'08.04.19 『つぐない』@テアトルタイムズスクエア
「第二次大戦中のイギリス。政府高官の娘ブライオニーは小説を書くのが好きな夢見がちな少女。家政婦の息子ロビーと密かに愛し合う美しい姉セシーリア。ブライオニーは2人の仲を衝撃的な形で知ってしまう。そして彼女がついた哀しい嘘が3人の運命を大きく変えていく・・・」という話。これは重く辛い。でも切なく美しい。
とにかく映像が美しい。言葉にできない気持ちや心の揺れを映像で表現するのが上手い。ブライオニーが自作の演劇の脚本を書き上げ母親に見せに行くところから始まる。美しい花柄の壁紙に趣味の良い調度類。短めの金髪を横わけにしてきちんとピンで留め、真っ白なワンピースを着たブライオニーが、自室を出て広く重厚な屋敷内を正しい姿勢で歩いて行く。角に来ると直角に曲がる。躾の良さと同時に、彼女の生真面目さや潔癖さを感じる。同時に、彼女がこの大きな家で感じているであろう孤独と居場所のなさも感じる。
母親も姉も優しく接してくれはするけれど、彼女をあくまで子供として扱う。13歳の彼女は思春期で中途半端な年齢。母親に甘えたくもあり、一人前の人間として扱って欲しくもあり。自分で自分の気持ちが分からないし、コントロールできない時期。イギリスの良家の子女は学校には通わず、家庭教師の指導を受けるという習慣があったらしい。第2次大戦中のこの頃までその風習があったのかはよく分からないけど、同じ年頃の友達がいるようには見えない。感受性豊かな彼女が大人ばかりに囲まれているのはかわいそうに感じる。しかも、両親が離婚するため預けられたいとこたちとも感性が合わない。双子の少年達は幼く、彼女より1~2歳年上に見えるローラは早熟で色気づいているけれど、内面の繊細さのない俗物。ブライオニーの居心地の悪さは理解できる。自分と感性が合わない人物と「子供だから」という理由でひとくくりにされる苛立ち。ローラはこの後、その早熟さと未熟さである事件を起こす。その事件がブライオニーの人生を大きく変える。
この映画の核となる物語の主人公。ブライオニーの姉セシーリアと家政婦の息子ロビーの恋愛がいい。哀しいけれど切なくて美しい。美しく才気あふれ気の強いセシーリアが魅力的。身分違いのロビーを心の底では愛しながらも素直になれず遠ざけてしまう気持ちは分かる。庭内の噴水での2人のやり取りがいい。お互い強く相手を求めながら素直になれない感じ。そのギクシャクした中で、割れた花瓶の欠片を取りに水中に潜るセシーリア。その勝気さと水に濡れて下着が体にはりつき、彼女の美しい体のラインが露になってエロティック。このシーンがロビーと偶然目撃してしまったブライオニーの心にエロティックな感覚を芽生えさせる。ロビーには甘美なものとして、ブライオニーには甘美ではあるけれど淫靡なものとして・・・。
そして事件が起きる。事件自体はローラの手首のアザという伏線から見ている側には"事件"ですらないことは分かる。事件は完全にブライオニーの中だけで起きた。お互いの気持ちを開放し激しく求め合ったセシーリアとロビー。このシーンは美しい。でも、それを目撃してしまったブライオニーは激しいショックを受ける。彼女には完全にではないけれど男女のことは分かっているはず。でも思春期特有の潔癖さで汚らわしいものと思っている部分もある。でも、自分の憧れている"恋愛"にはその行為が重要な意味を持つことが理解できない。でも、おそらく本能で知っている。だから2人の関係に嫉妬したのだ。そして嘘をつく。
その嘘がロビーを戦地に追いやってしまう。激戦の後、隊とはぐれてしまったロビー達は彷徨いながら様々な体験をする。そんなロビーを支えるのはあの日セシーリアが彼の耳元で搾り出すように言った「私の元に帰ってきて」という一言。2人にはあの1夜しかなかった。入隊直前、わずかな時間会った時、彼女が重ねてきた手をロビーは取ることができなかった。その彼の純情を見た時、涙が出た。男の純情。こんな風に純粋に愛されたいものだ(笑) 大学進学をやめ看護婦となったブライオニーが看取った13番の患者の「普通の夢」がリンクしていて切ない。このシーンも辛かった。描きたい主題はセシーリアとロビーの純愛とブライオニーの贖罪だけど、もう一つ戦争の悲惨さというのもある。それは十分に伝わった。その部分が強過ぎてちょっとブライオニーの贖罪の気持ちが薄れてしまった感もあるけれど、13番の患者を看取った時、より深く自分のしてしまったことの意味が突き刺さったのかもしれない。
役者たちはみな良かった。セシーリアのキーラ・ナイトレイが美しい。勝気でいつも不満気だった彼女がロビーの前でとても女性らしくなるのがいい。そして素晴らしいスタイル。背中の美しさが印象的。ロビーのジェームス・マカヴォイがいい。ロビーの傷つきやすさや純情をとてもよく表現していたと思う。哀しげで切ない表情がいい。ブライオニーは3人の女優が演じている。少女時代のシアーシャ・ローナンがいい。晩年のヴァネッサ・レッドグレーブはさすがの存在感。娘時代のロモーラ・ガライは一番難しい役どころ。見事に演じていたと思う。
映画は老女となったブライオニーの告白で終わる。彼女の行動は贖罪なのか自己満足なのか。唯一その答えとなると思われたシーンも実は真実ではないことが分かる。でも、実はこのシーンを見た時、とても違和感を感じていたのだ。このシーンが実際どこに差し込まれるものなのかが微妙なのだけど、2人のセリフや態度には納得できないものがあった。もしも自分だったらどうしただろう・・・。もし2人が無事に再会できたらブライオニーを赦しただろうか。多分、とても苦しんだと思うけど赦したと思う。何故彼女が嘘をついたのか理解できるから。
とにかく映像が美しい。装飾、衣装、戦争シーンですら美しい。とても美しく辛く切ない映画だった。こんな重い人生はイヤだなぁ・・・。でも、それは彼女が感受性豊かで潔癖だった証。だから俗物2人に贖罪の意識はない。それもまた重い。そして女は少女の頃から女なんだと改めて納得(笑) そして、これは少女が「女」として犯した罪の贖罪なのだと思う。
『つぐない』Official site
「第二次大戦中のイギリス。政府高官の娘ブライオニーは小説を書くのが好きな夢見がちな少女。家政婦の息子ロビーと密かに愛し合う美しい姉セシーリア。ブライオニーは2人の仲を衝撃的な形で知ってしまう。そして彼女がついた哀しい嘘が3人の運命を大きく変えていく・・・」という話。これは重く辛い。でも切なく美しい。
とにかく映像が美しい。言葉にできない気持ちや心の揺れを映像で表現するのが上手い。ブライオニーが自作の演劇の脚本を書き上げ母親に見せに行くところから始まる。美しい花柄の壁紙に趣味の良い調度類。短めの金髪を横わけにしてきちんとピンで留め、真っ白なワンピースを着たブライオニーが、自室を出て広く重厚な屋敷内を正しい姿勢で歩いて行く。角に来ると直角に曲がる。躾の良さと同時に、彼女の生真面目さや潔癖さを感じる。同時に、彼女がこの大きな家で感じているであろう孤独と居場所のなさも感じる。
母親も姉も優しく接してくれはするけれど、彼女をあくまで子供として扱う。13歳の彼女は思春期で中途半端な年齢。母親に甘えたくもあり、一人前の人間として扱って欲しくもあり。自分で自分の気持ちが分からないし、コントロールできない時期。イギリスの良家の子女は学校には通わず、家庭教師の指導を受けるという習慣があったらしい。第2次大戦中のこの頃までその風習があったのかはよく分からないけど、同じ年頃の友達がいるようには見えない。感受性豊かな彼女が大人ばかりに囲まれているのはかわいそうに感じる。しかも、両親が離婚するため預けられたいとこたちとも感性が合わない。双子の少年達は幼く、彼女より1~2歳年上に見えるローラは早熟で色気づいているけれど、内面の繊細さのない俗物。ブライオニーの居心地の悪さは理解できる。自分と感性が合わない人物と「子供だから」という理由でひとくくりにされる苛立ち。ローラはこの後、その早熟さと未熟さである事件を起こす。その事件がブライオニーの人生を大きく変える。
この映画の核となる物語の主人公。ブライオニーの姉セシーリアと家政婦の息子ロビーの恋愛がいい。哀しいけれど切なくて美しい。美しく才気あふれ気の強いセシーリアが魅力的。身分違いのロビーを心の底では愛しながらも素直になれず遠ざけてしまう気持ちは分かる。庭内の噴水での2人のやり取りがいい。お互い強く相手を求めながら素直になれない感じ。そのギクシャクした中で、割れた花瓶の欠片を取りに水中に潜るセシーリア。その勝気さと水に濡れて下着が体にはりつき、彼女の美しい体のラインが露になってエロティック。このシーンがロビーと偶然目撃してしまったブライオニーの心にエロティックな感覚を芽生えさせる。ロビーには甘美なものとして、ブライオニーには甘美ではあるけれど淫靡なものとして・・・。
そして事件が起きる。事件自体はローラの手首のアザという伏線から見ている側には"事件"ですらないことは分かる。事件は完全にブライオニーの中だけで起きた。お互いの気持ちを開放し激しく求め合ったセシーリアとロビー。このシーンは美しい。でも、それを目撃してしまったブライオニーは激しいショックを受ける。彼女には完全にではないけれど男女のことは分かっているはず。でも思春期特有の潔癖さで汚らわしいものと思っている部分もある。でも、自分の憧れている"恋愛"にはその行為が重要な意味を持つことが理解できない。でも、おそらく本能で知っている。だから2人の関係に嫉妬したのだ。そして嘘をつく。
その嘘がロビーを戦地に追いやってしまう。激戦の後、隊とはぐれてしまったロビー達は彷徨いながら様々な体験をする。そんなロビーを支えるのはあの日セシーリアが彼の耳元で搾り出すように言った「私の元に帰ってきて」という一言。2人にはあの1夜しかなかった。入隊直前、わずかな時間会った時、彼女が重ねてきた手をロビーは取ることができなかった。その彼の純情を見た時、涙が出た。男の純情。こんな風に純粋に愛されたいものだ(笑) 大学進学をやめ看護婦となったブライオニーが看取った13番の患者の「普通の夢」がリンクしていて切ない。このシーンも辛かった。描きたい主題はセシーリアとロビーの純愛とブライオニーの贖罪だけど、もう一つ戦争の悲惨さというのもある。それは十分に伝わった。その部分が強過ぎてちょっとブライオニーの贖罪の気持ちが薄れてしまった感もあるけれど、13番の患者を看取った時、より深く自分のしてしまったことの意味が突き刺さったのかもしれない。
役者たちはみな良かった。セシーリアのキーラ・ナイトレイが美しい。勝気でいつも不満気だった彼女がロビーの前でとても女性らしくなるのがいい。そして素晴らしいスタイル。背中の美しさが印象的。ロビーのジェームス・マカヴォイがいい。ロビーの傷つきやすさや純情をとてもよく表現していたと思う。哀しげで切ない表情がいい。ブライオニーは3人の女優が演じている。少女時代のシアーシャ・ローナンがいい。晩年のヴァネッサ・レッドグレーブはさすがの存在感。娘時代のロモーラ・ガライは一番難しい役どころ。見事に演じていたと思う。
映画は老女となったブライオニーの告白で終わる。彼女の行動は贖罪なのか自己満足なのか。唯一その答えとなると思われたシーンも実は真実ではないことが分かる。でも、実はこのシーンを見た時、とても違和感を感じていたのだ。このシーンが実際どこに差し込まれるものなのかが微妙なのだけど、2人のセリフや態度には納得できないものがあった。もしも自分だったらどうしただろう・・・。もし2人が無事に再会できたらブライオニーを赦しただろうか。多分、とても苦しんだと思うけど赦したと思う。何故彼女が嘘をついたのか理解できるから。
とにかく映像が美しい。装飾、衣装、戦争シーンですら美しい。とても美しく辛く切ない映画だった。こんな重い人生はイヤだなぁ・・・。でも、それは彼女が感受性豊かで潔癖だった証。だから俗物2人に贖罪の意識はない。それもまた重い。そして女は少女の頃から女なんだと改めて納得(笑) そして、これは少女が「女」として犯した罪の贖罪なのだと思う。
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