたんじゃないかと思わせる。それくらい"Revolution"が良かった。ルーシーのエヴァン・レイチェル・ウッドもいい。特別苦労もなく真っ直ぐ育ってきた若い娘特有の正義感。でもそれを愛する人に分かって欲しいと思う気持ちは伝わる。だから無謀な行動に走る厄介な娘にはなっていない。私生活ではマリリン・マンソンの彼女だそうでビックリ(笑) マックスのジョー・アンダーソンも良かった。責任ある事や真面目に生きることを避けてきた彼が、ベトナムを経験し傷つき、大人の男になって友を思い歌う"Hey Jude"がいい。プルーデンスのT.V.カピオの声がいい。ジョジョのマーティン・ルーサー・マッコイ(本名らしい。もちろんキング牧師にちなんで命名)も良かった。そしてセディのデイナ・ヒュークスがかっこいい! みんなのアネゴ的な存在の彼女も、夢と恋そして現実との間で悩み傷つく。それらを受け止める感じがいい。
キャスト達は全員吹き替えなしで歌っている。みんな上手い。実はほとんどが撮影と同録のライブ音源だそう。役者達が同じテンションで歌っているから、セリフとの間に違和感がない。カメオ出演も豪華。サルマ・ハエックがあんな役で!とも思うけど、彼女が体現するテーマを考えると、無名の色っぽいだけのおネエちゃんではインパクトに欠けるかも。そしてU2のボノがさすがの歌声を披露。バカ衣装で登場(笑) 彼が歌う"I Am The Walrus"から"Being For The Benefit Of Mr.Kite!"までは映像もサイケ。当時のフラワーチルドレンとか、カウンター・カルチャーとかカルト教団なんかの感じを表していて面白い。よくは知らないけど(笑) ボノはエンドロールに流れる"Lucy In The Sky With Diamond"も歌っている。そして"Come Together"のジョー・コッカー! 3役で出演しているのでお楽しみに(笑) 私は3番目1番目が1番好き。スゲーかっこよかった。
New Yorkが舞台なのもいい。セディはよくわからないけど、みな別の場所からやって来た。それは移民の国アメリカを象徴しているんだと思う。その物語を紡ぐのがThe Beatlesというのもいい。彼らの曲にはどこか切なさや、いい意味でちょっとひねくれた感じがあると思う。個人的にあまりに開放的な明るさは疲れるし(笑) 曲の持っている力を感じた。歌詞はほぼそのままなのに、意外な場面で使われることによって違った顔を見せることにもビックリ。
ファンだったらニヤリとするオマージュ・シーンが満載らしい。例えば主人公達の名前。私はJudeくらしかピンとこなかったけど、曲が流れてニヤリ。"Strawberry Fields Forever"をジュードが歌う意味なんかはStrawberry Fieldsが本当はイチゴ畑のことではない事を知っていればより心にしみる。これはかろうじて知っていたので切なかった。たぶんジュード=ジョンなのだろうし・・・。このシーンの映像も好き。屋上での"All You Need Is Love"のシーンもオマージュ。このシーンはややベタだけどいい。マックスがここで歌うShe Loves You YEH YEHは、オリジナルの"All You Need Is Love"でポールがワンフレーズ歌ったとおり。このラストは映像と合っていて美しくて大好き。
The Beatlesネタ以外にもたくさんのニヤリポイントがある。個人的にはセディのジャニス、ジョジョのジミヘンな感じと、カッツ・デリカテッセンが出てきたのがうれしかった。The Beatlesとの関係は分からないけど、いろんな映画に登場する有名なお店。New Yorkに行った時行きたかったけど、夜は少々危険な地区とのことでやめてしまった・・・。まぁ、それはいいとして! 訳詞もビートルズファンの方と共訳したと思われるクレジットが出ていたけど、すごく良かったと思う。ファンの人が見ても満足できると思う。とにかく次々書きたい事が出てきて止まらない(笑) 映像がサイケでポップでいい。リバプールのどんより暗い感じも好き。エンドロールの文字のグラデーションも好き。あ!! 重大なことを忘れていた。冒頭ジュードと元カノが踊るシーンのライブ・ハウスはあのCAVERN CLUB!
ファンじゃなくても楽しめる優れた青春映画だと思う。10~20代で生き方に悩んでいる人は見たらいいと思う。ジュードとルーシーはタイプが違うだけで行き着いたところは同じ。ルーシーは闘って、ジュードは受入れて折り合いをつけた。結局、世の中の自分の思い通りにはならないことはたくさんある。だから自分以外の世界も受入れなくては。そして自分の居場所はただ探しているだけでは見つからない。人に与えられるものではなく自分で築くものだから。2人はそれぞれ自分と向き合い成長した。それは他の登場人物も同じ。そういうのが押し付けがましくなく、きちんと伝わった。
とにかくオススメ! すばらしい!
『アクロス・ザ・ユニバース』Official site
これ見たかった。『ライオンキング』の演出家ジュリー・テイモアが監督したミュージカル映画。The Beatlesの楽曲を使い構成されている。この手の1人もしくは1BANDの楽曲をもとにミュージカル化した作品は『マンマ・ミーア!』の大ヒット以降やたらと作られた。中には良い作品もあるけど、その出来はピンキリ・・・。でも監督がジュリー・テイモアなのであれば期待大!
「リバプールの造船所で働くジュードは父を探しにアメリカに渡る。そこで知り合ったマックスと意気投合。2人でNew Yorkへ出る。シンガーのセディのアパートで、ギタリストのジョジョ、元チアリーダーのプルーデンスらと共同生活を始める。恋人をベトナム戦争で失くし、兄マックスを頼ってNew Yorkへ出てきたルーシー。彼女とジュードは恋に落ちる。何もかも新鮮で楽しい生活もマックスが徴兵されたことで変化していく・・・」という話。これはすごく良かった。ミュージカルは大好きだけど、ミュージカル映画となるとなんとなく違和感があった。上手く言えないけれど、ミュージカル部分と映画部分とがとけ込んでいない感じで、何となく入り込めない。でも、これはお互いがすばらしいクオリティーで相乗効果となっている。
ジュードがリバプールの浜辺で"Girl"を切なく歌う冒頭から引き込まれた。"Helter Skelter"にのって「彼女」のイメージが広がり、一気に"Hold Me Tight"へ。アメリカのハイスクールの体育館でプロム・ダンスを踊るルーシーと、リバプールのライブ・ハウスで踊るジュード。この対比がいい。中産階級のルーシー達は明るく健康的でいかにもアメリカという感じ。対して労働者階級のジュード。同じ造りの家が並ぶ暗く貧しい雰囲気のジュードの家がいい。このシーンだけで2人が住んでいる世界に違いがある事が分かる。だから後に2人の考え方に違いが生まれ、お互いそれを理解できずに苦しむ感じが良く分かる。とにかく見せ方が上手い。ルームシェア仲間のプルーデンスが切ない恋を歌う"I Want To Hold Your Hand"のシーン。彼女が思う人は実は初めにそれと見せていた人物とは違うということを、目線だけで見せる感じがいい。そういう細かくさりげない、でも映像ならでわの見せ方が上手い。説明過多ではないのに、その人物の思いやバックグラウンドまで伝わる見せ方は大好き。
テーマは大きく2つ。主人公達の成長と反戦。ルーシーはいきなり恋人をベトナム戦争で失ってしまう。マックスは徴兵され負傷して戻ってくるが、一時錯乱してしまう。ジュードは私生児。ようやく探しだした父親に拒絶されないまでも、歓迎はされない。ジョジョは自由を求める黒人達の暴動で弟を亡くす。と実はかなり重い。だけど、それらを語る楽曲と映像が美しい。The Beatlesは好きだけど、特別ファンではない。曲は好きだけど歌詞の意味まで考えたことはなかった。第一歌詞カードと対訳がなければ英語の歌詞なんて分からない(笑) でも、どのシーンも取ってつけたようではなく、楽曲自体が主人公達の気持ちを的確に語っている。
どのシーンも印象的で見どころ。プルーデンスが歌う"I Want To Hold Your Hand"はとっても明るく楽しい曲というイメージだったけど、彼女が思う相手が分かった途端、切ないラブソングに変わる。ベトナム戦争に行く大義が見つけられないマックスの徴兵検査で流れる"I Want You(She’s So Heavy)"もいい。このシーンはシュールで映像がすごく良かった。巨大なポスターの中のアンクル・サムがマックスにI Want Youと歌いかけた後に続く検査シーンがいい。そしてマックス達が自由の女神を背負ってShe’s So Heavyと歌うシーンがすばらしい! それは重かろうと(笑) ジュードとマックスが出会う"With A Little Help From My Friends"は楽しい。そして、デトロイトの暴動でジョジョの弟が歌う"Let It Be"が悲しい。ジョジョの弟の貧しい葬儀と、英雄として亡くなったルーシーの恋人の立派な葬儀との対比がいい。それだけでいろいろな思いが伝わる。
この対比は前にも書いた冒頭のダンス・シーンでのジュードとルーシーとの対比にも言えること。アメリカが最も豊かだった頃の、いわゆるアッパーミドルクラスと思われるルーシーと元カレ。その姿はいかにもアメリカ的健全さ。疑うことを知らない明るさを感じる。真っ直ぐな彼らの姿はまぶしいばかりだけど正直つまらない。失礼だけど(笑) ジュードは私生児として生まれた。初めから父親はいない。自由の国アメリカと違い階級社会のイギリスでは労働者階級は一生労働者という思いが強かったと思う。だからジュードには「世界を変えられる」なんて夢は見れない。自分の内側に沸き上がった衝動に素直に反応できるルーシーとは違う。何かをしなければと行動できる人はスゴイと思うし、うらやましくも思う。ルーシー達の行動は暴力に走るところは共感できないけれど、主張は正しいと思うし、そういう人々の行動がベトナムからの撤退に一役買ったことは間違いないと思う。でも、私はジュードに共感していた。一見、ルーシーに自分の彼女でいてくれることしか求めていない身勝手な男に見える。でも、いつもわりと自分の感情を表さないタイプの彼が、めずらしく激昂して歌う"Revolution"がいい! この歌詞に彼の思いが詰まっている。この歌詞の訳はすばらしいと思う。映画の中でこのシーンが一番印象に残った。
ルーシーの気持ちはよく分かる。10代で恋人の死を体験した。その同じ戦場に今度は兄も行かなくてはならない。あんな思いはしたくない。それはジュードも理解している。もちろんジュードも親友を戦争に行かせたくはない。ジュードが自分の怒りをぶちまけたのはルーシー達の組織のリーダーと彼女のある行動から。彼女を組織に取られた思いもあっただろうし、彼女が心酔するリーダーに対する嫉妬もあったと思う。そんな2人が彼らの部屋にテレビを持ち込む「これで反戦の気持ちを高めろ」と言うリーダーに怒るジュード。彼にとってこの暮らしは初めて自分で掴んだもので、自分の居場所だった。そこへ自分達の思想を一方的に持ち込んだのだ。それは侵害。でも、このリーダーはジュードが彼らの活動拠点に乗り込み彼の思想を語ることは許さない。「サイテーの男だ」と吐き捨てるけれど、横暴なのはどちらか。リーダーならば他人の思想も聞けよ。それがとんでもない屁理屈やスジの通らないたわ言なんじゃなければ。そういう全部が"Revolution"に込められていたと思う。
ジュードのジム・スタージェスが良かった。シャイでその生い立ちから「諦める」という大人になる過程がやや人より早かった感じを上手く表現していたと思う。彼の中では整理がついていないけど、ルーシーの行動は理解できていたし、その活動組織に「自分達だけが正しい」というおごりがあることも分かってたんじゃないかと思わせる。それくらい"Revolution"が良かった。ルーシーのエヴァン・レイチェル・ウッドもいい。特別苦労もなく真っ直ぐ育ってきた若い娘特有の正義感。でもそれを愛する人に分かって欲しいと思う気持ちは伝わる。だから無謀な行動に走る厄介な娘にはなっていない。私生活ではマリリン・マンソンの彼女だそうでビックリ(笑) マックスのジョー・アンダーソンも良かった。責任ある事や真面目に生きることを避けてきた彼が、ベトナムを経験し傷つき、大人の男になって友を思い歌う"Hey Jude"がいい。プルーデンスのT.V.カピオの声がいい。ジョジョのマーティン・ルーサー・マッコイ(本名らしい。もちろんキング牧師にちなんで命名)も良かった。そしてセディのデイナ・ヒュークスがかっこいい! みんなのアネゴ的な存在の彼女も、夢と恋そして現実との間で悩み傷つく。それらを受け止める感じがいい。
キャスト達は全員吹き替えなしで歌っている。みんな上手い。実はほとんどが撮影と同録のライブ音源だそう。役者達が同じテンションで歌っているから、セリフとの間に違和感がない。カメオ出演も豪華。サルマ・ハエックがあんな役で!とも思うけど、彼女が体現するテーマを考えると、無名の色っぽいだけのおネエちゃんではインパクトに欠けるかも。そしてU2のボノがさすがの歌声を披露。バカ衣装で登場(笑) 彼が歌う"I Am The Walrus"から"Being For The Benefit Of Mr.Kite!"までは映像もサイケ。当時のフラワーチルドレンとか、カウンター・カルチャーとかカルト教団なんかの感じを表していて面白い。よくは知らないけど(笑) ボノはエンドロールに流れる"Lucy In The Sky With Diamond"も歌っている。そして"Come Together"のジョー・コッカー! 3役で出演しているのでお楽しみに(笑) 私は
New Yorkが舞台なのもいい。セディはよくわからないけど、みな別の場所からやって来た。それは移民の国アメリカを象徴しているんだと思う。その物語を紡ぐのがThe Beatlesというのもいい。彼らの曲にはどこか切なさや、いい意味でちょっとひねくれた感じがあると思う。個人的にあまりに開放的な明るさは疲れるし(笑) 曲の持っている力を感じた。歌詞はほぼそのままなのに、意外な場面で使われることによって違った顔を見せることにもビックリ。
ファンだったらニヤリとするオマージュ・シーンが満載らしい。例えば主人公達の名前。私はJudeくらしかピンとこなかったけど、曲が流れてニヤリ。"Strawberry Fields Forever"をジュードが歌う意味なんかはStrawberry Fieldsが本当はイチゴ畑のことではない事を知っていればより心にしみる。これはかろうじて知っていたので切なかった。たぶんジュード=ジョンなのだろうし・・・。このシーンの映像も好き。屋上での"All You Need Is Love"のシーンもオマージュ。このシーンはややベタだけどいい。マックスがここで歌うShe Loves You YEH YEHは、オリジナルの"All You Need Is Love"でポールがワンフレーズ歌ったとおり。このラストは映像と合っていて美しくて大好き。
The Beatlesネタ以外にもたくさんのニヤリポイントがある。個人的にはセディのジャニス、ジョジョのジミヘンな感じと、カッツ・デリカテッセンが出てきたのがうれしかった。The Beatlesとの関係は分からないけど、いろんな映画に登場する有名なお店。New Yorkに行った時行きたかったけど、夜は少々危険な地区とのことでやめてしまった・・・。まぁ、それはいいとして! 訳詞もビートルズファンの方と共訳したと思われるクレジットが出ていたけど、すごく良かったと思う。ファンの人が見ても満足できると思う。とにかく次々書きたい事が出てきて止まらない(笑) 映像がサイケでポップでいい。リバプールのどんより暗い感じも好き。エンドロールの文字のグラデーションも好き。あ!! 重大なことを忘れていた。冒頭ジュードと元カノが踊るシーンのライブ・ハウスはあのCAVERN CLUB!
ファンじゃなくても楽しめる優れた青春映画だと思う。10~20代で生き方に悩んでいる人は見たらいいと思う。ジュードとルーシーはタイプが違うだけで行き着いたところは同じ。ルーシーは闘って、ジュードは受入れて折り合いをつけた。結局、世の中の自分の思い通りにはならないことはたくさんある。だから自分以外の世界も受入れなくては。そして自分の居場所はただ探しているだけでは見つからない。人に与えられるものではなく自分で築くものだから。2人はそれぞれ自分と向き合い成長した。それは他の登場人物も同じ。そういうのが押し付けがましくなく、きちんと伝わった。
とにかくオススメ! すばらしい!
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