'10.05.16 「国宝燕子花図屏風展」@根津美術館
最近いろいろ忙しくて、なかなか美術館に行けない。企画展はもちろんだけど美術館のあの落ち着いた雰囲気と、スペシャルな感じが好き。アートに触れるのは心が豊かになって幸せになる。今回は尾形光琳の「国宝燕子花図屏風展」を中心とした琳派のコレクションを一挙公開するという企画展。表参道にある根津美術館は東武鉄道創始者の根津嘉一郎氏が設立した美術館。日本・東洋の古美術を約7,000点所有。平成18年から3年半かけて新創工事を行った。その新創記念特別展 第5部。
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入口のポスター
【展示室3 仏教彫刻の魅力】展示室は1、2階で6室。それぞれそんなに広くない。入口入ってすぐのホールも展示室の1つで、ここでは主に中国の仏像を中心に展示。気になったのはクシャーン時代の弥勒菩薩立像。このお顔は完全に男性。仏像を作る際にはたしか33の決まりごとがあって、その中に両性具有であるという項目があった気がする・・・ なので、仏像はどこか中世的なお姿なのかなと思っているのだけど。クシャーン時代(クシャーナ朝)は、ガンダーラ仏教美術が栄えた。このガンダーラ美術はギリシャ美術の影響を受けているとのことで、このお顔も彫りが深くギリシャ彫刻っぽい。平安時代に作られた地蔵菩薩のお顔と比べると興味深い。やっぱり人は自分達に近い姿に親しみを感じるのかも。
もちろんメインは展示室1、2の企画展だけど、2Fのコレクション展も見たので、先に軽くご紹介。2Fには3つの展示室がある。それぞれそんなに広くなく、3方の壁にそって展示ケースがあるので、並んで順番に見る感じ。【展示室4 古代中国の青銅器】は紀元前13世紀のものなど、スゴイとは思うけれど、あんまりグッとくるものはなかったので流し見。
【展示室5 花模様の器】 は名前のとおり花モチーフの器が並ぶ。肥前が多い。肥前の「色絵梅文変形皿」は形が変わっててかわいい。青い小さな花模様。古清水の「色絵秋草文三段蓋物」は青と緑の色合いがイイ。ここでの見ものは野々村仁清作「御深井釉菊透文鉢」と「百合形鉢」 仁清といえば淡い色合いの透明感のある絵付けが思い浮かぶけれど「御深井釉菊透文鉢」は淡色。といっても釉などで微妙な変化を起こしている。直径25~30cmくらいのどんぶり型の器は大胆に菊の型抜きしてある。この花型がポップ。これは今でもぜんぜん古くない。江戸時代の作品とは思えない。「百合形鉢」は文字とおり百合モチーフ。百合は情緒に欠けるとされており、江戸後期にならないとモチーフとして使われなかったのだそう。仁清が最初に使ったというわけではないだろうけれど、モチーフとして新しく斬新だったであろう百合を使うというのはさすがという感じ。
【展示室6 燕子花図屏風の茶】昭和6年に「燕子花図屏風」を披露するために催したお茶会を再現。展示室奥に茶室を展示。お茶のことはあまりよく分からないのだけど、茶室というのは本当に空間に無駄がない。この展示室で良かったものを2点ご紹介。「芽張柳蒔絵棗」 棗(なつめ)とはお抹茶を入れる茶器。芽張柳とは芽生えようとしている柳。たぶんその柳の芽の細かい模様が、ちょっと赤みのある棗にビッシリと描かれている。これはかわいい。箱には表千家六代覚々斎が”大出来”と書いたとのことで、この棗の出来栄えの素晴らしさを裏付けている。さらにこれ”織部所持”との記載もあるそう。あの古田織部が持っていたのかと思うと感慨もひとしお。そしてもう1点が小堀遠州作「茶杓 共筒 銘 五月雨」 茶杓とはお抹茶をすくう木製のお匙のようなもの。10~15cmくらいの耳かきの大きい版みたいな形。やや飴色でスッキリした姿が美しい。ふしの部分に小さな虫食いを見つけた遠州がこれを星に見立てて「五月雨 星ひとつ見つけたる夜のうれしさは 月にもまさるさみたれのそら」という古歌を銀粉字形で筒書としている。その独特の書体もおもしろい。さすが茶人ビッグネーム小堀遠州。
【展示室1、2 国宝燕子花図屏風】さて前置きが長くなったけど、いよいよ本日メイン「国宝 燕子花図屏風」のある展示室1、2のご紹介。ここは琳派とその時代のビッグネームの作品が並ぶ。野々村仁清「色絵山寺図茶壷」 本阿弥光悦の「和歌色紙」など、さすがの存在感。光琳の弟緒形乾山の「銹絵梅図角皿」の四角いお皿の外側に梅の花をデザイン化した模様を描くなど、斬新で遊び心ある器はさすがという感じだけど、彼の絵「ぶりぶり毬杖図」がかわいい。毬杖というのは先端に円柱状もしくは多角形の道具をつけた杖で毬を打ち合うポロのような球技で、ぶりぶりというのはそれを紐につけたもの。薄い茶色などの暖色系で描かれた毬がかわいい。その他おもしろかったのは酒井抱一の「七夕図」 これは乞巧奠という、吉凶を占う際に用いられるもの。角盥に水をはり、その上に麻の糸を張り、五色の糸を掛けるというもの。これ以前「皇室の名宝展」で、葛飾北斎がスイカを角盥、スイカの皮を糸に見立てて描いたものを見たことがある。その正解版とでも言いますか・・・。酒井抱一の絵は個人的に大好きな伊藤若冲や光琳などの大胆みたいなものはない気がするけれど、その繊細さと品の良さが好き。この展示の最後の方に鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」がある。これ以前見たことがある気がするのだけど、これは斬新。なんという鮮やかな色彩。右隻に夏、左隻に秋を描いていて、右から左へ水の流れを表現している。その色の濃さ。ランダムに見えて、きちんと計算されて配置された木々。その鮮明な色に圧倒される。そして、それぞれの中央に配された山百合の花の白と、紅葉した葉の赤が効果的。これは今見てもぜんぜん古くない。デザイン化された笹の葉もいい。これはスゴイ。其一は好き。
さていよいよ「国宝燕子花図屏風」について。でも、その前にもう1点(笑) 「誰が袖図屏風」は光琳が活躍する少し前、彼が子供だった時代に描かれた作品。呉服屋なのか、単純に干しているのか分からないけれど、たくさんの着物の柄が大胆で繊細。尾形光琳の実家は、京都の呉服商雁金屋。このような色や柄の様々な着物を毎日見ていたことになる。光琳は初めは狩野派の絵を学んだそうだけど、俵屋宗達や本阿弥光悦に傾倒していったとのこと。この2人のコラボで好きな作品は「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(今回展示なし) これは右から左に向かって羽ばたく鶴を描いた宗達の絵の上に、光悦が書を書いたもの。この宗達の鶴がいわゆるパターン化ということなのかなと思う。幼い頃から親しんだ着物の図案もパターン。そしてそれが本日の1枚「国宝燕子花図屏風」へとつながっていく。これは伊勢物語 第9段 八橋を描いたもの。金地に右隻から左隻に波打つように連続して描かれる燕子花は、実はパターン化されていて、同じパターンを組み合わせて描かれている。それは作業の効率化もあると思うけれど、均整とういうことなんだと思う。一見ランダムに見えても均整がとれたものは、見ていて安心するし落ち着く。大胆かつ繊細。そしてこれグラフィックアートだと思う。この作品の銘は法橋光琳となっており、法橋とは絵師や医師に与えられる官位で、光琳は元禄14(1701)年に法橋になったのだそう。なるほど納得。この作品、何度か見ている気がするけれど、いつ見ても新鮮。さすがだなと思う。
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お庭から見た美術館
というわけで、いろいろ楽しめておもしろかった。そして、この美術館はお庭が素晴らしい。表参道とは思えない静けさと、落ち着いた雰囲気。やや終わりかけだけど、燕子花が咲き乱れる池がスゴイ。是非、散策を。
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チケもかわいい
★「国宝燕子花図屏風展」:2010年4月24日~5月23日
根津美術館
最近いろいろ忙しくて、なかなか美術館に行けない。企画展はもちろんだけど美術館のあの落ち着いた雰囲気と、スペシャルな感じが好き。アートに触れるのは心が豊かになって幸せになる。今回は尾形光琳の「国宝燕子花図屏風展」を中心とした琳派のコレクションを一挙公開するという企画展。表参道にある根津美術館は東武鉄道創始者の根津嘉一郎氏が設立した美術館。日本・東洋の古美術を約7,000点所有。平成18年から3年半かけて新創工事を行った。その新創記念特別展 第5部。
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【展示室3 仏教彫刻の魅力】展示室は1、2階で6室。それぞれそんなに広くない。入口入ってすぐのホールも展示室の1つで、ここでは主に中国の仏像を中心に展示。気になったのはクシャーン時代の弥勒菩薩立像。このお顔は完全に男性。仏像を作る際にはたしか33の決まりごとがあって、その中に両性具有であるという項目があった気がする・・・ なので、仏像はどこか中世的なお姿なのかなと思っているのだけど。クシャーン時代(クシャーナ朝)は、ガンダーラ仏教美術が栄えた。このガンダーラ美術はギリシャ美術の影響を受けているとのことで、このお顔も彫りが深くギリシャ彫刻っぽい。平安時代に作られた地蔵菩薩のお顔と比べると興味深い。やっぱり人は自分達に近い姿に親しみを感じるのかも。
もちろんメインは展示室1、2の企画展だけど、2Fのコレクション展も見たので、先に軽くご紹介。2Fには3つの展示室がある。それぞれそんなに広くなく、3方の壁にそって展示ケースがあるので、並んで順番に見る感じ。【展示室4 古代中国の青銅器】は紀元前13世紀のものなど、スゴイとは思うけれど、あんまりグッとくるものはなかったので流し見。
【展示室5 花模様の器】 は名前のとおり花モチーフの器が並ぶ。肥前が多い。肥前の「色絵梅文変形皿」は形が変わっててかわいい。青い小さな花模様。古清水の「色絵秋草文三段蓋物」は青と緑の色合いがイイ。ここでの見ものは野々村仁清作「御深井釉菊透文鉢」と「百合形鉢」 仁清といえば淡い色合いの透明感のある絵付けが思い浮かぶけれど「御深井釉菊透文鉢」は淡色。といっても釉などで微妙な変化を起こしている。直径25~30cmくらいのどんぶり型の器は大胆に菊の型抜きしてある。この花型がポップ。これは今でもぜんぜん古くない。江戸時代の作品とは思えない。「百合形鉢」は文字とおり百合モチーフ。百合は情緒に欠けるとされており、江戸後期にならないとモチーフとして使われなかったのだそう。仁清が最初に使ったというわけではないだろうけれど、モチーフとして新しく斬新だったであろう百合を使うというのはさすがという感じ。
【展示室6 燕子花図屏風の茶】昭和6年に「燕子花図屏風」を披露するために催したお茶会を再現。展示室奥に茶室を展示。お茶のことはあまりよく分からないのだけど、茶室というのは本当に空間に無駄がない。この展示室で良かったものを2点ご紹介。「芽張柳蒔絵棗」 棗(なつめ)とはお抹茶を入れる茶器。芽張柳とは芽生えようとしている柳。たぶんその柳の芽の細かい模様が、ちょっと赤みのある棗にビッシリと描かれている。これはかわいい。箱には表千家六代覚々斎が”大出来”と書いたとのことで、この棗の出来栄えの素晴らしさを裏付けている。さらにこれ”織部所持”との記載もあるそう。あの古田織部が持っていたのかと思うと感慨もひとしお。そしてもう1点が小堀遠州作「茶杓 共筒 銘 五月雨」 茶杓とはお抹茶をすくう木製のお匙のようなもの。10~15cmくらいの耳かきの大きい版みたいな形。やや飴色でスッキリした姿が美しい。ふしの部分に小さな虫食いを見つけた遠州がこれを星に見立てて「五月雨 星ひとつ見つけたる夜のうれしさは 月にもまさるさみたれのそら」という古歌を銀粉字形で筒書としている。その独特の書体もおもしろい。さすが茶人ビッグネーム小堀遠州。
【展示室1、2 国宝燕子花図屏風】さて前置きが長くなったけど、いよいよ本日メイン「国宝 燕子花図屏風」のある展示室1、2のご紹介。ここは琳派とその時代のビッグネームの作品が並ぶ。野々村仁清「色絵山寺図茶壷」 本阿弥光悦の「和歌色紙」など、さすがの存在感。光琳の弟緒形乾山の「銹絵梅図角皿」の四角いお皿の外側に梅の花をデザイン化した模様を描くなど、斬新で遊び心ある器はさすがという感じだけど、彼の絵「ぶりぶり毬杖図」がかわいい。毬杖というのは先端に円柱状もしくは多角形の道具をつけた杖で毬を打ち合うポロのような球技で、ぶりぶりというのはそれを紐につけたもの。薄い茶色などの暖色系で描かれた毬がかわいい。その他おもしろかったのは酒井抱一の「七夕図」 これは乞巧奠という、吉凶を占う際に用いられるもの。角盥に水をはり、その上に麻の糸を張り、五色の糸を掛けるというもの。これ以前「皇室の名宝展」で、葛飾北斎がスイカを角盥、スイカの皮を糸に見立てて描いたものを見たことがある。その正解版とでも言いますか・・・。酒井抱一の絵は個人的に大好きな伊藤若冲や光琳などの大胆みたいなものはない気がするけれど、その繊細さと品の良さが好き。この展示の最後の方に鈴木其一の「夏秋渓流図屏風」がある。これ以前見たことがある気がするのだけど、これは斬新。なんという鮮やかな色彩。右隻に夏、左隻に秋を描いていて、右から左へ水の流れを表現している。その色の濃さ。ランダムに見えて、きちんと計算されて配置された木々。その鮮明な色に圧倒される。そして、それぞれの中央に配された山百合の花の白と、紅葉した葉の赤が効果的。これは今見てもぜんぜん古くない。デザイン化された笹の葉もいい。これはスゴイ。其一は好き。
さていよいよ「国宝燕子花図屏風」について。でも、その前にもう1点(笑) 「誰が袖図屏風」は光琳が活躍する少し前、彼が子供だった時代に描かれた作品。呉服屋なのか、単純に干しているのか分からないけれど、たくさんの着物の柄が大胆で繊細。尾形光琳の実家は、京都の呉服商雁金屋。このような色や柄の様々な着物を毎日見ていたことになる。光琳は初めは狩野派の絵を学んだそうだけど、俵屋宗達や本阿弥光悦に傾倒していったとのこと。この2人のコラボで好きな作品は「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」(今回展示なし) これは右から左に向かって羽ばたく鶴を描いた宗達の絵の上に、光悦が書を書いたもの。この宗達の鶴がいわゆるパターン化ということなのかなと思う。幼い頃から親しんだ着物の図案もパターン。そしてそれが本日の1枚「国宝燕子花図屏風」へとつながっていく。これは伊勢物語 第9段 八橋を描いたもの。金地に右隻から左隻に波打つように連続して描かれる燕子花は、実はパターン化されていて、同じパターンを組み合わせて描かれている。それは作業の効率化もあると思うけれど、均整とういうことなんだと思う。一見ランダムに見えても均整がとれたものは、見ていて安心するし落ち着く。大胆かつ繊細。そしてこれグラフィックアートだと思う。この作品の銘は法橋光琳となっており、法橋とは絵師や医師に与えられる官位で、光琳は元禄14(1701)年に法橋になったのだそう。なるほど納得。この作品、何度か見ている気がするけれど、いつ見ても新鮮。さすがだなと思う。
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というわけで、いろいろ楽しめておもしろかった。そして、この美術館はお庭が素晴らしい。表参道とは思えない静けさと、落ち着いた雰囲気。やや終わりかけだけど、燕子花が咲き乱れる池がスゴイ。是非、散策を。
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★「国宝燕子花図屏風展」:2010年4月24日~5月23日
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