・・・「春にして君を離れ」読了・・・
ずっと読んでたアガサ・クリスティー「春にして君を離れ」読了!うーん… 上手く言葉に出来ない。哀しくもあり、切なくもあり、失望もあるけど、結局そういうものかもしれないと思ったり… 夫婦の話しであり、家族の話しだけど、"自分"の話し。気づくと読み手も自分と向き合っている。さすが! Posted at 08:06 PM
「春にして君を離れ」をはじめとた恋愛小説は、ミステリーと思って買った読者を失望させないために、メアリ・ウェストマコット名義で出版されたとか。なるほど、素敵☆ Posted at 08:10 PM
*ネタバレありです! 結末にも触れています!
本を読むのは大好きなんだけど、最近はなかなか時間が取れない・・・ 集中してしまえばあっという間なんだけど、ちょっと間が開いちゃうと結構放置しちゃったり。この小説は、もう何年も前にBSか何かでアガサ・クリスティー特集の番組で紹介されていたので、気になって購入。ずーっと放置しちゃってたw
「第2次世界大戦直前、イギリスの田舎町の弁護士の妻ジョーンは、病気の娘を見舞うためバグダッドへ行った帰路、汽車の遅れでテル・アブ・ハミドで足止めを食ってしまう。偶然にも再会した女学校時代の友人ブランチの何気ない一言が気になり、1人で過ごす長い時間、家族のこと、自分のことに思い巡らす。すると、今まで思っていたのとは違う面が見えてきて・・・」という話。うん! これはおもしろい!!
主人公のジョーンは自分は家事も子育ても完璧な主婦だと思っていた。イギリスの中産階級の比較的裕福な家庭の妻なので、メイドと女性料理人を雇っているため、いわゆる家事自体はしないけれど、それらをコントロールするのが、この地位の妻の役目。料理人が多少愚痴ってきても、見事にコントロールしていると思っている。夫のロドニーは最近疲れているようだけれど、結婚当時牧場を経営したいなどと言っていたが、先祖からの仕事である弁護士を継がせたのは正解だったし、3人の子供達も世間の誘惑から守ってきた。自分は家族を愛しているし、家族からも愛されている。完璧な主婦で完璧な人生! でも・・・
2個目のtweetにも書いたとおり、この作品はメアリ・ウェストマコット名義で発表され、数十年間もアガサ・クリスティーの作品であることは隠されていた。理由もtweetに書いたとおり。確かに誰も殺されないけど、これ立派なミステリーかもしれない!
読み手も最初のうちは新聞や雑誌に載っている身の上相談を読んでるような気持ちで、私は有能な主婦で、夫や子供達を愛し、彼らが間違った道に進まないように導いてきたという論調に、イヤイヤそれは旦那さんや、子供達から見たらそうではないんじゃない?なんて思いながら読んでいる。ジョーンは決して嫌な人ではないんだけど、この思い込みの激しさはちょっと・・・ なんて思っていると、そのうちジョーン自身が「あら?」っと思い始める。ロンドンを立つ時、自分を見送った後のロドニーの後姿は、開放感あふれるものではなかったか? バーバラとその夫ウィリアムの何か隠しているような態度は? その度、ほらやっぱり迷惑がられているじゃない!とか、ちょっと勝ち誇った気持ちで読んでいる。
その内、ジョーンは癌で亡くなった近所の主婦のことを思い出す。夫が横領事件を起こし逮捕されたあげく、出所した夫と子供達の生活を支えるため働きづめ、ついには癌で命を落とす。なんという、みじめな一生と哀れんでいた女性。でも、その女性こそロドニーが愛した人ではなかったか・・・ というところまで思い至る。ここまでくると、読んでいる側も、少し不安になってくる。自分が良かれと思っていしていたことが、実は相手にとっては迷惑だったことはなかったか? 自分は相手を見たいようにしか見ていなかったのではなかったか? ジョーンと同じように考え始めてしまう。この頃になると、夢中になってページをめくる手が止まらないw
そして、灼熱の砂漠の中、ジョーンは光を得る。そこに至るまでは、追いやっても追いやってもよぎる思いにイライラしつつ、とうとう見たくなかった真の自分と向き合うことになる。その苦痛の描写がすさまじく、こちらもジョーンと同じく気を失いそうになる。そして、苦痛を乗り越えた後、実にスッキリとまるで別人のようになったジョーンの姿に、読み手としては感動を覚える。そうそう、自分もこの境地になりたいとすら思う。ところが・・・
ロンドンに向かう列車の中で、ある貴婦人と同室になる。ジョーンは彼女に請われるままに、自らに起きた体験を語る。貴婦人はそれは素晴らしいことだと言われるけれど、何かかジョーンの中をよぎる。ロンドンに着いて長女と食事。ジョーンは長女の瞳に自らへの冷たい思いを見てしまう。そして、自宅へ戻ったジョーンには、2つの選択肢が生まれていた。新しい自分に生まれ変わる未来、今までの自分を貫き通す未来。ジョーンの選択は後者だった。この選択は自らの意思でしたというよりは、気持ちが自然とそちらに向かったように描かれているけど、実際作者の言いたいことは人は変わらないということなのかな・・・ 今回の旅の間に自分が思った"本当の自分"や相手の"本当の姿"は、やっぱり妄想だったのだと思わないと、ジョーンは生きていけないってことかも? 気づかなかった方が幸せってことだってある。ここで終われば残念な感じだなでも済むのだけど、もう一ひねりしてくる。
今まではずっと、ジョーンを追いかけていた視点は、最後にロドニーの視点になる。読んでいる側には、当然ジョーンが妄想だと思い込んだことが事実であることは分かっているけど、ロドニー視点でそれが立証される。ロドニーのジョーンに対する思いは、ジョーンの回想にもあったとおり"リトル・プア・ジョーン"(かわいそうなジョーン)なのだけど、それは最後の一言で別の意味を持ってくる。「君はこれからもずっと1人だ。どうかそれに気づきませんように」とロドニーは思うのだけど、一見優しいこの一言の残酷さったない。だって夫婦なんだから、ロドニーにだって責任があるじゃない! ジョーンは確かに思い込みが激しくて、見たい世界しか見ず、狭い視野の中で判断し、夫や子供達にその価値観を押し付けて来た、だったらそれは違う言ってあげればよかったのに、ロドニーはそれをしなかった。だったら、ロドニーだって同じじゃないか。ということ・・・ 結局、人は誰でも見たいものしか見ないってことかと・・・ 完璧な人間はいない。
この本自体の出版当時の評判については不明。なので、ご本人の懸念どおり、アガサ・クリスティー名義で出版されていたら、殺人が起きないと失望したのかも分からない。自分はアガサ・クリスティー名義でしか知らないわけだし、ミステリーではないことを承知で読んだ。正直、最初はミステリーじゃなくておもしろいのかな?と思いながら読んだけど、さすが読み手を惹きつける! 何度も言うけど、ある意味ミステリーだしw
というわけで、オススメ!
http://twitter.com/maru_a_gogo
ずっと読んでたアガサ・クリスティー「春にして君を離れ」読了!うーん… 上手く言葉に出来ない。哀しくもあり、切なくもあり、失望もあるけど、結局そういうものかもしれないと思ったり… 夫婦の話しであり、家族の話しだけど、"自分"の話し。気づくと読み手も自分と向き合っている。さすが! Posted at 08:06 PM
「春にして君を離れ」をはじめとた恋愛小説は、ミステリーと思って買った読者を失望させないために、メアリ・ウェストマコット名義で出版されたとか。なるほど、素敵☆ Posted at 08:10 PM
*ネタバレありです! 結末にも触れています!
本を読むのは大好きなんだけど、最近はなかなか時間が取れない・・・ 集中してしまえばあっという間なんだけど、ちょっと間が開いちゃうと結構放置しちゃったり。この小説は、もう何年も前にBSか何かでアガサ・クリスティー特集の番組で紹介されていたので、気になって購入。ずーっと放置しちゃってたw
「第2次世界大戦直前、イギリスの田舎町の弁護士の妻ジョーンは、病気の娘を見舞うためバグダッドへ行った帰路、汽車の遅れでテル・アブ・ハミドで足止めを食ってしまう。偶然にも再会した女学校時代の友人ブランチの何気ない一言が気になり、1人で過ごす長い時間、家族のこと、自分のことに思い巡らす。すると、今まで思っていたのとは違う面が見えてきて・・・」という話。うん! これはおもしろい!!
主人公のジョーンは自分は家事も子育ても完璧な主婦だと思っていた。イギリスの中産階級の比較的裕福な家庭の妻なので、メイドと女性料理人を雇っているため、いわゆる家事自体はしないけれど、それらをコントロールするのが、この地位の妻の役目。料理人が多少愚痴ってきても、見事にコントロールしていると思っている。夫のロドニーは最近疲れているようだけれど、結婚当時牧場を経営したいなどと言っていたが、先祖からの仕事である弁護士を継がせたのは正解だったし、3人の子供達も世間の誘惑から守ってきた。自分は家族を愛しているし、家族からも愛されている。完璧な主婦で完璧な人生! でも・・・
2個目のtweetにも書いたとおり、この作品はメアリ・ウェストマコット名義で発表され、数十年間もアガサ・クリスティーの作品であることは隠されていた。理由もtweetに書いたとおり。確かに誰も殺されないけど、これ立派なミステリーかもしれない!
読み手も最初のうちは新聞や雑誌に載っている身の上相談を読んでるような気持ちで、私は有能な主婦で、夫や子供達を愛し、彼らが間違った道に進まないように導いてきたという論調に、イヤイヤそれは旦那さんや、子供達から見たらそうではないんじゃない?なんて思いながら読んでいる。ジョーンは決して嫌な人ではないんだけど、この思い込みの激しさはちょっと・・・ なんて思っていると、そのうちジョーン自身が「あら?」っと思い始める。ロンドンを立つ時、自分を見送った後のロドニーの後姿は、開放感あふれるものではなかったか? バーバラとその夫ウィリアムの何か隠しているような態度は? その度、ほらやっぱり迷惑がられているじゃない!とか、ちょっと勝ち誇った気持ちで読んでいる。
その内、ジョーンは癌で亡くなった近所の主婦のことを思い出す。夫が横領事件を起こし逮捕されたあげく、出所した夫と子供達の生活を支えるため働きづめ、ついには癌で命を落とす。なんという、みじめな一生と哀れんでいた女性。でも、その女性こそロドニーが愛した人ではなかったか・・・ というところまで思い至る。ここまでくると、読んでいる側も、少し不安になってくる。自分が良かれと思っていしていたことが、実は相手にとっては迷惑だったことはなかったか? 自分は相手を見たいようにしか見ていなかったのではなかったか? ジョーンと同じように考え始めてしまう。この頃になると、夢中になってページをめくる手が止まらないw
そして、灼熱の砂漠の中、ジョーンは光を得る。そこに至るまでは、追いやっても追いやってもよぎる思いにイライラしつつ、とうとう見たくなかった真の自分と向き合うことになる。その苦痛の描写がすさまじく、こちらもジョーンと同じく気を失いそうになる。そして、苦痛を乗り越えた後、実にスッキリとまるで別人のようになったジョーンの姿に、読み手としては感動を覚える。そうそう、自分もこの境地になりたいとすら思う。ところが・・・
ロンドンに向かう列車の中で、ある貴婦人と同室になる。ジョーンは彼女に請われるままに、自らに起きた体験を語る。貴婦人はそれは素晴らしいことだと言われるけれど、何かかジョーンの中をよぎる。ロンドンに着いて長女と食事。ジョーンは長女の瞳に自らへの冷たい思いを見てしまう。そして、自宅へ戻ったジョーンには、2つの選択肢が生まれていた。新しい自分に生まれ変わる未来、今までの自分を貫き通す未来。ジョーンの選択は後者だった。この選択は自らの意思でしたというよりは、気持ちが自然とそちらに向かったように描かれているけど、実際作者の言いたいことは人は変わらないということなのかな・・・ 今回の旅の間に自分が思った"本当の自分"や相手の"本当の姿"は、やっぱり妄想だったのだと思わないと、ジョーンは生きていけないってことかも? 気づかなかった方が幸せってことだってある。ここで終われば残念な感じだなでも済むのだけど、もう一ひねりしてくる。
今まではずっと、ジョーンを追いかけていた視点は、最後にロドニーの視点になる。読んでいる側には、当然ジョーンが妄想だと思い込んだことが事実であることは分かっているけど、ロドニー視点でそれが立証される。ロドニーのジョーンに対する思いは、ジョーンの回想にもあったとおり"リトル・プア・ジョーン"(かわいそうなジョーン)なのだけど、それは最後の一言で別の意味を持ってくる。「君はこれからもずっと1人だ。どうかそれに気づきませんように」とロドニーは思うのだけど、一見優しいこの一言の残酷さったない。だって夫婦なんだから、ロドニーにだって責任があるじゃない! ジョーンは確かに思い込みが激しくて、見たい世界しか見ず、狭い視野の中で判断し、夫や子供達にその価値観を押し付けて来た、だったらそれは違う言ってあげればよかったのに、ロドニーはそれをしなかった。だったら、ロドニーだって同じじゃないか。ということ・・・ 結局、人は誰でも見たいものしか見ないってことかと・・・ 完璧な人間はいない。
この本自体の出版当時の評判については不明。なので、ご本人の懸念どおり、アガサ・クリスティー名義で出版されていたら、殺人が起きないと失望したのかも分からない。自分はアガサ・クリスティー名義でしか知らないわけだし、ミステリーではないことを承知で読んだ。正直、最初はミステリーじゃなくておもしろいのかな?と思いながら読んだけど、さすが読み手を惹きつける! 何度も言うけど、ある意味ミステリーだしw
というわけで、オススメ!
http://twitter.com/maru_a_gogo