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『イラン式料理本』見た。監督の妻、妹、母親など、身近な女性達が料理をしなから、自身の結婚生活や、人生観などを語る。イランの今が見えて来るって説明だったけど、これはそのまま日本の現実でもある。男女の考え方のズレ、年配夫婦と若い夫婦、妻の悩みは同じでも、結果の違いが現代的。良かった。 Posted at 12:39 AM
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イラン映画。モハマド・シルワニー監督が、自身の母、妻、妹など、身近な女性たちが料理をする姿を通して、イランの現実を描くという感じかな・・・ 監督の作品を見るのは初めてで、お名前も存じ上げなかったのだけど、主にインディペンデント系のドキュメンタリー作品を多く撮られている方なのだそう。
見たいと思ったのは、アスガー・ファルハディ監督の『別離』(感想は
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公式サイトのショーレ・ゴルパリアンさんのコラムによると、ちょうど『アルゴ』の舞台となった1979年のイラン革命前後で、イラン映画は大きな転換を迎えたのだそう。革命前は夢を描いたり、娯楽的な作品が多かったけれど、革命後は現実を描く作品が増えたのだそう。その中で"食事"は大きな意味を持っているとのこと。シュルワーニ監督がこの作品を撮ろうと思ったのは、「本作は、イランの女性たちへの賛歌だ。(中略)台所は、私の母が30年以上も過ごした場所だ。そして私は、台所の細部がどうなっているか、今までほとんど知らずにいた」とご本人が語っていることからも、イランの女性を語る上で食事を避けて通れないと考えたからなのでしょう。
料理を作る姿を撮影しながら、監督が女性たちにインタビューするという形。それぞれ料理が完成し、食事を終えるまでを描いている。1人ずつ完結するのではなくて、交互に差し込まれていて、同時進行しているような感覚。母の友人、義母、妻、妹、友人の母、母、伯母(ほぼ登場順)の7人の女性たちにインタビューしているけれど、友人の母は99歳と高齢のため料理は作らないし、義母のシーンでは途中で姑が登場したりする。後に、それぞれの夫や家族も登場する。99歳の友人の母、義母の姑を第一世代とすると、母、義母、伯母、母の友人が第二世代、妻、妹が第三世代という構図になっているのも面白い。
一応、簡単に登場人物と料理を紹介すると・・・
母の友人:14歳で40歳の夫に嫁いだ。料理:豆のピラフ
義母:主婦暦35年5人の子供あり。料理:ドルテ、クフテ(巨大肉団子) 所要時間:5時間
妻:現代女性代表 料理:缶詰のシチュー
妹:双子の息子あり。大学生に通い始めた。料理:ナスの煮込み 所要時間:5時間
友人の母:9歳で結婚。料理:作らない
母:主婦暦40年。料理:ラマダンの豪華料理
伯母:13歳で結婚。料理:宝石ピラフ(ラマダンの豪華料理の一品)
なかなか興味深いラインナップ!
最初は皆、料理の説明から入る。材料や作り方など、饒舌な義母は料理の先生のような感じ。この義母が作った料理は伝統料理なので、結果的にとっても時間がかかっているけど、姑も言うとおり手間のかかる料理だけど、見ているととっても手際が良くて、時々愚痴を交えたり、姑に昔嫁いびりをされたと口撃したりと、見ていて飽きない(笑) 「どうしてあんなにいじめたんですか?!」などと、かなり強い口調で詰め寄ったりするので、ドキドキするけど、そこは長年の絆があるのでしょう。ケンカしている気はしないし、今ではわだかまりはないと語る姿は逞しい。監督の身近な女性が多いので、語りやすいことはあったと思うけれど、年配の女性たちはやはり言葉を飲み込む部分が多かったように思うけど、第二世代の女性の中では、この義母が一番オープンに語ってくれた印象。
第一世代、第二世代の女性たちは、幼い頃に嫁いで、義母に料理を教わったと話す。もちろん、実家でも教わっていたのだろうけれど、婚家に従うってことなのかな。義母と姑のやり取りにもあるとおり、それは厳しいものだったのかもしれないけれど、女性は結婚して家事をするという選択肢しかなかった時代、その家の味やルールを守るというのは、大切なことかもしれない。ただ、義母は息子の嫁に料理をさせることはないのだそう。この嫁は登場しないし、詳しい説明もなかったように思うので、何故この嫁が料理をしないのかは不明。おそらく仕事をしているのでしょうけれど、すでに帰宅している様子なのに手伝いにも来ていない。義母が特にさせようとしていないのは、自分の領域に入れたくないって部分もある気もするけれど、やっぱり同じ苦労をさせたくないという思いはあるのでしょう。そんなことを言っていたように思う。そして、時代の流れということなんだと思う。
現代女性を代表するのが妻と妹。自身も彼女たちの年代に近いので、一番感情移入した。美しい妻は仕事を持っていたと思うけれど、とにかく料理はしたくないという印象。どうして自分の時間を家庭に捧げなきゃいけないのかという発言もあったし、今回の料理も缶詰のスープ。監督との会話では、以前監督の友人が家に来た時にも缶詰料理を出し、友人から料理の腕をホメられると缶詰だと答え、ドン引きさせてしまったらしい。まぁ、確かに缶詰使ってもいいけど、せっかくホメてくれたのだから話し合わせておけよと思うけれど、一見妻の返事に対して文句を言っているように思える監督の言葉の中に、料理を作らない不満も感じてしまうのは事実。そして、妻の言う連絡もなしに突然連れて来られて、作るのに何時間もかかる料理なんて出せないというのはとっても分かる! 何人来たのか分からないけれど、冷蔵冷凍技術が進んだとはいえ、普段からお客さんの来る家じゃなければ、そもそもそんなに材料そろっていないし! この妻の肩を持つわけじゃないけど、全ての旦那さんたちは家事や料理の大変さが、基本分かっていない様子・・・
夫の理解が足りないと一番感じるのが、監督の妹。双子の息子を育てながら、大学に通っている。最近、大学に通い出したようなので、おそらく何か思うところがあったのでしょう。妹の料理は伝統的なイラン料理で作るのに5時間かかった。正直、妹の手際はあまりよいとは言えない。妻と彼女以外はベテラン主婦だからというのを除いても、手際はよくないと思う。自分でもそれは感じている。多分、料理はあまり好きではないのだと思う。妹は妻ほど主張は激しくないけれど、やはり家事だけで人生が終るのは嫌だと感じている。だから、料理に身が入らないのかもしれない・・・ 夫は女性は家事をするものという考え方。大学で習ったのだそう(笑) この料理に何時間かかったと思う?という質問は、どの夫にもしていたけれど、かかった時間を伝えていたのは、妹の夫だけだったような・・・ 5時間だと答えると、時間がかかるのは本人の能力が足りないからだという夫∑(*゚ェ゚*) 確かにそういう部分はあるし、何度も言うけど妹は手際は良くない。夫婦だから、料理以外にも感じていることなのかもしれないけれど、あまりに冷たいと感じた。夫の言うとおり、能力が足りないのであれば、妹は料理に向いてないわけだし、監督の妻のように料理自体が嫌いな人もいる。嫌いなことを女だからという理由でさせられていて、一切の感謝もなく、おいしいとホメられたこともなく、文句ばかり言われていれば、そりゃやる気も出ないよと!
と、まぁ嫁にも行っていないのに熱くなっておりますが(笑) では、女性たちが旦那さんの仕事の大変さや苦労をどれだけ分かっているかと言われれば、お互い様なのかもしれない。事実、第二世代の夫たちは、妻への感謝の言葉を口にするし、監督の母の夫、つまり監督の父は、妻が大変な時には自分が料理をすることもあると言う。妻を愛してると真面目に答える旦那さんもいる。これは前述のショーレ・ゴルパリアンさんのコラムによれば、イランでは大変珍しいことだそう。監督が身内や友人であるということもあるだろうし、多少自分を良く見せようという意識もあるかもしれないけれど、例え5時間かかった料理を、1時間くらいしかかかっていないと思われていたとしても、喜んでくれさえすれば作りがいもあるし、素直にうれしいと感じる。
ゴルパリアンさんによると、イランでは結婚式や宗教的なお祭りに、女性が集まり料理を作りながらコミュニケーションを図るという習慣があったそうで、ホームパーティも多く、長い時間かけて料理をすることが多かったのだそう。作品に登場した第一、二世代の女性達のほとんどは、10代前半で結婚しているわけだから、狭い社会の中でそういうコミュニケーションの場というのは必要だったのだと思う。でも、『別離』の記事書いた時に調べてみたところ、現在イランでは女性の大学就学率が男性を抜いたそうだし、共働き家庭も増えているとのことだった。となると、必然的に毎日5時間もかかる料理をしている時間はないし、あえてコミュニケーションの場を持つ必要もないのかも。ただ、人脈が広がったことと、関係が蜜になることは別だし、親戚や友人たちとコミュニケーションの場を持つことは大切なことだと思う。ただ、それを煩わしく思う部分もあったりするわけで・・・ 特に、妹や妻のように料理することを負担だと思っているのであれば、参加するのも苦痛かも。事実、若い世代の夫婦は外食が増えているのだそう。
見ている間も、こうして記事書いている間も感じていたことは、イランも日本も同じだなということ・・・ これはあくまで女性の側の言い分を、監督が一方的に聞いたという形で作られている。監督自身が質問している内容も、女性の側に立った質問が多かったように思う。何が大変かとか・・・ 私自身は母にも妻にもなったことないけれど、やっぱり女性だから母親から家事については躾けられてきた。洗濯も掃除も高校を卒業してからは自分でしていたし、高校時代もお弁当箱を洗い忘れたら、翌日のお弁当はなかった。弟のお弁当は母親もしくは、私が洗っていた。母親の留守中に雨が降ってきても、洗濯物を取り込まなければ叱られるのは自分であって、弟は決して叱られなかった。それは、女性が嫁に行くからであって、嫁ぎ先で恥をかかないようにという親心であったろうと今では思うけれど、女性=家事をする人、男性は何もしなくてOKという考え方については、やっぱり違和感がある。監督自身は、フェミニストになるつもりはなかったと語っているけれど、目線としては全体的に女性に優しかったように思う。でも、妻には本音が出てしまっているのが興味深い。
前述した理由の他にも、この映画を見てみたいと思ったのは、イランがイスラム教の国だから。イスラム教について詳しくはないので、あくまでイメージとしてだけれど、思い浮かぶのは男尊女卑。だから、第二世代の夫たちが妻への感謝や愛情を口にするのが意外だった。まぁ、リップサービス的な部分もあるだろうし、前述したとおり、自分をいい人に見せたいという部分もあるかもしれないけれど、珍しいことらしいので。監督自身は妻に対しては、少し不満があるようだし、妹の夫の男尊女卑ぶりについては、見ていて腹が立ったので、やっぱりこれは年の差なのかもしれない。それぞれの年齢というよりも"夫婦年齢" 第二世代の夫婦たちにも、きっと若い頃にはいろいろあったのだ思う。ただ、それらを乗り越えて来たからこそ、相手に対して感謝する気持ちが芽生えたのかも。
映画は、それぞれのその後が紹介されて終る。99歳の友人の母はその後100歳で亡くなったのだそう。第二世代の妻たちは相変わらず元気に料理を作り続けている。第三世代の監督と妻は離婚。妹も離婚を決意したというセリフで終る。監督夫婦については、家事をしたくない妻と、本音では少しは家事をしてほしい監督の間でのズレが、おそらくいろいろな部分に広がってしまっていた印象。監督自身が妻に対して愛情が残っているのかは、分からなかったのだけど、妻の方は冷めてしまっている感じだった。監督の言葉では「妻は僕と離婚した」という言い方だったので、おそらく妻の側から言い出したのかなと・・・ 妹の方はねぇ・・・ イランの風習がそうなのであれば、一方的に夫が間違っているとは言えないけれど、少なくとも21世紀の日本に生きる独身OLちゃんとしては、5時間かけて料理を作った妻にねぎらいの言葉もなく、時間がかかるのは本人の能力不足だと言い放ち、妻が1人後片付けをする横で子供たちと椅子座り手伝いもせず、コップを取ってと頼んでいるのに取らない息子を叱るでもなく、その様子が撮影されているからなのか、別の部屋に息子たちを連れて引き上げてしまうに至っては、こんな男とは離婚しちゃえと思ってしまう。イヤ、夫も手伝うべきとかいう以前に、思いやりがなさ過ぎる! 考え方は人それぞれだから、男は家事をしないという考え方を全否定する気はないけれど、困っているからお願いしているのであって、家事に手を出さないから助けないというのは違うだろうと! コップくらい取ってあげればいいのに・・・ そうすれば、明日もまた5時間かけて料理する気になるのに・・・ と、ちょっと個人攻撃みたくなってしまった(笑)
男性だろうが、女性だろうが、生きていくには食べなきゃならないわけで、だったらおいしく食べたいってことで、料理が生まれたんだよね?きっと・・・ そもそもは、おいしく食べたい、食べさせたいという発想だった料理が、誰かの負担になってしまうのであれば、外食にするとかレトルトや缶詰を使うという選択肢があってもいいのかなと思う。伝統料理が廃れてしまうという懸念はあるし、それじゃ寂し過ぎないかという気もする。おいしく食べさせたいというのは愛情だからね・・・ ただ、共働きで疲れていて、料理も得意でなかったら、やりたくないと思う気持ちは分かる! 時代が変わり、特に女性の生き方が変わった以上、柔軟な発想は必要なんだと思う。妹の夫のような考え方の人は、家事が大好きで専業主婦になりたい女性を妻にすればいいのだと思うし、そういう女性も間違いなくいる。生き方はそれぞれだから、それを時代遅れとも思わない。愛した女性が料理をする時間もないし、したくないと思っていて、自分がそれに賛同できれば、その女性と結婚すればいいわけで・・・ そして、料理や家事だけが結婚生活ではないと思うし・・・ きっと他にも問題が出てくるのだと思う。それらを一緒に乗り越えられないのならば、続けてはいけないわけだからね・・・
と、なんだかダラダラ書いた割には、まとまらないなぁ
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公式サイトがカワイイ! 各カテゴリーのアイコンが動いたり凝ってる! 豆のピラフのレシピもある
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