'08.11.22 「ボストン美術館 浮世絵名品展」@江戸東京博物館
これは見たかった。毎月恒例の砂風呂Pasir Putihの日。いつも一緒に行ってるbaruとFちゃんがダメになってしまいお一人様での入浴となった。江戸東京博物館は土曜日のみ19:30まで開館。帰りに寄ってみることにした。
多くの日本美術のコレクションを誇るボストン美術館。その数なんと5万点! その最大の功労者はスポルディング兄弟。彼らはその潤沢な資金をもとに、あのフランク・ロイド・ライトの指導のもと浮世絵を中心に収集。その数は約6,500点にのぼる。彼らの「決して展示公開しないように」との遺言により保管されている作品は、素晴らしい保存状態で当時の色を守っているのだそう。これはNHKの番組で紹介されていた。今回は同じく日本美術に魅せられたウィリアム・スタージス・ビゲローのコレクションを中心にした展覧会。こちらも保存状態がいい。錦絵(浮世絵木版画)の初期から幕末の北斎、広重の時代までを4つの章に分けて展示。その時代に描かれた肉筆画なども併せて公開されている。
【第1章 浮世絵初期の大家たち】
初期の作品は墨と紅のみで描かれている。遊女や役者絵が多い。墨と紅だけでは表現できるものも限られていたのかもしれない。面白かったのは西村重長の「げんじ五十四まいのうち 第十八番 げんじ松風」これは貼り付け箱絵と呼ばれるものだそうで、あまり大きな作品ではない。明石の君と明石の尼君が屋敷の内で佇む姿を描いたもので、絵の周りに吹絵という型抜きで描かれた花模様がかわいらしい。
【第2章 春信様式の時代】
初めて多色刷りを用い、錦絵の一大ブームを巻き起こし、春信様式を確立した鈴木春信。登場してから亡くなるまでの約5年間に大きな功績を残した。春信は大好き。女性が何とも愛らしい。線の細い柳腰で、庶民の女性を描いても品がある。「女三の宮と猫」が素晴らしい。表情の愛らしさは相変わらず。型押しで模様を浮き出させた半襟が美しく品がいい。細かな花模様も美しい着物の紫がいい。紫は高貴を表すと聞いた事がある気がする。源氏物語に登場する女性達はたいてい好きだけど、唯一惹かれない女三の宮。年若かったとはいえ、皇女という高貴な身分でありながら、うかつにも端近に立ち、猫が御簾を捲り上げた瞬間、姿をあらわにしてしまう。その姿を見た柏木は激しい恋に落ち、2人は過ちを犯し不義の子薫が誕生する。柏木は罪の意識から病死してしまい、女三の宮も若くして出家することになる。光源氏晩年の悲劇を演出する重要人物。その考えの足りなさ、自分のなさにイラっとするけど、春信の女三の宮はそんなところも魅力に感じるほどの愛らしさ。
「水仙花」は炬燵にあたる男女の絵。ぼんやりする男の注意をひくため男の足をくすぐる女がかわいい。春信の絵は男女の区別がつきにくい。髪形にわずかな違いがあるくらいで、他の絵師と違い男性も美しく女性的に描かれている。多色刷りにより部屋の装飾や小物なども細かく表現できるようになったのだそう。「伊達虚無僧姿の男女」はわりと大きな作品。春信にしては珍しくアップ。特に男の方がいい。虚無僧姿というのは仇討ちを狙う者の姿だそうで、その美しく優しい顔立ちからは哀しさが伝わってくる。それを引き立てる黒の衣装がいい。春信はこの黒を効果的に使うことを発見したのだそう。
ここでのもう一つの見ものは磯田湖龍斎の「雛形若菜の初模様」シリーズ。百数十点にのぼる作品で、初模様とはお正月に遊女が着る着物のことだそう。それぞれ華やかで美しいけれど、顔デカ(笑)
【第3章 錦絵の黄金時代】
そして黄金時代へ。鳥居清長の美人画は美しい。清長といえば八頭身美人。「当世遊里美人合」がいい。2枚組の作品で、それぞれ3人ずつ描かれている。女性たちの表情が豊か。右側中央の女性の紫の着物が素晴らしい。当時の絵師達がずいぶん女性に紫を着せていた事が分かる。一筆斎文調という絵師のことは知らなかったけれど、「二代目市川門之助の曽我五郎と二代目市川八百蔵の曽我十郎」の、それぞれ鳥と蝶の柄の着物が素晴らしかった。
ここでの見ものは喜多川歌麿と東洲斎写楽。どちらもそんなに点数は多くないけれどさすがの迫力。歌麿の「青楼仁和嘉女芸者之部 扇売 団扇売 麦つき」がいい。仁和嘉とは毎年8月に行われていたお祭りだったかな? ちょっと失念・・・。庶民の楽しみを描いている。歌麿といえば美人画大首絵だけど、これも有名な「当時三美人」と同じ構図。それぞれ売り子の姿になっているのがかわいい。やっぱり歌麿の美人は美人! そしてかわいい。「鷹狩り行列」では全身像を描いているけれど、これは寛政12年(1800年)に大首絵が禁止されてしまったからなのだそう。「当時三美人」に描かれた町娘達が大人気となってしまい、娘たちの名前を入れることを禁じられたりと、度々そういった弾圧にあっている。個人としては辛いけれど、それだけ影響のある絵なのだと思えばすごいことだ。
そして東洲斎写楽。有名な「二代目 嵐龍蔵の金貸石部金吉」 この人物が悪役だったことは初めて知った。さすがの迫力。背景の黒が役者の顔を引き立てるけれど、この黒一色の背景を刷り上げるにはそうとうな腕の刷師でないとできないそうで、さらに高級品である雲母(キラ)を使用している事からも、版元が写楽にかける期待が伺われるのだそう。しかし「二代目 瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木」もそうだけれど、エラの張りぐあいや小さな目をあえて強調して描く、その感じはおもしろい。
【下絵・肉筆・版本】
第4章の前に下絵、肉筆、版本をご紹介。これは特別にコーナーを設けてあるわけではなく、各章にそれぞれ展示されている。歌川広重の下絵がいいけれど、心惹かれたのは4点。まずは勝川春章の「三十六歌仙」後姿の女性は小野小町かな? そのなまめかしい後姿は美しく、重ねた十二単の着物が素晴らしい。勝川春章は北斎が勝川春朗と名乗っていた頃の師匠で、似顔絵師と呼ばれていたそうだけど、この絵に顔は描かれていない(笑) 喜多川歌麿の「画本虫撰」が素晴らしい! へちまと虫を描いているけれど、それぞれの描写が素晴らしく、へちまの花の黄色が利いている。並んで展示してあった「潮干のつと」の貝と海藻も素晴らしい。これは歌麿には珍しい風景画が収められているそう。歌麿といえば美人画だと思っていたけれど、さすがの画力に感動。そして葛飾北斎の「冨嶽百景」 これは北斎自ら監修した版本。あとがきに自信のほどが書かれているそうだけれど、各絵ごとに彫師を指定し、欄外にその名前を記載するほどのこだわりようは見事で、展示されていたページに描かれていた鶏はさすが! これはすばらしい。墨一色で印刷された鶏の羽根の一枚一枚まで表現され、今にも動き出しそうな迫力。この本を出版した時、北斎は75才。疲れたなんて言ってられないな(笑)
【第4章 幕末のビックネームたち】
ここでは何と言っても葛飾北斎と歌川広重でしょう。ということで2人の事は後ほど。展示の順番としては最後になるけれど歌川国芳の「鬼若丸の鯉退治」の鯉の迫力がスゴイ。どんだけデカイんだよと思うけれど(笑) そして幻の天才絵師と言われる歌川国政。芝居好きで役者の大首絵に才能を発揮。同じ役者を描いても写楽とは全く違った表情を切りとっている。生き生きとした描写もさることながら「市川蝦蔵の暫」の構図は今で言うポスターという感じ。斬新で全く古くない。グラフィック・デザインのよう。暫は江戸のヒーローで、困っている人がいると「暫!」と駆けつけて問題を解決していくのだそうで、歯を食いしばった横顔の迫力は素晴らしく、右側から斜めに描かれた四角の紋の袖は画面の3分の1を占めている。これは斬新で面白い。でも、彼が絵師として輝いたのはデビューして1年半ほど。時代の流れで売れるものをとの版元の要求に応えるうち、当初の輝きは失われてしまったのだそう。いつの時代もそうだけれど、売れるものとやりたい事が相容れないのは切ない。
北斎はやはり違う。上手く言えないけれど絵からオーラを感じる。遠くから見ても絵に惹きつけられる。やはり「冨嶽三十六景 山下白雨」が素晴らしい。有名な「凱風快晴」と同じ構図の赤富士だけど、ここでは白雨=にわか雨を表現していて右下には雷が描かれている。富士の美しい姿と雷が印象的。空の藍のぼかしもいい。「桔梗にとんぼ」も好き。繊細かつ大胆に配置された桔梗の描写が素晴らしく、花の紫は品がいい。その桔梗に向かって近づくとんぼの赤が画を引き締めている。羽根が少しちぎれているのが完璧すぎる絵の抜きになっているように思う。「雪松に鶴」がいい。うねった松の木を画面の中央に描き、その上に2羽の鶴を配置。鶴の羽根の描写も素晴らしいけれど、手前の鶴の羽根の青と、奥の鶴のくちばしの青がいいアクセントとなっている。わずかに空いた左の余白に墨のぼかしがほどこされているのがいい。
歌川広重の「五拾三次」シリーズ「油井 薩埵峰」「丸子 名物茶店」「庄野 白雨」が素晴らしい。「五拾三次」シリーズは今まで何度か見ているけれど、色の鮮やかさにビックリ! こんなに鮮やかだったとは・・・。特にベロ藍の鮮やかさがすばらしい。歌麿がこれを好んで多用していた事が分かる。「丸子 名物茶屋」には弥次喜多が描かれている。これは初刷りなのだそうで、「庄野 白雨」も傘に書かれた”竹のうち”という版元の名前から初刷りだと分かるのだそう。実は歌麿は風景画家として相当の自信を持っていたそうで、北斎に対しても尊敬と同時にライバル心を持っていたのだそう。でも、国政と同様に版元からの色の変更や、人物の書き加えなどの注文に傷つき、風景は描かないと宣言したのだそう。でも、ペリー来航により警備を強化するため砲台を設置するなど、江戸の風景が失われていくことを嘆いた広重は、後に「名所江戸百景」シリーズを描くことになる。そのシリーズの一枚「深川木場」は雪景色の木場を描く。絵の中央に縦に描かれた川の藍が利いている。その藍が凍った水の冷たさを感じさせる。
そして本日の一枚! 「両国花火」が素晴らしい。画面半分よりやや下に隅田川を描き、そこに掛けられた両国の大橋の上にはたくさんの人がシルエットで描かれている。川にはたくさんの屋形船。画面中央に川から打ち上げられた花火の軌道を描き、右上に花火が配置されている。星型とも花形とも見える花火の表現がかわいい。空の墨のぼかしと、川の藍のぼかしの対比が素晴らしいけれど、空のぼかしが入っているのは初刷りの証しとのことで、後の版では省略されているのだそう。空のぼかし部分には木目まで見えてこれは素晴らしい! 橋の欄干や柱、その上の人物達、船頭の躍動感、屋形船の賑わい、何一つ手を抜いていない見事な仕上がり。同時にこのぼかしの表現は彫師、刷師の腕の素晴らしさにも感服。当時江戸ではコレラが蔓延し多くの人が命を落としたことから、何か庶民に楽しみをと始められた両国の花火大会。広重はこの絵を仕上げて1ヵ月後に亡くなったのだそうで、まさに江戸庶民に捧げた渾身の一枚。この絵に惹きつけられるのは当然なのかもしれない。素晴らしい!
とにかくこれだけ多数の作品が色もほとんど褪せずに残っているのは素晴らしい。これは本当に見てよかった! 素晴らしい。
★江戸東京博物館:2008年10月7日~11月30日
「ボストン美術館 浮世絵名品展」Official site
これは見たかった。毎月恒例の砂風呂Pasir Putihの日。いつも一緒に行ってるbaruとFちゃんがダメになってしまいお一人様での入浴となった。江戸東京博物館は土曜日のみ19:30まで開館。帰りに寄ってみることにした。
![](https://yaplog.jp/cv/maru-a-gogo/img/605/img20081130_t.jpg)
【第1章 浮世絵初期の大家たち】
初期の作品は墨と紅のみで描かれている。遊女や役者絵が多い。墨と紅だけでは表現できるものも限られていたのかもしれない。面白かったのは西村重長の「げんじ五十四まいのうち 第十八番 げんじ松風」これは貼り付け箱絵と呼ばれるものだそうで、あまり大きな作品ではない。明石の君と明石の尼君が屋敷の内で佇む姿を描いたもので、絵の周りに吹絵という型抜きで描かれた花模様がかわいらしい。
【第2章 春信様式の時代】
初めて多色刷りを用い、錦絵の一大ブームを巻き起こし、春信様式を確立した鈴木春信。登場してから亡くなるまでの約5年間に大きな功績を残した。春信は大好き。女性が何とも愛らしい。線の細い柳腰で、庶民の女性を描いても品がある。「女三の宮と猫」が素晴らしい。表情の愛らしさは相変わらず。型押しで模様を浮き出させた半襟が美しく品がいい。細かな花模様も美しい着物の紫がいい。紫は高貴を表すと聞いた事がある気がする。源氏物語に登場する女性達はたいてい好きだけど、唯一惹かれない女三の宮。年若かったとはいえ、皇女という高貴な身分でありながら、うかつにも端近に立ち、猫が御簾を捲り上げた瞬間、姿をあらわにしてしまう。その姿を見た柏木は激しい恋に落ち、2人は過ちを犯し不義の子薫が誕生する。柏木は罪の意識から病死してしまい、女三の宮も若くして出家することになる。光源氏晩年の悲劇を演出する重要人物。その考えの足りなさ、自分のなさにイラっとするけど、春信の女三の宮はそんなところも魅力に感じるほどの愛らしさ。
「水仙花」は炬燵にあたる男女の絵。ぼんやりする男の注意をひくため男の足をくすぐる女がかわいい。春信の絵は男女の区別がつきにくい。髪形にわずかな違いがあるくらいで、他の絵師と違い男性も美しく女性的に描かれている。多色刷りにより部屋の装飾や小物なども細かく表現できるようになったのだそう。「伊達虚無僧姿の男女」はわりと大きな作品。春信にしては珍しくアップ。特に男の方がいい。虚無僧姿というのは仇討ちを狙う者の姿だそうで、その美しく優しい顔立ちからは哀しさが伝わってくる。それを引き立てる黒の衣装がいい。春信はこの黒を効果的に使うことを発見したのだそう。
ここでのもう一つの見ものは磯田湖龍斎の「雛形若菜の初模様」シリーズ。百数十点にのぼる作品で、初模様とはお正月に遊女が着る着物のことだそう。それぞれ華やかで美しいけれど、顔デカ(笑)
【第3章 錦絵の黄金時代】
そして黄金時代へ。鳥居清長の美人画は美しい。清長といえば八頭身美人。「当世遊里美人合」がいい。2枚組の作品で、それぞれ3人ずつ描かれている。女性たちの表情が豊か。右側中央の女性の紫の着物が素晴らしい。当時の絵師達がずいぶん女性に紫を着せていた事が分かる。一筆斎文調という絵師のことは知らなかったけれど、「二代目市川門之助の曽我五郎と二代目市川八百蔵の曽我十郎」の、それぞれ鳥と蝶の柄の着物が素晴らしかった。
ここでの見ものは喜多川歌麿と東洲斎写楽。どちらもそんなに点数は多くないけれどさすがの迫力。歌麿の「青楼仁和嘉女芸者之部 扇売 団扇売 麦つき」がいい。仁和嘉とは毎年8月に行われていたお祭りだったかな? ちょっと失念・・・。庶民の楽しみを描いている。歌麿といえば美人画大首絵だけど、これも有名な「当時三美人」と同じ構図。それぞれ売り子の姿になっているのがかわいい。やっぱり歌麿の美人は美人! そしてかわいい。「鷹狩り行列」では全身像を描いているけれど、これは寛政12年(1800年)に大首絵が禁止されてしまったからなのだそう。「当時三美人」に描かれた町娘達が大人気となってしまい、娘たちの名前を入れることを禁じられたりと、度々そういった弾圧にあっている。個人としては辛いけれど、それだけ影響のある絵なのだと思えばすごいことだ。
そして東洲斎写楽。有名な「二代目 嵐龍蔵の金貸石部金吉」 この人物が悪役だったことは初めて知った。さすがの迫力。背景の黒が役者の顔を引き立てるけれど、この黒一色の背景を刷り上げるにはそうとうな腕の刷師でないとできないそうで、さらに高級品である雲母(キラ)を使用している事からも、版元が写楽にかける期待が伺われるのだそう。しかし「二代目 瀬川富三郎の大岸蔵人妻やどり木」もそうだけれど、エラの張りぐあいや小さな目をあえて強調して描く、その感じはおもしろい。
【下絵・肉筆・版本】
第4章の前に下絵、肉筆、版本をご紹介。これは特別にコーナーを設けてあるわけではなく、各章にそれぞれ展示されている。歌川広重の下絵がいいけれど、心惹かれたのは4点。まずは勝川春章の「三十六歌仙」後姿の女性は小野小町かな? そのなまめかしい後姿は美しく、重ねた十二単の着物が素晴らしい。勝川春章は北斎が勝川春朗と名乗っていた頃の師匠で、似顔絵師と呼ばれていたそうだけど、この絵に顔は描かれていない(笑) 喜多川歌麿の「画本虫撰」が素晴らしい! へちまと虫を描いているけれど、それぞれの描写が素晴らしく、へちまの花の黄色が利いている。並んで展示してあった「潮干のつと」の貝と海藻も素晴らしい。これは歌麿には珍しい風景画が収められているそう。歌麿といえば美人画だと思っていたけれど、さすがの画力に感動。そして葛飾北斎の「冨嶽百景」 これは北斎自ら監修した版本。あとがきに自信のほどが書かれているそうだけれど、各絵ごとに彫師を指定し、欄外にその名前を記載するほどのこだわりようは見事で、展示されていたページに描かれていた鶏はさすが! これはすばらしい。墨一色で印刷された鶏の羽根の一枚一枚まで表現され、今にも動き出しそうな迫力。この本を出版した時、北斎は75才。疲れたなんて言ってられないな(笑)
【第4章 幕末のビックネームたち】
ここでは何と言っても葛飾北斎と歌川広重でしょう。ということで2人の事は後ほど。展示の順番としては最後になるけれど歌川国芳の「鬼若丸の鯉退治」の鯉の迫力がスゴイ。どんだけデカイんだよと思うけれど(笑) そして幻の天才絵師と言われる歌川国政。芝居好きで役者の大首絵に才能を発揮。同じ役者を描いても写楽とは全く違った表情を切りとっている。生き生きとした描写もさることながら「市川蝦蔵の暫」の構図は今で言うポスターという感じ。斬新で全く古くない。グラフィック・デザインのよう。暫は江戸のヒーローで、困っている人がいると「暫!」と駆けつけて問題を解決していくのだそうで、歯を食いしばった横顔の迫力は素晴らしく、右側から斜めに描かれた四角の紋の袖は画面の3分の1を占めている。これは斬新で面白い。でも、彼が絵師として輝いたのはデビューして1年半ほど。時代の流れで売れるものをとの版元の要求に応えるうち、当初の輝きは失われてしまったのだそう。いつの時代もそうだけれど、売れるものとやりたい事が相容れないのは切ない。
北斎はやはり違う。上手く言えないけれど絵からオーラを感じる。遠くから見ても絵に惹きつけられる。やはり「冨嶽三十六景 山下白雨」が素晴らしい。有名な「凱風快晴」と同じ構図の赤富士だけど、ここでは白雨=にわか雨を表現していて右下には雷が描かれている。富士の美しい姿と雷が印象的。空の藍のぼかしもいい。「桔梗にとんぼ」も好き。繊細かつ大胆に配置された桔梗の描写が素晴らしく、花の紫は品がいい。その桔梗に向かって近づくとんぼの赤が画を引き締めている。羽根が少しちぎれているのが完璧すぎる絵の抜きになっているように思う。「雪松に鶴」がいい。うねった松の木を画面の中央に描き、その上に2羽の鶴を配置。鶴の羽根の描写も素晴らしいけれど、手前の鶴の羽根の青と、奥の鶴のくちばしの青がいいアクセントとなっている。わずかに空いた左の余白に墨のぼかしがほどこされているのがいい。
歌川広重の「五拾三次」シリーズ「油井 薩埵峰」「丸子 名物茶店」「庄野 白雨」が素晴らしい。「五拾三次」シリーズは今まで何度か見ているけれど、色の鮮やかさにビックリ! こんなに鮮やかだったとは・・・。特にベロ藍の鮮やかさがすばらしい。歌麿がこれを好んで多用していた事が分かる。「丸子 名物茶屋」には弥次喜多が描かれている。これは初刷りなのだそうで、「庄野 白雨」も傘に書かれた”竹のうち”という版元の名前から初刷りだと分かるのだそう。実は歌麿は風景画家として相当の自信を持っていたそうで、北斎に対しても尊敬と同時にライバル心を持っていたのだそう。でも、国政と同様に版元からの色の変更や、人物の書き加えなどの注文に傷つき、風景は描かないと宣言したのだそう。でも、ペリー来航により警備を強化するため砲台を設置するなど、江戸の風景が失われていくことを嘆いた広重は、後に「名所江戸百景」シリーズを描くことになる。そのシリーズの一枚「深川木場」は雪景色の木場を描く。絵の中央に縦に描かれた川の藍が利いている。その藍が凍った水の冷たさを感じさせる。
そして本日の一枚! 「両国花火」が素晴らしい。画面半分よりやや下に隅田川を描き、そこに掛けられた両国の大橋の上にはたくさんの人がシルエットで描かれている。川にはたくさんの屋形船。画面中央に川から打ち上げられた花火の軌道を描き、右上に花火が配置されている。星型とも花形とも見える花火の表現がかわいい。空の墨のぼかしと、川の藍のぼかしの対比が素晴らしいけれど、空のぼかしが入っているのは初刷りの証しとのことで、後の版では省略されているのだそう。空のぼかし部分には木目まで見えてこれは素晴らしい! 橋の欄干や柱、その上の人物達、船頭の躍動感、屋形船の賑わい、何一つ手を抜いていない見事な仕上がり。同時にこのぼかしの表現は彫師、刷師の腕の素晴らしさにも感服。当時江戸ではコレラが蔓延し多くの人が命を落としたことから、何か庶民に楽しみをと始められた両国の花火大会。広重はこの絵を仕上げて1ヵ月後に亡くなったのだそうで、まさに江戸庶民に捧げた渾身の一枚。この絵に惹きつけられるのは当然なのかもしれない。素晴らしい!
とにかくこれだけ多数の作品が色もほとんど褪せずに残っているのは素晴らしい。これは本当に見てよかった! 素晴らしい。
★江戸東京博物館:2008年10月7日~11月30日
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